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第4話 目標

 ソファーに座っているガタイのいい銀髪の男。この人が、赤い空の日におれたちの命を救ってくれた人だ。


「どうだ? ちゃんとやってのけたか?」


 ───この人の名はアラケス・ホーマット。


 この会社の創設者で、年齢は45歳。


 元々軍の兵士だったみたいで、軍からも街の人からも一目置かれている凄い人だ。

 凄い人だけどおれは『おっさん』と呼んでいる。


「ああ、速攻でとっ捕まえてやったよ」

「あら、すぐ逃げられてたのにね。最後に捕まえたのは誰だったかなぁ?」


 挑発してくるナナをイラつきながら見ていると、アラケスのおっさんは笑っていた。


「そうかそうか! 2人で協力して任務を達成してきたってわけだ。ご苦労だったな」


 おれたちもソファーに腰をかけた。


「ところでおっさん、おれたちこの会社に入ってもう2年経つじゃんか」

「ああ、もうそんなになるっけか」

「1年半修行をつけてもらって、それから実務も少しずつこなしてきたし、そろそろ正社員になりたいんだけど」


 おっさんは腕を組んで悩む素振りを見せてきた。


 今、仮入社として働いているおれとなっちゃんは、街中での比較的難易度の低い仕事だけを限定してやらせてもらっている。


 でも、それが正社員になると、もっと高い難易度や、街の外での仕事をさせてもらうことができるってわけだ。


「正社員になってもそんなに給料は変わらんぞ」

「それは大丈夫だよ。前にも言ったけど、おれには目標があるから」

「……2年経った今も、気持ちは変わらないんだな?」


 おれは強い眼差しでおっさんを見て頷いた。


「改めて聞こうか。お前の目標を」

「《《ミリガン》》をぶっ飛ばす。そんで世界を平和にする」


 おれは間髪入れずに即答した。そんなおれを、おっさんは真剣な表情で聴いてくれた。

 この目標は、赤い空の悲劇を起こした元凶を知った2年前に決めたものだった。


 ───2年前、おれたちの街が襲撃されたのは、偶然でも気まぐれでもなく、ある人物の差し金だったんだ。


 その人物とは、当時このライラス王国をまとめていた国王、ロトリー・ライラスの息子。


 名をミリガン・ライラスという。


 ロトリー前国王には2人の息子がいて、兄のミリガン、弟のフロル。

 2人は対照的な性格で、肉食動物と草食動物に例えるとわかりやすいだろうか。


 野獣のような強さでカリスマ性を誇るミリガンと、頭脳的で圧倒的な優しさを持つフロルは、あの年に丁度、王位継承で国中の話題となっていた。


 還暦を迎えるロトリー国王が引退を宣言してからはすぐに、王位継承へと事が進んだ。

 誰もが兄のミリガンが王を継ぐと思っていた最中さなか、指名されたのはまさかの弟、フロル・ライラスだった。


 理由は公表されていないので、何でそうなったかはわからない。

 ただ、理由がどうであれ、王位を継げなかったミリガンは、表には出さなかったが怒りに狂い、国を捨てて悪の道へと進んだんだ。


 そして、手始めに働いた悪事っていうのが、マルセイドの街を襲撃する事だった。


「───わかった。お前の意志が変わらねぇなら、おれはお前を正社員に推薦してやる。念願叶った暁には、その拳でミリガンをぶっ飛ばせばいい。ここにいればその機会はいつか来るだろう」

「ありがとう」

「ナナはどうする? お前もエレナと同じ気持ちか?」


 なっちゃんもおれと同じ境遇だから、同じこと思ってたりするのかな……?


「うん、私も正社員になりたい。でも、ミリガン王子を倒すとかじゃなくて、どっちかというと困っている人を助けたいって気持ちの方が大きいかな」


 白い歯を見せて笑うなっちゃんに、おれは不覚にも心臓が跳ね上がってしまった。


 おっさんも同じような笑顔になってるし、なっちゃんには周りを明るくさせる不思議な力があるんだよな。


「よし決まりだ! じゃあ早速、最終試験の段取りを進める。話は付けておくから、お前たちは1週間後に軍事基地へ来い。それまで仕事は無しだ」


 最終試験!? そんなのあるなんて聞いてないんだけど。


「ちょっと待って。最終試験って一体何をするの?」


 おれは率直におっさんに尋ねた。


「いいか、軍の人間もそうだが、おれたち自警団に求められるのは結局のところ腕っぷしの強さだ。

どんなに優しい人間でも喧嘩に勝てなきゃ仲間は守れねぇ。どんなに権力や金を持っていても、喧嘩の強ぇやつに絡まれたら呆気なくやられる。

そこで、最終試験で試すのはお前たちの戦闘力だ。この2年でアホみたいにイジメ倒したその心技体を、その場で爆発させろ」


 おっさんの迫力のある演説を聞いて、ちょっと緊張してきた。


「それで、肝心の試験内容は?」  


 なっちゃんがそれかけた話を元に戻してくれた。


「……それは当日のお楽しみだ」


 何だよ勿体ぶりやがって。45歳のくせして、悪ガキみたいなニンマリ笑顔を見せてくるおっさんに腹が立ってきた。


「ほんじゃな〜」


 おっさんは事務所を出て行ってしまった。


 とりあえず今日は帰って休もう。仕事の後だったことをふと思い出したら、どっと疲れがやってきた。


「んじゃ、おれ帰るわ」

「待って、私も帰る」


 なっちゃんとおれは、孤児院を出てからは会社が管理している2階建てのアパートに部屋を借りている。


 2階の突き当たりの部屋がおれで、その隣がなっちゃん。2人とも、自分の稼ぎだけで家賃も払ってやりくりしている。


 シャワーだけ浴びて歯を磨いた後、まだ夕方なのにおれは、ベッドに倒れ込んで眠りについてしまった。

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