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4-11. 事前解決編

 ノエルと話をした日のうちに、カニンガム邸にローザとチェンバレンが自らの腹心をつれて訪れる。

 関係者が集う中でファリルは口を開いた。


「場所は、帝国断絶五〇周年会場です。そこでベリーズさんを捕まえます」

「あいつがそんな見え透いた罠にかかるかね」

「式典で、重要なゲストがいると告知すれば」

「黒いローブを被せます」

「しかし、誰が中にはいる。中の人は狙撃の危険があるだろう」

「生き人形、マネキンです」

「しかし、歩けないだろ」

「式典を二重の幕にして、最初から立たせておきましょう。ゲストの登場というタイミングで、表の幕を上げます」


 他にも様々な会話が交わされる。


「筋は通るが、粗が多いな」

「ですが、即興にしてはマシな案かと」

「バックアップの案も考えておいた方がいいね」


 式典までの僅かな期間で、市長と駐在官、赤シャツ隊を中心とした作戦の立案会議は行われた。ファリルやレミリアは念の為、カニンガムの屋敷の中で過ごし、式典会場にも護衛付きで移動することになった。

 式典は概ね、順調に行われ、計画通りに二番目の幕が上がる時、なんの前触れもなくフード付きのコートを羽織ったマネキンが倒れる。

 これは作ったクリスさん悲しむだろうなぁということを思いながら、ファリルはどこから狙撃されたのかを素早く探す。周りの人が指している方向には、会場から六〇〇メートルほど離れた帝国の重厚な様式で建てられた四階建ての迎賓館がある。その屋上部にベリーズらしき姿はあったが、すぐに身を翻して姿を消した。


「迎賓館屋上です。捕まえてください」会場のアナウンスを志願して担当していたレミリアの声が響く。


 それに呼応するように、チェンバレンが迎賓席から立ち上がり、アナウンス用のテントから出る。


「赤シャツ隊は一番から五番は右から、六から十は左から。残りは俺についてこい」


 これであとはベリーズが捕まればひと段落だろうかと、人がまばらになった会場で壁にもたれかかって座り考えていたところ、声をかけられる。


「そのままゆっくりと立ち上がって、壁に手をついて動かないでもらおう」


 ファリルは、ゆっくりと立ち上がるがその途中にベリーズの銃口に頭をぶつけてしまう。それでもなんとか立ち上がり、ベリーズの指示通りのポジションをとる。

 その行動にベリーズは何かを気づいたのか、呟いた。


「君、もしや」

「ああ、凄いですね。気づかれるなんて」


 ファリルはこの人はやはり凄い人だと思いながら、同時にかつて読んだよき狙撃手に必要な素養についての話を思い出す。その人物は才能と努力で三割だと述べていた。そして残りの素養は、臆病さと運だと言う。


「君が仕掛け人か」


 静かに、そして乾いた声でベリーズは言う。


「ベリーズ調査官、あの人影は囮でしたか」

「君たちが参加者全員の服の下に赤シャツを着せて、一斉に脱がせるとは脱帽した。だが、私とて頭くらい使う。会場の照明担当君には悪いが、気絶してもらっている」

「自分から手口をばらしていいんですか?」


 臆病さの面では、ファリルたちの方が少しだけ上手だなと内心で思う。


「私の目的は帝国特使を二人殺している点で半ば果たされている。今の行動はある種の惰性のようなものだ。舞台上に来てもらおうか。君と引き換えに、異邦人の身を差し出させるさ」

「カッティ!」

「ほらよ」


 カッティがポーラを投げ、ファリルを連れて舞台上に上がる途中のベリーズの足に絡まった。幸運もどうやら分があったようだった。カッティがベリーズに飛び掛かるとともに、周囲にいた赤シャツ隊もベリーズに覆い被さる。

 さらには、赤いシャツを着た集団が戻ってきたぞと言う声が聞こえた。今度こそ、本当に事態は解決のようだった。


「ふぅ」


 ファリルの周囲というか、ベリーズの周囲に人が集まり行く中、ファリルは改めて壁を背に腰を下ろした。


「疲れたな」

「お疲れさん。流石だな、ファリル」


 見上げると砂に塗れたカッティが立っていた。手には木製のカップを持っている。


「ありがとう。カッティも怪我はない?」


 カッティと握手をした状態で片手で立ち上がらせてもらってから、ファリルはカップを受け取った。


「俺はないぜ。ベリーズ元調査官も擦り傷くらいだろうな」

「それは何よりだ」


 なんとはなしに見上げた空は、夏独特の強烈な青さを讃えてただファリルたちを見返していた。

 それから一時間後、改めて式典は再開された。そこでは、当初の予定通りに有力者達が協力してダルマティアを盛り上げていくことが確認される。場を移し、テアーノ広場という港に面した大きな空き地に設けられた予備会場で行われた式典では、各市の代表や農村部、山家など様々なダルマティアの代表、中には都市部の青年団でもある赤シャツ隊を率いるチェンバレンの姿もあった。彼らは皆で手を繋ぎ合わせ、団結を唱える。

 ダルマティア史で後にテアーノの握手と呼ばれることになる歴史の節目だった。

 その日の夜に行われた打ち上げの席に誘われたファリルは丁重に断ったが、それならばと小さなバーにカッティによって連行される。


 そこには、挨拶を途中で抜け出してきたのだろうと思われるローザの姿もあった。店内は貸切のようで、ローザの護衛官らしき男性が二名ほど、それから店主らしき女性しかいない。そういえば、店外にも別に二名いたなとファリルはぼんやりと思いながら、ローザの向かいの席に案内される。


「あんたの計画通り運んだ。式典も無事に終わったし、チェンバレンの暴走を招いたあたしは引退するよ。チェンバレンにも罪は償わせる」

「ローザさんの進退はお任せしますが、チェンバレンさんの件について提案があります。ドワルフェンの件に関しては最後のとどめはベリーズ調査官です。チェンバレンさんに適用するべきは決闘罪でしょう」

「そんな法律を持ち出してどうしよってんだい」


 ファリルの言葉に、ローザは目を丸くして驚いた。


「それならば、二年以上、五年以下の懲役です」

「で、そいつは誰が捌くんだい」

「本来、巡回裁判を開く権限を持つ調査官が罪人です。ですがベリーズ調査官の息のかかっていない人を選任してください。あるいは新たに任命してもいい。その方に捌いてもらいましょう。この事件を明るみに出すのはまだダルマティアにとってはよろしくないですから」

「今のあんたは、歴史家としてのあんたかい? それとも」

「それともの方ですね」


 ファリルはにこやかに答えた。


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