似た者同士だから
クレア:恋愛に少しトラウマ
ジル :慎重かつ背負い込むタイプ
カナシュ:クレアの前パーティーリーダー
かつ元恋人
楽観的かつ熱血
パーティーの解散を予定としてクレア達は話し合いを終え、その場はお開きとした。
ジルは愛おしそうにクレアを見たが、そのまま流れで去ろうとした。
「ジル」
クレアの責めるような呼びかけに、ジルは振り向かずに足を止めた。
クレアは知っている。
ギルドからの強制任務を拒否する際の罰金は高額に設定されている。
カナシュのパーティーの時、受けた依頼のキャンセル仕方を調べていたので、ついでに調べて知識だけはある。
――カナシュのパーティーの時は強制任務はなく、結局仕事のキャンセルもしなかったが。
慎重なパーティーなのでパーティー資金は貯まっているが、足りるかは疑問に思った。
今クレアがジルを引き止めても、恋人になったばかりの二人だから不審さは生まないだろう。
クレアはジルを捕まえて、別の店へと引っ張っていった。
「足りるの?」
「何がだ?」
「惚けないで。
罰金の話」
沈黙したジルに、クレアは深い溜息をついた。
「私のこと、どうする気だった?」
「君に苦労させる気はない」
そこはクレアも疑っていない。
思考回路が似ているジルのことだから、クレアを騙したり巻き込んだりは考えないだろう。
きっと解決するまで離れようとするだろうと思った。
「安定するまで一人で無茶でもする気だった?」
「無茶は、しない」
「無茶しないなら私は何年待たされる?」
「……」
「ジル」
クレアはじっとりとジルを睨んだ。
「『必ず迎えに行くから待っていてくれ』
『待たなくても良い』
なんてことは言わないわよね?」
「……」
「私のこと、本気じゃなかったんだ」
「本気だ。
だが……こうなった以上は」
「病める時も、健やかなる時も」
「……」
「病める時から始まっても良いじゃない?」
「クレア……」
ジルはぽかんとしていた。
クレアは小さく笑った。
「私は慎重と言うより臆病だし、危ないことも損をすることも嫌い。
けど好き合った人だけに辛さを背負わせるのは嫌」
「……君は」
ジルは苦笑していた。
「そういう時のために、備えて置くのが私達みたいな人間でしょ?
お金の計算も慣れているんだから。
私にも詳細を見せて」
ジルは観念したように苦く笑った。
要求された金額は、頭が痛くなるものの不可能ではない額だった。
だたジルのパーティーだから可能なのであって、一般的な分配をしているパーティーなら借金の可能性がある額でもあった。
二人はしっかりと貯蓄している。
予備にと保存している装備品なども、拠点を移すついでに整頓して処分するのでそれなりの金額になるだろう。
旅に出る資金は確保できそうだった。
分配金はなくなり持ち出しにもなったが、後の三人も貯蓄はしっかりしているので困ることはない。
文句を言われるより二人の懐を心配される可能性がある。
「こんなの一人でどうするつもりだったの」
「まぁ、何とかしようと……」
ジルは珍しく曖昧に濁し、クレアはぎろっと睨んだ。
「私が着いてくるなんて思ってもいなくて?」
「……」
「自分の懐からも出して、ギリギリまで所持品を売って」
「……」
「それでも足りない分は必要な装備まで売るつもりだった?」
「……その辺で許してくれ」
応えずに迷っていたクレアにも、勿論責任がある。
それにクレアが同じ立場だったなら、似たような選択をしたはずだ。
もっとも、クレアはリーダーになる気質ではないので、ありえない仮定でもある。
「不器用で融通が効かないのはお互い様よ。
似ているからきっと、私達は相手の苦しみに気付けると思うの」
「クレア……」
ジルは驚いたように目を見開いた。
クレアは話すならこのタイミングだなと思った。
細かな摺り合わせはしていないが、お金の話は目処が立った。
なら二人の今後のための話をしても良いはずだ。
丁度、そんな言葉を口にしてしまったのだし。
「私がカナシュと付き合ってたのは知ってるのよね」
「……あぁ」
ジルは気まずそうに肯定した。
恋愛遍歴などクレアだって本当はしたくない。
けれどそれが原因でジルとのことから逃げていたのだから、話しておきたいと思った。
「ヴィアから、少しだけ聞いている。
君と知り合った頃のことや……脱退した理由とか。
別れたこと」
「話さなくても良いくらいじゃない」
クレアが苦笑すると、ジルは慌てたように首を振った。
「本当に軽くだ。
それに、君の口から聞きたい」
「ふふっ」
真剣に弁解されるのが何だかくすぐったくて、クレアは楽しくなって笑んだ。
クレアの笑顔にジルは照れたようで、更にクレアは嬉しくなった。
「好きよ」
「っ?!」
「カナシュとのことなんだけどね」
「いや、待って、流さないでくれ。
告白と同時に他の男の名を出さないでくれ」
「えぇ?
恥ずかしいもの。
聞き流してよ」
「えぇ……」
困惑したジルに知らぬふりをして、クレアは語ることにした。