攻防on the bed
「姫、お休みしとりはったんですか。」
布団を被り、自室の入り口側へと背中を向けたまま、ベッドに横たわるウチに松野はそう聞いた。
「ま、まあちょっとイラッとしたからその・・・ふ、ふて寝してただけや・・・」
そう背中で返すウチの心臓は今現在、間違いなく正常な心拍数ではない。
ド・ド・ド・ドっと、とんでもない速さで血液循環を繰り返し、胸の鼓動が高まり続ける原因は2つある。
1つは、今し方ウチの部屋に入ってきた親の部下である【ヤクザの松野】。
と言っても、こっちは原因の内の1割ほどである。
真の問題である残りの9割はと言うと・・・
(せせせせせ、先輩!ちょっとこの体制どうにかならないんですか!?)
(アホ!もうちょい声落とさな聞こえるやろ!)
ウチが被る布団の中に後輩君がいるからである。
急遽部屋にやってきた松野から後輩君を隠そうと、ベッドの布団の中に隠れさせたのだが・・・
これならやはりクローゼットに入った方が良かったのかもしれない・・・
だってもう、信じられないくらい至近距離に後輩君がいるから!
ち、近い近い!近過ぎるで!!
ウチと後輩君が向かい合う間には15センチの定規も入らない程の密着状態!
ただ、幸い布団の中は光がなくて暗い・・・
後輩君が変態君的な感じでラッキースケベを発動し、ウチの着物の掛襟を捲らない限りは多分見えへんはず・・・やよね?
後輩君の頭がある位置は大体ウチのお腹辺り。
最近おやつ食べ過ぎたお腹を、この子だけには見られるわけにはいかない!!
いやいや、この子以外にも見られたくない!!
(俺、やっぱり後ろ向いた方が・・・)
(アホかー!今急に布団がゴソゴソし出したら不自然やろ!)
くぅぅぅぅ・・・何でウチ後輩くんと向かい合う様に隠れてしまったんや!!
今、ウチと後輩君は、顔の位置は違えど体同士向かい合っている。
後輩君の背後には部屋の壁。
当然、後輩君が壁の方へ向けば、見えそうなものを見られずに済む・・・でも!
急に体の向きなんて変えたら――
「姫・・・さっきからブツブツと何言ってはるんです?それに今布団が――」
「んんっ!あーあー!!カタコルワァー!
急に連れ帰られたからか肩凝るわぁ」
「す、すんません。会長の指示とは言え、少し強引すぎました・・・」
松野の指摘を咳払いでかき消し、凝ってもいない肩の為に、両腕を伸ばしてその場を回避したと思ったが、また別の問題が。
(せせせせせ先輩!!)
(な、何や!?)
そう慌ただしいトーンで声をかけて来た後輩君のいるお腹の方へ視線を落として見たが、その顔は布団の隙間から微かに入った光によりハッキリと見る事ができ――
なんでこんな顔真っ赤になってんのや?
確かにこの密着状態、ウチだって恥ずかしさでトマトみたいになりそうやけど、それにしても後輩君のこの真っ赤な耳に頬・・・・・
ウチの疑問は後輩君の返事により解消され、次の瞬間にはトマト以上に真っ赤な顔に成るウチが待っていた。
(ふ、服が・・・)
(服?)
顎を引く様に首をさらに曲げ、視線はウチのお腹から、胸の方へと――
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぬぁぁぁぁ!!!!」
ウチの視界に入ったのは腕を伸ばした事で着物がはだけ、露わなった胸と、ウチが反射的に目を突いた事で目を押さえながら絶叫する後輩君だった。
み、見られた!?見られたんか!!?
後輩君に・・・後輩君にぃぃぃぃ!!!!!
「ひ、姫!?どないしましたか!!?」
当然、急に発狂しだしたウチに驚き、声をかけてくる松野。
あ、アカン・・・はよ言い訳しな松野が近づいて来とる!!
ウチを案じる松野の歩みはゆっくりだが、確実にこちらに向かっている。
その距離訳5m!!
とにかく口を回せウチぃぃ!!
「いやぁ、そ、ソウ言エバウチ何モ食ベテヘンカラオ、腹ナッテシモタワ・・・恥ズイ恥ズイ・・・」
「そう言えばまだ何も出しとりませんでしたね」
「み、皆にはウチのお腹の事は内緒やで?」
「は、はい・・・」
あ、危ない・・・今のはホンマにいろんな意味で危なかったで・・・
明らかに不審な目で見とるけど、追及されかけたらまた誤魔化して乗り切ったるから・・・今は!
と、とにかく今は事実の確認や・・・
唾を飲み、ウチは小声のまま後輩君に質問をした。
(見た?)
・・・・・・
(み、見て・・・ません)
目を瞑ったままの後輩君はそう答えた後、頬に汗が――
その反応から導き出される結論は!
終った・・・間違いなく見とるやん・・・
ウチの・・・ウチの・・・ウチのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
頭を抱え足をバタつかせ、どうにかしてこの火照った顔と落ち着かない心臓と・・・・後輩君の記憶を消す方法を考えていたが、何を思いついても直ぐに頭は真っ白になる。
(せ、先ぱ・・・い)
今にも悶絶しそうなウチなどお構いなしに、後輩君は子声で話しかけて来た。
(今度はなんやぁ!!!!)
話しかけてきた後輩君の声は以前小さいままだが、少しずつ途切れ途切れに聞こえてきた。
(く、くしゃみが・・・出そう・・です)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
むりムリ無理!!!
後輩君のくしゃみは聞いた事無いけど、流石に男の子のくしゃみは誤魔化されへん!
(あ、アカンで!今くしゃみなんか出したら絶交やで!)
(わ、わかってま・・・す)
お、思ってるより深刻な状況や・・・
とにかく今ウチが取れる行動は一つ。
後輩君が爆発する前に、松野をこの部屋から1秒でも早く・・・
「姫・・・やはり何かそこに・・・?」
「な、何でもないから早く要件を――」
疑う松野から、早急に部屋に来た理由を聞こうとしたその時だった。
お腹に生暖かい風が吹いた・・・
「ひゃんっ!!!」
!!!?
瞬間、時が止まった――
ウチはこの声が出た瞬間が5分間もあったのではないかと錯覚しそうな程に時が止まっている気がした。
いや、ウチだけやない、この場にいる全員の時が止まった様な――
「ひ、姫!!?」
「な、何でもない!!!」
ウチの口から漏れ出たであろうその音を咄嗟に防ぐ様、口を手で覆う。
な、なんや今の声、ウチの口から出たん!?
でも、原因は間違いなく、ウチのお腹に急に当たった生暖かい風・・・
この風の発生源は、もしかしなくても・・・
ウチは布団を少しだけ捲り、元凶を確認した。
そこには布団の中から元凶が顔を真っ赤にして見上げている。
聞こえたん!?ウチのあの乙女みたいな声聞こえてしもうたんか!?
い、いや落ち着かなあかんで姫花・・・
もうこの際松野なんかどうでもいい。ただ後輩君にあんな声聞かれてたら・・・聞かれてたら!
ウチは恥ずかしくて生きていける自信がない。
でも、もしかしたら聞かれてないかもしれへん・・・
そうや、後輩君は布団の中におった。
だから、うち声は聞かれてない!そうに違いない!!
そうであってくれ!
(聞いた?)
ウチは胸の件と同じ様に小声のまま後輩君に質問をした。
(聞いて・・ません・・・)
ンんんんんんん!!!!!
もう聞いとるやん!この反応、胸の時と同じやん!!
最悪や・・・松野だけならまだしも後輩君にもあの変な声聞かれた・・・
なんでウチだけこんな目に・・・と、言うか。
(なんやのあの風!後輩君、もしかしてこの状況楽しんどるの!?
あんた、ウチが普段イジるからって仕返ししてんの!!?)
ウチの上がりきったテンションとは違い後輩君はいたって冷静に視線を逸らした。
(いや、そのですね・・・くしゃみを我慢できた安心感に深呼吸を・・・)
(アンタ、アホなん!?後輩君アンポンタンなん!?
こんな時にどこに息吹きかけとんのや!)
(い、今のはその、不可抗力で・・・)
(ふ、ふふふ不可抗力やあるか!この変態後輩君!)
「あだっ!」
恥ずかしさを誤魔化すべく、ボスッと布団の上からお腹を目掛けて頭を叩いてしまった。
そして、その声は当然松野にまで届いてしまう。
「ん?今・・・何か声が?」
マズイ!!
松野は声の発生源を探るべく目を細め、部屋を見渡している。
「やはり何か変な事でも?先ほどの声といい、今の声といい・・・」
また掘り起こされるウチの恥ずかしい出来事に耐えきれなくなってしまったウチの顔は熱を感じれるほどに、先程よりも確実に熱くなっていた。
「もう、何でもない!何でもないから、はよ要件言ってやぁ!!!」
もうとても冷静などではいられない。
帯の件に続き、密着状態、更には恥ずかしい声。
ウチは自室で半泣きでキレ散らかしている・・・
もうお嫁にいけへんわ!!
「す、すんません!その・・・会長からお電話が・・・」
瞬間、ウチの熱は冷め、冷静を取り戻し、枕元の形態を確認したのだが――
「え?電話ならウチのスマホに・・・あっウチが着信拒否にしてたんか・・・」
「えぇ・・・せ、せやから広間に・・・」
「顔真っ赤にすんな!!!」
「す、すんません!!」
松野のこの赤い顔・・・これ一生忘れてくれなさそうや・・・
とりあえずこの勢いのまま松野を連れて広間に向かえば後輩君がバレへんやろう・・・
そしてウチは松野に後輩君が見えないよう布団から出た後に、しっかり帯を締め直し!!!
「直ぐ行くわ・・・」
ウチは部屋を出た。




