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ヒロイン  作者: 十矢


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2/7

しっていること

 街にある目印の上に降りる。

 ふわっと竜は着地した。


 その瞬間に淡い光に包まれる。

 旅の疲れを癒やすために、魔力回復のスキルを一部写した結晶の上にいるからだ。

 安定している地域では、こうした回復用の目印が置いてある。


「よかったわ。こうして各地にあるとホント便利よね」

「結晶産業は、使うほどに流通するからな。いい商売なんだろう」

「あなたに、そう言われるとヒトのやっていることもそんなに悪くないわね」


 数秒間回復させると、光がなくなる。

 余計な分にならないように、調整されているようだ。


「本来の結晶の使いかたとは違うが、利用できるものは、なんでも使うだろうヒトっていうのは」


 ヒトが宝石や結晶を手にして、それを加工できるようになって、まだそんなに年月は経っていない。

 けれど、確実に魔力宝石や結晶の利用場面は増えている。

 おそらく百年もしないうちに、これまで発明されなかったものが、たくさんできるのだろう。

 けれど、竜はときどき空をみてどこか懐かしそうな表情をする。

 なんとなくではあるけど、こうした産業の発展や文明が、何百年か何千年か前にも起こっていたのだろう。


 いまとヒトの種類や言葉は違っても、その賑わいや竜たちの存在は、きっと変わらなく続いていて、それを感じとるのではないかと勝手に想う。


 聴くこともできるけれど、以前中央図書館でみた竜に関する資料は、信じがたいものや不思議な現象、考えたくもない歴史などが数あり、もしかしたら想い出したくないこともあるのかもと考えると、聴けないことがよくある。


「ヒトは、変わっていくわ。わたしだって、ホンの少し前の小さい頃といまでは、だいぶオトナになったんだから」

「お前が大人か。随分とオトナっていうのは、幅が広いんだな」

「嫌味ね」

「……特に嫌味であるとは思わないんだが」


 ときどき竜とはこうした会話になる。

 生きている年数の差なのか、それとも(そら)の差なのか、わたしが受け取る意味とときどき噛みあわないときがある。


「そう」

「年を重ねるということは、忘れたり進むのをやめたりすることの連続だ。慌てて背伸びをすることはない。そのままでいられる時間の(ことわり)のほうがはるかに大切なのかもしれない」

「……そっか。あなたでも忘れるの?」

「総てを覚える必要がないからな。それに、要らないものもたくさんでてくる」

「例えば?」

「なんだ要らないものの話しをするのか」

「あなたが要らなくなったものってなにか、興味があるの」

「……要らないもの……かつて拾ったガラクタや大して知らない仲なのにもらったもらいもの、使わなくなったもの」

「もらいもの、とっておくのね」

「とっておいているわけじゃない。捨てるときに、捨てられなかっただけだ」

「そうなの? でも長く持ち続けると、捨てられないのは、同じなのかもね」


 少し眼を遠くにするその先には、たぶんいまの景色ではなくて、過去の景色なのだろう。

 でも、わたしたちの知っている過去と竜たちが抱えている過去は予想ではあるけど、まるで違うのだろう。

 資料はたくさん残されているし民話であったり、中央図書館にもその記録はいくつもある。

 けれど、都市で一番おおきい中央図書館でも、たかだか千年程度でしかなくて、最も古くても三千年がやっとだ。


 竜は若くても千年で、長命の種類は、一万年生きているのではと謂われている。

 わたしの隣にいる竜は、いったいいくつなのだろう。

 けれど、あなたいくつなの? ともなかなか聴きづらい。

 そもそも年齢を数えているのだろうか。


「前に花束をもらったことがある」

「花?」

「それは、ヒトの世界ではどこにでも咲いているらしいが、見分けはつかなかった」

「ええ」

「すると、花束にしてたくさん集めてきたと渡された。どうするのかたずねると、飾るなりすればいいと。そんな短命なものを飾ってもすぐに朽ちるだろう」

「花はなかなか、永く咲くのはないかもね」

「それが、いいのだと……よくわからないな」

「ふふ、たしかに。枯れてしまったら、あとは捨ててしまうものね」

「いや、花の魔法をかければ、長持ちするのだと言ったのだが、あげたものだから、好きにすればいいのだと」

「あら」

「いまは枯れてしまったが、どうするのかわからないままだったな」

「眺めていればいいのよ」

「花の咲いている場所にいけば、いくらでもあるだろう?」

「価値の問題もあるとは思うけど、どちらかといわれると、あげたヒトの想いのほうかな」

「……花のある場所に、連れていけばいいのだろう」

「う〜ん、わたしはもらえたら嬉しいし、部屋で眺めるなら、それは特別な感じはするわよ」

「短命なものを眺めそれを感じても、もうおわってしまうと、そう淋しいのではないだろうか」

「……あなたは……淋しいとかあるの?」

「いまは、花の話しなのだろう」

「短命なのはヒトも同じよ。どんなに繊細に魔法を使っても、長生きや若さを延ばすものでもなければ、百年かホンの少し足されるだけよ」

「ふん。ときどきお前の言うことは、少し変化するな」

「同じことよ」

「花の生命と、ヒトの生命を同じに扱い、それに淋しさを描くのはヒトは同じなのか?」

「……そこに想いがあるなら、カタチは違っても似たような存在なんじゃ」

「花とヒトは似てる、か」

「違うのかしら。あなたは違うの?」


 少し考えているようだ。

 常にこうした会話になるのは、やはり価値の違いからくるのだろうか。

 特に時間や生命、信仰の対象などに話しが移ると、よく議論にもなっていない、問いかけ同士の会話になる。

 これが仕事の関係者なら、ケンカになるだろうし、かつての仲間なら、すれ違いの笑い話しなのだろうか。


「ヒトを特別視するのは、ヒトであり、わたしは、ワタシとなる」

「わたしは、ワタシかぁ」

「そろそろ動くか。上空で待機されると、気になるからな」

「あ、そうね」


 回復は、充分にできた。

 先に用を済ませれば、あとは夜に寝る場所を探すだけだ。

 おそらく、そう遠くない場所にあるはず。


 街中は竜は待機していることがおおい。

 低空で飛びまわる者もいるけど、緊急の使いや召喚、負傷者などがいない場合は、優先されている者以外は、あまり飛びまわることはない。


「どこで待機するの」

「そうだな……あまり姿をみせていないと、文句を言われるからな」

「わかったわ」


 竜には、その事情や仲間内での情報交換もあるようだ。


「なにもないとは想うが、急変したときには、喚ぶんだな」

「遠慮なく、召喚するからね」

「あぁ」


 ふわっと上空に飛ぶと、そんなに高くない位置を飛んでいく。

 少し低すぎるかもしれない。

 あとで怒られないかしら。


「わたしも、いかないと」



 目的の地域の場所は、教えてもらったものの、それからの細かい所在が、よくわからないのだ。

 この辺り、と描かれた地図に、いってみればわかるんじゃないかなとか言われた。


「こういうのって、ホントにいってみてわかるのと、来てもよくわからないのとあるのよね」


 街中は賑わってはいるものの、そんなにあふれてはいないため、歩きやすい。

 いくつかの建物を観てみると、そんなに高い建物はないけれど、よく整備されている。

 治安もいいらしく、買いものをしているヒトや外で駆けまわる子供たちもいる。

 ときどき低空で竜が飛んでいくため、急ぎの使いがあるらしい。

 通り過ぎていくと、影も動く。


「ここは暴れたりケンカしたりしてることは、ほとんどないのね」


「移動するなかには、治安悪いところもあるから、安心はするけど」


 もらった地図をまた見てみるも、場所がまだよくわからない。

 バックを持ちなおし、地図をしまう。


「いけば、わかるって言ってたのになぁ」


 広めな交差点をまっすぐいき、右にカーブをいくと目印があるはず。

 でも、目印はよくわからなくて左の道に移動しつつ、戻ってみる。

 戻ってもよくわからなくて、交差点付近にきてしまう。

 右の角なのだろうか。


「曲がってみよう」


 戻った交差点を右に曲がり、そのあと左に小道にいってから、まっすぐ進む。

 そんなに遠くない。


 そんなに遠くない……はず。


「迷ってるよね」


 小道がどうにも心細い。

 まっすぐにはなっているものの、さっきの交差点の広さに比べだいぶ狭く通りも少ない。


「さきに、誰か聞けばよかったかしら」


 周りをみてもヒトはいなく、空があるばかりだ。

 このまま進むと、さらに入り組みそうだ。

 引き返そう。

 そう思って立ちとまると、ふとなにか気になって、もう一度ぐるっとみる。


「んん」


 可愛らしく花壇があり、そこに何か描いてある。

 目印らしい。

 そう描いてある。


「先に空から観てもらえばよかった」


 この小さめな花壇の部分から、左右に小さく道が延びている。


「花の目印っていうから、花の看板なのかと思っていたのに花壇じゃない」


 かけていたバックから地図をだすと、交差点と目印の先にあるらしい。

 すっかり汗をかいてしまった。

 着いたら飲みものでもだしてもらおう。


 今度は少し安心してしばらく歩いていくと、その先に住宅が見えてきた。

 ほかにあまり住んでいそうなところはないから、ここなのだろう。


「やっとついた」


 とりあえず服装を整える。

 依頼があったのは、ここのはずだ。

 住宅は広めな敷地にあり、花壇や外にいくつか飾りが並べられている。

 花壇が目印だったのは、花をあちらこちらに植えているのかもしれない。

 扉の前にきて、呼び出してみる。

 少し待ってみる。


 応答がない。


 いないのかもしれないと思いながら、もう一度呼び出そうとしたところで、なかから声が聴こえた。

 扉が開くと、黄色い花束を抱えた少し背の低いヒトがでてきた。


「あの、依頼をされたかたですか?」


「わ、あっ、とと」


 花束で前があまり見えていないらしい。

 くるっと横向きになってからようやく顔がみえると、まだ少女だ。


「依頼」

「いらい」

「そうです」

「あぁ!」


 話しが通じたらしい。

 依頼したヒトは、親なのだろうか。


「はじめまして! こちらなかにお入りください」


 丁寧にお辞儀をしようとするも花束があるため、少しだけ下を向くだけになる。


「はじめまして。あがりますね」

「はい!」


 なかなか可愛らしいけれど、花束はどこかに置いたほうがいいのではないかしら。

 玄関や通路にもいくつか花が活けられている。


「わぁ」


 通されたリビングには、花がたくさん並べられていて、いくつかは束に、ほかに花瓶やテーブルにも並んでいる。

 花売りの少女なのだろうか。


「テーブルの隙間になってしまうんですけど、その辺りでいいですか」

「ええ、平気よ」


 テーブルには、花束や花瓶がたくさんあるため、座ると花の香りがしてくる。


「置ききれないものは、廊下にあるんです」


 ニコリと話す少女は、作業中だったようで、あちらこちらに手を伸ばして片付けをしている。

 少しかかるかもしれない。


「あの、ゆっくりでいいですよ」

「あ、はい! えと、なにかお飲みもの……」

「あ、それ危ない」

「わ」

「あ、そこの床」

「わ」


 危ないことだらけだ。

 見ていられないかも。


「場所、教えていただけたら、自分でしますね」

「ありがとうございます。向こうなんです」


 お花でたくさんの部屋も大変らしい。

 キッチンまでは、お花でうまってはいなかった。

 でも、端の小さめな飾り棚に、小さい花がある。

 窓が二つ並び、カーテンが開けられているため、外の向こうに竜が飛んでいく。


「あのぉ、ホットとアイスだと」

「ホットでいいです」

「はぁい」


 魔力板にタッチして流すと、ポットがコトコト音がする。

 すぐに沸くため、とめてお湯を入れる。

 置いてあった茶葉はハーブティーだろうか。


「いい香り」


 トレーに載せてからリビングに持っていくと、ちょうどテーブルが……あまり片付けられていなかった。

 早かったらしい。


「置く場所あります?」

「あ、ちょっと」

「はぁい」


 壁をみると、絵がかけられている。

 少し(ふる)そうだけど、竜ともうひとり、だれかわからないけれど、花を抱えたヒトが描かれている。

 キレイな絵だ。

 カタッコトッとテーブルの物が少し動かされて、なんとか置ける場所ができた。


「お願いします」

「ここですね」


 トレーのポットとカップを置く。

 ポットからカップにハーブティーをそそぐと、またいい香りがして、周りの花に負けていない。


「どうして飲みものにすると、また違う香りなんでしょうね」

「そうですよね」


 一緒に微笑む。

 わたしが座り、まだ熱いくらいのカップを手に持ちながら、話しをする。


「これらの花は、みんな貴女が育ててるの」

「はい」

「ご両親は?」

「いないんです。亡くなりました」

「そう……」

「気にしないで。もうずっとなの」

「買いものや家のことはどうやって」

「執事二人が来てくれます。今日は花だけ」

「そう」


 カップを持ち上げ少しだけ飲むと、まだ熱い。

 けれど、まろやかな感じがいい。

 なんの花の種類なのだろうか。


「花屋さんなんですね」

「ええ! そうなんです。ここの一帯土地があって、花も気候にあうみたい」

「それで」

「いくつか、花の種類の研究みたいなこともしているの」

「それは、すごいわね!」


 花屋さんだけじゃなくて、意外と商才がありそうだ。


「それで、依頼できてくださったんですよね」

「あ、そうね」


 ハーブティーを飲んで、リラックスしたのか、すっかり話しが飛んでしまっていた。

 先ほど玄関で慌てていたのは、花の仕分けなど作業中だったのかもしれない。


「わたし、こんな子供ですけど、それでも平気なんですか」


 子供というからには、年齢は低いのだろうけれど、依頼を聴いてみなければいけない。


「まずは、話してみて」

「はい」


 まだ少し狭いテーブルを片付けつつ、椅子に座る。


「青いスキルってご存知ですか?」

「アオイ?」

「うん」

「……たぶん知らないわ」

「そうですか」

「青いって色のことよね」

「そうです。執事たちに聴いても知らないって言われました」

「花と関係があるってことよね」

「そうです」


 少し落胆して話すため、その話しを聴きたいらしい。

 わたしは置いてあるバックから手帳をだして、書き込みをする。

 依頼者の少女は、カップの飲みものを一口飲むと、(うつむ)いている。


「青の染料が必要なのね」

「アオイハナ」

「えっ?」

「……異界に咲く青い花をみたいっていうんです」

「異界」

「でも、わたしの技術じゃ偽物の青は造れても、それじゃないみたいなんです」

「ホンモノの青」

「観たことないのに、創れませんよね」


 なんだか、寂しそうに話す少女に、つい強気で言ってしまう。


「観たことなくても、存在するならできるわ」

「そう……なんですか」

「たとえ存在しなくても、観たことなくても、そこに在る」

「はい!」


 強く言ってみてから、わたしの役割を思いだす。


「ちゃんと聴いてなかったですね。もしかしてですけど、アオ」

「はい! 青いスキルを探してほしいんです!!」


 青いスキル……かぁ。

 まさかの少女の依頼は、観たことのない青い色を探すことだった。

 少し高めの空を竜が通る。

 窓の外に影が動いていく。

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