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4-12. 解決編

解決編に入りました。

 カッティの働いているバー・エル・フロディーテは昼間の時間は営業していなかったので、カッティに交渉してもらって快く貸してもらうことができた。

 そこへ、ローザの権限で収監中のベリーズを特別に召喚してもらう。その場にいるのは、チェンバレンとローザ、カッティとレミリア、それにローザの護衛官と看守が二名ずつ、そしてベリーズだった。

 元調査官という肩書を持つ影響か、丁重に連行されてきたベリーズはバーの一角に座らされ、無精髭の見える青白い顔とパリッとしたYシャツがどうにも不釣り合いに見えた。


「ベリーズさん。すみません、こんなところにお呼びして」

「すみませんというのはお門違いだな。君が俺の目論見を読んで捕まえる算段を立てたんだろう」


 校長室で初めて会った時と変わらない声でベリーズは淡々と話す。


「ええ。あなたの夢を僕は砕いた。その落とし前っていうんでしょうか。それをこの場でさせていただこうかと」

「落とし前という言葉を使うのなら、それこそ君ではなく俺の方だ」


 そこで初めて呆れたような声をベリーズは出した。


「そうですよね。すみません、こういうことに慣れていないもので」

「ファリル、その辺は勢いで乗り切ろうぜ。で、ベリーズ元調査官さん。あんたは飲み物何がいい。今日は特別営業だ。俺が腕を振るうぜ」

「なんでも」

「なら、俺のおすすめのビチェリンだな。すまんが、アイスやダイキリは出せない」

「好きにすればいい」


 カッティがカウンターの裏でドリンクを作っているのを横目に見ながら、ファリルはベリーズに話し始める。


「きっかけはあなたと初めてあった時のことです。あなたは校長室で、ダルマティアの北にだけ言及しなかった。東や西、南まで言及しているのに」

「なるほど、今後は気をつけよう」


 今後などはないがねということばが聞こえてきそうなほどに皮肉のこもった声だった。


「それは単なる違和感でしたが、途中でチェンバレンさんが犯人ではないかとチェイスさんに言われてから、異邦人とチェンバレンさんを誰かが繋いだのではないかと思いました」

「チェンバレンが自ら君たちにバラすのは想定外だったよ。それにダルマティア市民への害意を正面から否定されたことも」

「そうですね。チェンバレンさんがあんな性格でなければ、もう少し被害も大きかったかもしれません。森番の少年やチェイスさんなどもあなたの手にかかっていた可能性がある」


 そうならなくてよかったとファリルは思う。


「協力者がチェンバレンでなければそうしただろうな」

「もう一つあります。あの女性が死んでいる様子が、気になっていたんです」

「口の中に、石ころを入れた件か。意外だな高等学院生。君くらいの年で沈黙の掟を知っているとは」


 感心したようにベリーズは言った。


「昔のダルマティアと島嶼部の風習ですよね。食も住まいも自分たちで作り上げなければならなかったダルマティアの初期環境が故に暗黙の了解として形成された掟」


 ファリルの言葉にベリーズは何度も頷いた。


「ああ、そうだ。もっとも俺が子供の頃には帝国本土との物流網がガッツリと繋がっていたから去り行くは古き良き時代とでもいうように老人たちしか本気にはしていなかったが」

「そして、あなたは幼少期に帝国へ里子に出された」


 それはファリルがベリーズの経歴を調べて判明したことだった。


「断絶前のダルマティアは貧しかったからな。今でこそある救貧院などもなかった。それなりに裕福な家庭ではあったがまあ、息子の初の配属ということで張り切ってダルマティアに旅行に出かけられる程度の金があったのが運の尽きだな。断絶後のダルマティアでは大分苦労していたよ」


 遠い思い出したくない過去を振り返るように、ベリーズは首を振った。


「あなたは、断絶当時、帝国海軍の狙撃兵として旗艦に乗り合わせていた」

「ああ。ホーンブロワー副長には世話になった」

「そこがわからなかった。なぜあなたはホーンブロワーさんの息子、チェンバレンさんを巻き込もうとしたんです? 恩人の息子を」


 ファリルとして、ベリーズに問いかけた内容は謎に思っていたことでもある。


「私はホーンブロワーの弟への依頼をすり替えて生き残ったんだ。断絶後、おぼろ谷向けの簡易なミッションにブロウの弟であるクレイトンの名前があったが、あいつに代わってもらった。ガートナー艦長が生きる目のない障壁の偵察作戦の発動を命じるのは時間の問題だったからな」

「あなたは生き残り、クレイトンさんはガートナー艦長と共に行方知れずになったというわけですね」


 ファリルは話が本題に入りつつあることを察して、続きを促す。


「そうだ。ブロウは豪放磊落だが、ローザの父である先代の地方府長官からは海渡りに対する温情はなかった。俺の両親や多くの残され組の同胞たちはもがき苦しんでいた」

「それがあなたの行動原理ですか」


 ファリルは、その言葉にベリーズの仕事人としての根底を垣間見た気がした。


「ああ。私たちは帝国海軍の旗に忠誠を誓う。市民と祖国とを守りぬくと。だが、ダルマティアで受けた仕打ちはなんだ。そして、障壁制約が解除される見込みがあるあの特使達から漏れ聞く話でわかったよ。通行再開の上で、帝国特使が死ねば、責任は地方府長官にある。帝国海軍が送られてくるだろう。ダルマティア市民は報いを受けるべきだ」

「沈黙の掟は、森番の少年へのメッセージだけではないんですね。共同体に害を為すものには鉄槌と、沈黙の石を口の中に含ませることで見せしめにする、でしたか」


 どこか醒めた表情を浮かべてベリーズは息を吐き出す。それから淡々と胸の内を吐露した。


「そういう血生臭い風習やらは、綺麗に消臭して無菌に近い状態になったものを高等学院生には教授されていると思っていたんだが、勘違いだったか」

「いえ、これは僕が郷土史に興味があるが故の知識です」

「何故あのチェンバレンがそこまで奮起したのかと思う? 赤シャツ隊に残され組の老海兵たちが参加している意味は。軍人としての彼らは祖国防衛の念を持っていた。 ガートナー艦長が名誉の出航にベテランたちを多く引き連れていったからな。だが、地方府は淡々とそれを見送るだけだった」


 ベリーズのそれは、珍しく感情のこもった言葉だった。

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