4話 第一章:新世界/出会いのワイバーン-3
驚きを隠せないまましばし見つめていると、彼はこう切り出した。
「君は初心者さんだね?何か困ったことがあれば相談に乗るよ」
もちろん向こうからもこちらのレベルとランクは見えている。ちなみに今の自分はレベル4でランクはもちろんビギナー5。衣装もOPで主人公っぽいキャラが着ていたキャラメイクの時にもらえるジャケットのままで、いかにも始めたてプレイヤーといった感じだ。
こうやって初心者に声をかけてくるプレイヤーには2通りある。本当に良い人か、初心者を騙し怪しい壺を売りつけてくる強欲な輩かだ。
油断しないように、と肝に銘じつつ返す。
「デッキの構築もプレイングも問題ないはずなのに何故かランダムマッチで勝てなくて……」
「なるほど。ちょっとデッキと一人回しを見せてもらえるかな?」
結論から言うと、カゼンさんは本当にいい人だった。
構築を見るや否や即座に他TCG経験者であることを見抜き、初心者向けのありきたりな構築論ではなく最初から「ライブラにおけるドローマジックの質の違い」という細かいながらも的確な内容のアドバイスをくれたのだ。正直感動した。
「プレイングにも特に問題はない……となると、君はシナリオを全スキップして応用ルールも読んでないね?」
ギクリとした。その通りだ。
「まぁシナリオはありきたりで応用ルールの9割は実戦じゃ出てこないような細かいルールなんだけど……」
おい。やはり長年のゲーマーとしての経験値、読みは正しかったようだ。
「シナリオと応用ルール、どちらも最終章に書かれている内容が非常に大切でね……おっと。フレンドからのフリーのお誘いだ。時間があればだけど観戦するかい?」
「是非に!」
二つ返事で答えた。どんなゲームでもトッププレイヤーのバトルというのは非常に参考になるものだ。それも間近で、生で観れる。
期待に胸を膨らませていると、シュン、と近くに一人のプレイヤーがワープしてきた。
その容姿に思わず息を吞む。
軽くウェーブのかかった金髪で目は透き通るような碧色、全体的に高ステータスで希少価値の高いボディーを可愛らしいフリルやリボンをあしらった可憐な衣装で包んだ端正な顔立ちの女の子。芸術品である。キャラメイクもここまでくるともう職人技だ。そんな細部までリビドーに溢れた造形のアバターが――
「んん……グッモーニンカゼン殿!我の大怪獣デッキがまた一段と進化を遂げましたな!役割を持つ対象を変更した結果格段に回しやすくなりましたぞ!さぁ目と目があったらレッツバトル! ……おや貴殿はどなたかな?」
――同類でないわけがない。聴こえてくる声は金髪幼女ではなく男性のそれだ。……落胆?とんでもない。むしろ安心している。本物の幼女だったら緊張で一言も発せなくなるだろう。いやまぁ彼もある意味では本物の幼女であるのだが。
「彼はマーズ君といって、僕が相談に乗っていた初心者のプレイヤーさんだ。今から君とのバトルを見てもらおうと思うんだけど……良いかな?」
「もちろん大歓迎ですな!初心者は導く以外ありえない!」
少し興奮した表情で幼女が喋る。口調は変だがその表情はまさしく本物で、気を抜くと惚れてしまいそうだ。
「それに……彼は応用ルールを読んでいない。」
ややニヤリとした表情のカゼンさんが囁く。
「ほう……では『本気』で行かせてもらうとしますかな!」
「あぁ。お互い良いバトルにしようか。」
言い忘れたが幼女の名前は『もめん』。どこまでもかわいいが、レベルはカゼン氏と同じカンストの250、ランクもライブラ420th。カゼンさんよりはやや下だが、日本でも最高峰のライブラプレイヤーであることに間違いはない。
――
バトルフィールドは長方形の荒野だ。
両端の短い方の辺、その中心にそれぞれのプレイヤーが机のついた浮島のような見た目の宙に浮かぶ装置に立ったまま相対している。
自分で対戦していた時やリプレイを見ていた時は全景を確認する余裕があまり無かった。フィールドのサイズは……距離感が掴みづらく正確な数字ではないが、長い方の辺の長さはゆうに1km近くはありそうだ。
しかしこのゲームのカメラと仮想モニターは優秀だ。直接の目視以外にも相手プレイヤーや相手のフィールドをいい感じのアングルで捉えた映像が常時展開されているため、プレイヤーとしても観戦者としても困ることは無い。しかもここを見たいな、と思考するだけで自動でズームしてくれる。これはフルダイブ式の優秀なポイントだろう。ただし女性アバターや3Dモデルの胸元を除く(二敗)
軽快なBGMが流れ始める。バトル開始の合図だ。
両プレイヤーの初期手札は4枚。手札の準備が終わった後に、デッキの横にはプレイヤーの残りライフとなるライフカードがデッキから5枚伏せられる。
「先攻は我が貰いますぞ!我のターンドロー! ……んん!完璧な手札ですな!ターンエンド!」
思わず噴き出した。完璧な手札。古典的なネットスラングだ。
「僕のターンだね。ドロー。……《量産型ゼノ》2体召喚!」
ツインアイを備え右手にはドラムマガジンを備えたアサルトライフルを持つ、いかにも量産型といった全体的にシンプルめな造形のロボットがそこにいた。
テキスト確認ウィンドウを開く。こういうときいちいち対面に聞かなくていいのがDCGの便利なところだ。
《量産型ゼノ》はコスト2・HP1500・パワー2000。THE小型といったシンプルな構成で、
・このカードは何枚でもデッキに入れることができる。
効果テキストもシンプルにつきる。
『人類起源帝国の汎用人型マシン兵器。生産性を重視されているものの、モノコック構造のボディは堅牢だ。』
フレーバーテキストも味わい深い。シンプルに特徴が書いてあり、~だ。や ~だぞ。といったある種ぶっきらぼうな文末で〆られている子供向け然とした内容のものは、理屈はわからないが無条件で好感を覚える。
「《量産型ゼノ》2体のアタック!ゼノ・ライフル一斉射!」
「トリガー無し。そのアタック、通しますぞ」
もめんちゃn……もめん氏がライフカードを2枚取る。5枚全てを取り切ったらその時点で敗北だが、受けたダメージはコストであるBP、ライフカードは手札リソースとして有効活用できる。
「トリガー無しですな。」
トリガー能力をアタックに対し手札から撃つ場合は使用コストがかかる。だが、ライフカードから撃つ場合コストを支払わず使えるのだ。
「ターンエンドだよ。」
「我のターン!ドロー!……今のアタックでようやく出せますな!我の命のカード!」
「やっぱり重いカード過多で組むのはやめた方がいいんじゃないかな……」
「高パワー!高耐久!すなわちそれは男の浪漫!《飛行大怪獣 イービルヤーザドン》!召喚ですぞ!」
空中の何もない空間が光る。刹那、大きな翼を持ち体の各所から炎を放つ禍々しい造形の巨大な生き物……すなわち怪獣が、そこに姿を現した。
でかい。ゆうに100メートルはあろうかという巨体だ。量産型ゼノもお台場にあるロボットの実物大模型とだいたい同じくらいの身長である。たしか18メートルくらいだった気がする。しかしそれでもイービルヤーザドンと、怪獣という存在と比べるとお話にならない。
「我のアタック!イービルヤーザドン、進撃ですぞ!」
テキストを確認したがこれと言って能力のない、すなわちバニラカードだ。かわりにコスト比でHPとパワーが高く、シンプルながら強力なカードであることが伺える。
「トリガーは無いよ」
「トリガー発動ですぞ!《火炎熱線》!《量産型ゼノ》2体を破壊ですな!」
イービルヤーザドンと呼ばれた怪獣が口から炎を吐き、ゼノが溶ける。
「くっ……トリガーはないよ」
「イービルヤーザドンのパワーは11000!ライフカードを2枚頂きますぞ!」
この場合頂くのはカゼン氏だが言いたくなる気持ちはわかる。
「通す……トリガーは無し」
「ターンエンドですな」
お互い残りライフ3の状態でカゼン氏のターンが回ってくる。カゼン氏はマジック《起源帝国製リペアーマシン》を使用。ゼノ2体を墓地から手札に加え、手札から1体を追加しゼノを合計3体召喚した。
「アタックだ。一番機、ゼノ・ライフル撃て!」
「我はもうこれ以上ライフカードを取るつもりはありませんな!イービルヤーザドンでブロック!」
ここまでは良い。次の一言が衝撃だった。
「イービルヤーザドンは飛行タイプのモンスター!よって40%の確率で回避しますぞ!さあ空を飛べ!ヤーザドン!」
量産型ゼノは傑作兵器で、数多くのバリエーションがあります。この世界は量産機がツインアイでワンオフ機がモノアイです。人類起源帝国は国際地球連合という組織と星間大戦を100年ほど続けているらしいです。
マーズ君がズームしようとして敗北したポイントは、リプレイで観た魔王様と戦闘開始前のもめんちゃんです。
カードテキストはあえて詳細な記載を避ける予定です。
単純に長くなるのと、私がバイブルとしているある漫画のワンシーンへのリスペクトです。
ゲームルールに関してはもうちょっと先で触れる予定です。