Mission04:真逆な二人
初任務から一週間後、食堂にて。リンが食事を摂っていると、同じテーブルに急に男が座ってきた。
「よぉ、リンちゃん。配属早々任務に駆り出されたんだって?人使い荒いよなぁ、ウチの隊長は特にさ」
「確か…ルークさん?」
彼は配属初日にリンを名前で女だと勘違いしてナンパしようとした先輩隊員だった。
「そ。俺はルーク・パレルモ。今日は非番だし、この後ちょっと付き合えよ」
「いや、すいません、これから訓練場でシミュレーションやろうかと…」
「何?シミュレーション?マジかお前、非番の日にまで訓練すんの!?あのな、いいか?そうやって真面目にやんのももちろん悪くないが、人生において一番大切なことをお前に教えてやる」
「な、なんです?」
「人生において一番大切なこと、それは今を全力で楽しむことさ。どんなに足掻いたって人間死ぬ時は死ぬ。遅かれ早かれそれは絶対だ。だからその時になって後悔しないようにするのさ。それに根詰め過ぎるとかえってパフォーマンス悪くなるからな。ってことでほら立て。行くぞ!」
「え、あ、ちょっと!」
リンはルークに半ば強引に付き合う事になった。二人で駐屯所のロビーまで来た時、ガレージに向かう女性隊員とすれ違った。確か彼女とも配属初日に会っている。
「よぉアメリア、また訓練か?非番の時くらいゆっくり休めばいいのに」
ルークの呼びかけに振り返った彼女の顔は心底嫌そうだった。
「…そういう先輩はまた遊びに出掛けるんですか?後輩まで巻き込んで」
「たまにはリフレッシュが必要だろ?」
「いっつも事務仕事をサボってるあなたにリフレッシュは必要無いでしょう?」
「俺じゃなくてこいつ、あとお前もな。行くぞ」
ルークはアメリアの手を掴み、リンと一緒に無理矢理駐屯所を出る。
「はぁ!?ちょっと放してください!誰があなたなんかと…!」
「お前は一人にしたら休まないだろ。いいかアメリア、そんなに働き詰めでいつか体壊したらどうする?休むのも仕事なんだよ」
「だからって、それならアルマさんと…!」
「アルマちゃんは別の用事で出かけちゃってんだろ?」
「うっ…わかりました。しかしそれなら私にも準備がありますので、少しお待ち頂けますか?この格好で街に行くのは流石に…」
アメリアの今の格好はこれから訓練の予定だったので、上下動きやすさを重視したとてもおしゃれとは言えない格好だった。
「おう。俺達はここで待ってるからな」
アメリアは小走りで駐屯所内に戻っていった。そしてルークとリンの二人が残される。
「あの、絶対戻って来ないですよね?」
「と思うじゃん?アメリアは絶対に戻って来る。あいつはバカがつくほど真面目だからな。一度来ると言ったら絶対に来る」
しばらく待っていると、駐屯所の扉が開いて、お出かけスタイルのアメリアが出て来た。うっすら化粧もしているらしい。
「…お待たせしました」
「おぉ、似合ってんじゃん。可愛いよアメリア」
「キモっ、あなたに褒められても嬉しくありません。行くんならさっさと行きますよ」
そう言うと、アメリアはさっさとマナビークルが停めてある所へ歩き始めた。
「ははは、素直じゃねぇなぁ〜」
「と言うより、嫌われてるんじゃないですか?」
「バカ、何を言う。本当に嫌ってるならいくら真面目だろうとついてきたりしないだろ?あれはただの照れ隠しだよ」
「そうなんでしょうか…?」
三人はビークルに乗り込み、リンの運転で街へと繰り出した。ルークがリンの隣の助手席、そしてアメリアが後部座席に座っている。まずはルークがよく行くという娯楽施設に行き、三人でダーツに興じる。ルークとアメリアが対決を始めたのでリンは三人分の飲み物を買いに行くことにした。それにしても、アメリアは最初はあんなに嫌がっていたのに、いざ行くとなったらわざわざおしゃれ着に着替えたり、今もルークとのダーツ対決に真剣になっているところからして何事にも全力で真面目に取り組む人のようだ。
「飲み物ここに置いときますね」
「お、悪いな。いくらだった?三人分払うよ」
「先輩、私の分は自分で…」
「いいのいいの、気にすんな」
「ここで奢ってもらったからと言って勝負の手は抜きませんので」
「誰もそんな事狙ってねーよ」
初めて会った時はルークの事を嫌っているように見えたけれど、こうして見ると案外そうでもないのかも知れない。
その後も暫くダーツ対決は続いた。ルークの腕前が凄まじく、何度やってもアメリアは勝てず、ムキになった彼女が勝つまでやると言い張るのでやめるにやめられなかったのだ。かと言って手を抜こうものなら怒らせる結果にしかならないのでルークはちゃんと相手をした。そしてようやくそのダーツ対決も終わり、現在はルークがオススメだと言う喫茶店に来ている。
「何でも好きなもの頼んで良いぞ。奢ってやるから」
ルークがそう言うので各々好きなものを注文した。
「すいません、ちょっとトイレに…」
「…先輩、彼を今日遊びに連れ出したのは、彼が初任務でミスをして落ち込んでいると思ったからですか?」
リンが席を外すのを待ってアメリアはルークに気になっていた事を聞いてみた。
「あいつミスったの?俺はただ遊び相手が欲しかっただけだよ。これからあいつと一緒に任務に出ることもあるだろうし、コミュニケーションも取っとかないとな」
(半分嘘ですね。先輩)
リンが初任務でミスしたことを今初めて聞いたように言っているが、リンと親睦を深めるのは本当だろうが、新入隊員と親睦を深める為だけならもう一人の新入隊員も連れ出すはずだ。このルーク・パレルモという男は普段いい加減で女性にすぐ手を出すゴミクズのくせにたまにこういう面倒見の良いところを見せるのが余計に腹立たしい。そうこうしているうちにウェイトレスが注文した商品を持ってきた。そのウェイトレスが離れた後もルークはそちらをずっと見ている。
「先輩」
「いや、あの店員出るとこ出てて良いなぁって、いってぇ!!」
テーブルの下でアメリアの蹴りがルークの脛に直撃。少し見直しかけた途端にこれである。やはりこいつはクズだった。ルークの叫び声に店内にいた全員の視線が集まった。
「…先輩がいつも通りで安心しました」
「え、どういう事?」