暗い雰囲気
「後輩君・・・ゲームしよ・・・」
十五分ほど前に松野さんと出て行った先輩は、襖を開き戻って来た。
先程の、布団の中の攻防故に恥ずかしがって、気まずくなってそう話している訳でない事は、その暗い表情と沈んだ声を聞けば理解ができたのだが・・・
「ゲーム・・・ですか?」
「うん・・・アカン?」
「ダメじゃないですけど先輩、その・・・許嫁は?会長さんと話はついたんすか?」
「・・・」
「もう納得させられて、明日には東京に帰って来れるんですか?」
俺の質問を聞きながら後ろ手で襖を閉め、先輩は部屋の中央へ歩いて来る。
そして、部屋のちょうど中央に置いてあるテレビとゲーム機の電源を入れた先輩はコントローラーを一つ持ち、俺に手渡すように振り返った。
「ええから、ゲームしよ。なっ?」
「わ、分かりました」
知りたい事は何も分からなかった。
まぁでも、さっきの先輩とのトラブルを追及されなくて良かった・・・
油断をすれば薄っすらとだが、まだ少し先輩の体が脳内に・・・
「後輩君?」
着々とゲームの準備をしている先輩は隣の俺を見上げる。
「んっんんんん!!!!」
良からぬ事を思い出そうとしている俺を呼び戻した先輩の声を咳払いでかき消した。
ば、馬鹿か俺は・・・これじゃあ本当に先輩の言う所の『変態君』じゃないか。
今すぐ消えろ!脳内の先輩と俺の邪心!!
俺は取り合えず、自身の頬に拳を当てた。
「なんか変な事考えとる見たいやけど、ルールはいつも通りで良い?」
「へ、変!?あっ、いやその・・・はい!いつも通りで!」
相変わらずのエスパーで心を見透かされた気がした俺は変に高い声で返事をし、コントローラーを握り、先輩の隣に座った。
そう言えば、先輩とオフでゲームした事って無かったな。
隣に座る先輩の姿勢は、俺のイメージしていたあぐらではなく、正座。
座ると意外に小さなその体。
纏う着物と綺麗に座る姿勢を見るに、昔話のお姫様のようだ・・・
「ほら、ウチの体見とらんと集中してや・・・・・・最後やねんから――」
「み、見てま・・・え?」
先輩がボソッと呟いたその言葉を俺は聞き取れてはいなかった。
「先輩・・・今なんて?」
「・・・なんでもないよ」
聞き返す俺をそのまま流すかのように先輩は自身の扱うキャラクターを選択し、俺がキャラクターを選択し終えるのを待っていた。
先輩が選んだのはいつも通りの得意キャラクター。
一撃の攻撃力は低いが俊敏で、コンボを主軸に戦う扱いが難しいキャラクター。
俺が選ぶのは先輩とは真反対。
俊敏性は低いが一撃の攻撃力が高く、扱いが比較的難しくないキャラクター。
「後輩君、いつもみたいにブッパはアカンで?隙だらけですぐ終わってまうから」
「っ!?」
軽い口調で俺をいつもの様に煽ってくる先輩の言葉を聞き、俺は少し安堵した。
普段陽気な先輩からはイメージのできなかった暗い雰囲気・・・それが気のせいだったのだと、そう思えたから。
だからこそ、俺はいつもの様に怒りの方向へ切り替えた。
「先輩こそ、負けても『実家やと本気出せんわ』とか言い訳なしですからね!」
「へぇ、言うやん後輩君。ほな賭けでもする?」
「賭け?」
フッと口角を上げた先輩はこちらに顔を向け、そう提案をしてきた。
「負けた方はその・・・相手の言う事何でも聞くって・・・どうや?」
急に頬を赤らめ、口ごもりながらそう言う先輩の賭け内容。
今まで数百回と先輩との対戦を行い、一度も勝てた事のない俺がこんな100%不利な賭けを受ける訳はないのだが、万が一と言う物がある。
もし、もしもだ、俺が先輩にここで初勝利できたのなら・・・ちょうどいい。
俺は自身の要望の為に、強気に返事をした。
「いいですよ、”なんでも”ですからね?」
「うん・・・」
また少し俯いた先輩はスタートボタンを押し、試合はスリーカウントで始まった。




