4-6. ノスフェラトゥ狩り、あるいは勇魚とり
ファリルは拘束の外された女性の前に立ってゆっくりと深呼吸してから言う。
「これから話す事はあくまで僕の想像です。ひとつだけお願いしたいのは、僕のこれから語る物語が一定程度真に迫っているのであれば、あなたの口から実際に何が起こったのかを聞きたいと思っています」
そこまで話してから、ファリルは彼女の表情を伺う。すると、薄く笑みを浮かべていた。それは、ファリルならあるいは到達できるかもしれないという期待か、あるいはできないだろうという諦念なのか。
「事の起こりは、浜辺のエルフィル以前、僕が歴史を調べ始め気付いたある疑問からです」
続けて、と彼女の縦に開いたトパーズのような輝きの目が雄弁に語る。
「なぜ?」どこか諦念を孕んだ表情で静かにノエル・ウィンザーコート・バレーナは応じた。
「ダルマティア開発に本腰を入れるのであれば、長命種がもっといてもいい。帝国の皇帝家は三〇年毎に変わりますが、断絶以前の三〇年はノスフェラトゥの皇帝家だった筈です。その期間は、断絶前の大開発の期間と重なる」
「ファリル、なあよくわからないんだがその話がこの人を確保した話とどう繋がるんだ。もっと言えば帝国特使様だろ。こんな問答せずに、護衛していって帝国との交渉の場なりを設けるべきなんじゃないか。ハインドホープ様や爺様もなんとか言ってくれよ」
カッティの悲痛な叫びに、この場にいる老人たちは一瞥をくれるだけでファリルの挙措を見守るだけだった。その様子に、ファリルは内心でやっぱりなと思いながら、口を開く。
「そうだね、ごめん。カッティ。先走りすぎていた」
カッティの方を向いて軽く頭を下げると、ノエルへと向き直る。
「ノエルさん、いくつかの質問をさせてください。それで、カッティも状況がわかると思いますので」
「その必要性を感じないが、答えましょう」
「あなたは、帝国本土からここ、ダルマティアに陸路で到達している」
「真なり」
ノエルの言葉は至極当然という言葉の響き以外の意味は含まれていなかった。カッティの方を見ると、眉を顰めて首を斜めにしている。この問答になんの意味があるのか、判じかねているのだろうなとファリルは推測する。
「あなたが、帝国本土を出たのは五〇年前、ダルマティアと帝国本土との交通が遮断される前である」
「それも真なり」
「ファリル、え、どういうことだ」
驚いたようにカッティが声を上げる。
「ノエルさん、すみません。少しだけカッティに説明してもいいでしょうか?」
「好きにするといい」
「ありがとうございます。それでねカッティ、この部屋にいる人で驚いている人は多分、僕たちだけなんだよ」




