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3-6.

「近年は政策で各地の特産物開発のブームも来ている。アミアータは栗の生産地としての文化遺産の研究や文書化、山岳共同体や普門院の巡礼部、宿泊部との協定の締結、それから栗街道周辺の特徴的な遊歩道の整備なんかをして波に乗っとる」


「森の爺様曰く、場所の記憶と意味を森番は読み取るように意識するだっけか」

「うれしいことを言ってくれる。覚えていたのか」

「そりゃ経験も腕も上の爺様の言葉だ。ちゃんと覚えてるよ、それにそんだけ平地のことを語れるって言うことは、俺の方が無知でした。すみません、最初に揶揄うようなことを言って」


 義理を通すところではきっちりと通すカッティが、真摯な表情でチェイスに謝罪をしていた。


「俺が森や山に比べれば、平地のことは無知というのは正しい。俺はダルマティアの山家の方で育って、森番になるために帝国本土に出たクチだ。この地に改めて戻って来た時はだから嬉しかった。ダルマティアではそこらの村ですら、場所が持つ文脈を大事にして形作られているとな。帝国本土風の建築より、少し脇道に入った先にある建物がお互いに支え合うダルマティアの空間が好きだ。地形の固有条件に応じた巧みな使い方は目を見張るものがある」

「僕にとってもチェイスさんのお話はすごく興味深くて勉強になりました。他にも面白い話はないですか」


 ファリルは純粋に、他の話をチェイスから聞いてみたいと感じていた。


「煽ててもそうそう話すことはないが、そうだな。アミアータは栗で急場は凌いだが、それでも近年まで名産としては有名ではなかったからな。山に近い立地を利用して鉱山採掘も行なった」

「鉱山ですか」


 ファリルにとり、アミアータには農作業のイメージはあるが、鉱業は意外な印象がある。


「ああ、アミアータ村の存在する共有入会地の山には鉱山もあってな、紆余曲折があったが近年まで半農半鉱で生きてきた。その名残が秋祭りに残っとるよ」

「ファリルさん、ちなみに秋祭りの頃が栗ベストシーズンです!」


 アリシアが再び屋台に行っては興味があるものを買ってきて、ファリルたちのつく野外席に木皿と屋台料理を置いていく。これは手をつけていいのだろうか、内心そんなことを思いつつもファリルは自制して手をつけなかった。カッティはアリシアが戻ってくるたびに声をかけようとするが、ちょうどいいタイミングを掴む前にアリシアの方が人混みに消えていくので三回目の今もチャンスを掴めていない。


「嬢ちゃんの言うとおりでな。秋祭りは壮大だ」

「何をするんですか?」


 キャンパス市では夏祭りの方が壮大である為、興味を惹かれてファリルは聞き返す。


「あの村の秋祭りではな。栗の乾燥小屋に火入れをするんだ。祭りの始まりの際に。その時には普門院が土着化した際に祀りはじめた鉱山の女神に祈り、鉱山から出た燐の炎を灯して村を巡り、それから積み上げた栗の枝木の中に放る。プロセスは死と再生に近しいんだろうな。村にとっての栗と鉱山の存在の大きさを物語る、鉱山で採れた石くれと、山の恵の栗が両方とも燃えて無くなるが、その後には死と再生を経た焼き栗が誕生する。それを祭りの終わり、熾火が消えた頃に村の衆が集い、親しいもの同士が拾い、食べさせ合う」


 チェイスの語り口に、どこかパチパチとはぜる焚き火をファリルは幻視した。


「恋人未満同士の人がそれをやると結ばれるという話もあるみたいですよ。最近は、秋祭り以外でもその行事の再現お菓子が登場しているんです」いつの間にかまた戻ってきたアリシアが力強く力説する。辻占煎餅って言うんですけど、二つ折りにして中に短い言葉を表記した紙を入れた干菓子なんです。ちょうど買ってきました!」

「じゃあみんなで食べましょうか」


 ファリルは苦笑しながら、皆の顔を見回す。


「食べたら、見せ合いっこしましょう」


 アリシアに促されるままに全員が紙を取り出して、ほかの三人に見せる。


「アリシアさんは、『為せばなる』か、面白いね」


 ファリルはアリシアのメッセージを読み上げ、アリシアらしいと素直に感じた。


「ファリルさんは、『新しい服を着ると、世界が広がる』ですか、なかなか意味深ですね」


 アリシアがファリルのそれを見ながら訳知り顔で頷く。


「カッティは、『遠くからいいニュースが来る』か」

「チェイスさんは『また来てね』ですね!」


 全員、それなりに意味がありそうで、あるいは無さそうなものが出たなとファリルは思う。


「なんだか意味深ですよね。意味なんてもしかしたらないのかもしれないですけど」

「確かに。そういえば、チェイスさん。小屋の燃え後はどうするんですか。そのまましばらくしたら、また建て替えるのですかね」


 ファリルが興味本意で尋ねる。


「ああ、栗を積んだ小屋の跡地はしばらくそのままにしておく。建て替えるまでは心えた旅人が訪れた際に、焼き栗を見つけることもあるかもしれんが、それはお楽しみだ」


 チェイスは秘密を打ち明けるかのような口調で、付け加えた。

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