3話 第一章:新世界/出会いのワイバーン-2
「ラグーン・ドラゴンでアタック!」
「トリガーはないです」
「手札からトリガー発動!《ロロの風帽子》!キング・ワイバリオンを手札に戻したいです!」
「うーーーん通ります……ライフで……」
「やったぁ!ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
――
仮想空間――ライブラシティ。ライブラカード・オンラインの舞台だ。VRゲームというだけあり、シティ内の各エリアには街があり、現実とあまり変わらない雰囲気のカードショップがひしめいている。
ここはアキブラ駅前エリア。初心者から上級者まで幅広い層が集う始まりの街だ。そんな人通りが多い場所にも関わらず、マーズは叫んでいた。
「勝てねぇー!」
正確には10戦潜って6勝。勝ち越してはいる。しかしこの成績はとても満足できるものではない。
前世で行われている予選・決勝が存在する非公認大会は、基本的に7戦中6勝しないと決勝ラウンドには上がれない。勝率6割ではとても届かないのだ。しかも今潜っているのはビギナーランクのランダムマッチである。
「なんでだ……一通りのカードはスターターに入ってるし構築理論も間違っちゃいないはず……フィニッシャーも中継ぎのカードも極端に弱いわけじゃない……プレイングも間違っちゃいない……」
「それにしても初期デッキに負けるのはおかしくないか……?」
ビギナーランクの、それも階級変動がないランダムマッチということもあり10戦中6戦がチュートリアルで貰える初期デッキだった。ニコイチとはいえ【成長ワイバーン】より格段にパワーは落ちるはずなのだが6戦中3勝するに留まっている。
「運だけトップラグーンの割合が多すぎるんだよなぁ……」
そう、このゲームの対面は妙に運がいい。こっちがひたすらにドローマジックを投げてやっとこさワイバーンを揃えている間に、向こうの切り札であるラグーンドラゴンが着地していることが多すぎる。しかも何度除去しても2枚目3枚目を投げてきたり初期デッキには2枚の投入に留まる回収札を引いていたりして再び飛んでくる。
「リプレイでも見るか……」
メニュー画面を目の前に展開し、公開リプレイを呼び出す。
その中の対戦リプレイを新着順に並び替え、上からシャーっとスクロールしていき適当なところで止めて再生する。
――
「ふはははは!余は魔王!貴様たちは余の眷属になるがよい!」
立派な角が生え黒いマントを纏ったいかにも魔王といった格好の女の子プレイヤーが、相手のカードのコントロールを奪うカード《夢魔の誘惑》(制限1)を何度も回収し連打する。
コントロールを奪ったカードを素材にし《疑亜魔神A 型式不明》(制限1)が手札より降臨。型式不明が杖から電撃を放ち、相手のカードを全て除外しそのままゲームエンド。
――
「運だけやんけ」
デッキに1枚しか積むことのできない制限カードが多く絡むゲームは運要素が強く出るため、参考にならない。再び適当なリプレイを再生する。
――
一振りの蛇腹刀を携えしうら若き女子が決戦場に一人。字は《レッカ》。
視点の主はいかにも戦国っぽい甲冑をデザインに取り入れた衣装を身に着けている女の子だ。
「今こそ決戦の時……《清刀点火-イグニッション》(制限1)発動!デッキから《清刀転身-ドラゴンフォーム》をサーチ!そしてワンドロー!」
「《清刀転身-ランサーフォーム》(制限1)を発動!効果により墓地から《清刀二号-クリスタルソード》を回収!そして装備!さらに手札から《月穿ちの弓》(制限1)を装備!《清刀転身-ドラゴンフォーム》発動!これで装備カードが2枚!《月穿ちの弓》の効果も合わさり効果によりパワー53000!焼き尽くせ!《清刀姫レッカ》出陣!」
普段のWIN表示の代わりに合掌と表示されている。終幕で候。
――
「すごいものを見た気がする」
これが本当にさっきやってたのと同じゲームか?マーズは訝しんだ。
だいたいなんでこんなに展開できるんだよ。コスト制だろこのゲーム。
――
手札も盤面も空。ライフカード残り1枚の状態でターンが帰ってきた。
視点側のプレイヤーがデッキに手を掛け、こう語る。
「俺のこのドローは……命より重い!俺の手札は0!お前のライフは残り5!この盤面を打開できるカードはこの山札の中に1枚しか心当たりがない……」
「だが俺は引く!デッキを信じて! この一枚、この一瞬のために力尽きたとしても!」
対戦相手が笑いながら早く引けよーとヤジを飛ばす。どうやら知った仲の身内同士の戦いのようだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
まさに今カードを引く、そのときであった。はたとBGMが止み、一瞬の静寂の後にライブラカードオンラインのOPテーマが流れ始める。そしてデッキの一番上が、今まさにドローしようとしているそのカードがまばゆい光を放ち始めた。
対面も、視点側のプレイヤーさえも驚いた顔をしていた。一瞬後に意を決して引く。
「ドロォォォォォ!!!」
ちら、とカードを確認すると
「来たぁぁぁぁぁぁ!俺の切り札! 《Hi-ニューメタル・ドラグーン》(制限1)!召ぅ喚!」
確定演出も合わさりテンションが上がったのか、キラキラと目を輝かせているのが観戦視点のやや遠目からでもわかる。
「ドラグーンの召喚時効果発動!山札を任意の枚数……すべて!トラッシュに送り!その中から……武装カード!《大地神剣ガイアブレード》を装備!さらに!「ドラグーン」を含むカードの効果でトラッシュに送られた《四聖獣の魂》3枚の効果発動!すべて装備!」
「パワー24000! これが逆転の! 白い一撃だぁぁぁぁぁ!!!」
ライブラカードではパワー6000ごとに相手が取るライフカードが1枚増える。つまり24000では5枚、一撃必殺だ。
WINの文字が踊る。
――
「……これ本当にリプレイ?」
まさか加工して流してるんじゃないだろうな……と思い機能説明ページを見るがそのような機能は無い。
「どういうことなんだ……」
リプレイを観てもわけがわからない。まともな試合が見当たらない。公開リプレイというのは基本的に上振れた試合か名試合・珍試合が流れるものだ。しかしこういった面白い映像は人気順リプレイに多く並ぶ。新着順ですらこの制限カードのオンパレード。大量のドローソースをねじ込んでもなお回らない自分のデッキと比較すると悲しくなってくる。
ベンチで独り頭を抱えていると、
「大丈夫かい?」
柔らかい声をした他のプレイヤーが話しかけてきた。
薄緑の髪の細身の青年で、身長はやや高い。ロボットアニメでよく見かけるタイプのシンプル目な造形の軍服を身に着けている。
プレイヤーネーム表示モードに切り替え、頭の上に表示されるプレイヤーネームに目を移す。
『カゼン Lv250 ライブラ201th』
驚いた。Lv250はこのゲームのカンストである。しかもその横のランクはライブラ。
このゲームのランクは、ビギナー・ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナ・ダイヤと続き、その中でも例えばブロンズならブロンズ5~ブロンズ1と5段階に分けられている。
ゲームの名前を冠する「ライブラ」ランクは、ランクマッチの実質的な上限ランクである「ダイヤ1」の中でさらにランクポイントが高い上位500名しか到達できないランクで、しかもリアルタイムで更新されるため放置したらすぐにダイヤ1まで落ちてしまう。
この物腰が柔らかそうな青年はそんな一握りの強者なのだ。
制限カードをいっぱい引くと気持ちよくなれるのは全TCGプレイヤーの共通点だと思います。
枚数を揃えた瞬間に制限発表されたり強すぎて禁止されるのは誰もが通る道。