4-5. 夏とチェンバレン
七月の終わりの週末にはアンチョビ祭りが開催される。これは、漁の解禁を祝うもので、約一週間に渡って様々な料理、特に魚料理が多い、やアルコールの類を日中から飲んで騒ぐ祭りだった。週の初めはキャンパス市やリエカ市では特別祝祭日にも指定されている。
お祭りの中心になる魚市場は港からほど近い場所にあり、ファリルが子供の頃にパトリシアかヘンリー、あるいはシャーロットに連れられてきた時よりも大いに賑わっているようだった。一週間の来場者数一万人突破!と横断幕に載せられている。よほど急いで作ったのか、まだペンキかその上から塗った塗料が乾いておらずぬらぬらと太陽の光を受けて照り輝いていた。
ファリルは、魚市場のメイン会場付近にあるサブ会場にレミリアと共に来ていた。最終日であることもあってか、賑わいは一層増しているようにも感じられる。
チェイスから犯人であろうと指名されたチェンバレンが率いる赤シャツ隊と言う青年団が様々な港の場所で、案内やアナウンス、救護所など祭りの運営を手伝っている。
赤シャツ隊は、近年急速に勢力を増している団体で、キャンパス市やリエカ市などの都市部の若者たちが多く加入していた。活動内容は、ローザ市長の推し進める土地毎のブランド化の波に乗り、帝国時代を忘却し、新しいダルマティアを作ろうと言うものだった。五〇年が経過し、帝国が築いた組織そのものが硬直化している部分もある。彼らの主張はそうした部分の是正に重きが置かれていた。
再び繋がるかどうかも分からない帝国に配慮することは止め、そんな非効率を正し、新たに独立した国家としてのダルマティアを立ち上げを目指すべきではないかという運動だった。
理念はそういったものが掲げられている一方、とはいえ抵抗の対象である帝国本土の人間もいなければ、帝国本土に行くこともできない為、実態としてはかなり緩やかにダルマティアらしさをより推し進めていこうという程度の活動で、実情としては都市部の青年を取りまとめる組織として機能している。だから、祭りなどの際には消防団などと並んで運営側として手伝う人手を供出しているようだった。
レミリアと共に歩いていると、会場付近で声をかけられる。
「おまえさんら。どこかでみたな。ああ、この前ファビーニャにお袋といたか?」
振り返ると赤いシャツを着こなした筋骨隆々、短髪で赤髪の男が立っていた。
「チェンバレンさんでしたか。はい、ファリル・カニンガムといいます」
「従姉妹のレミリアです」
ファリルに続けて、レミリアも名乗る。
「そうかそうか。カニンガムの。カット、俺の息子の友達だったよな。で、どうだい祭りは楽しんでいるか」
にこやかな笑みを浮かべてカニンガムは近寄ってくる。あちらこちらと動き回って汗をかいているのか暑さと相まって、湯気が立ち昇っているようにもみえるなか、少しだけ引き気味にファリルは応えた。
「それなりには」
「そういや。おまえさんとカット、異邦人の事件について調べているそうじゃないか。どうだい、どこまで調べられたんだ」
「まだまだ全然です」
「おいおい、なんだよつれねえなぁ。俺はてっきり、お前たちが俺を告発するんじゃないかって、思っているんだぜ」
早鐘のように心臓が打ち鳴らす音が聞こえたような気がした。チェンバレンの顔が近づいてくる。ファリルは思わず飛び退こうとするが、チェンバレンに肩を掴まれた。動作がの一つ一つが非常に早い。
「森番のチェイス爺様なら、俺が犯人かもしれないってところにはたどり着いているだろうからな」
「やはり、あなたなんですか」
何を、あるいは何のとはつけられなかった。
◇- 用語 補遺集 -◇
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● 赤シャツ隊
・ジュゼッペ・ガリバルディが史実で組織した赤いシャツをユニフォームとした軍隊。イタリア王国成立に寄与した。




