「味噌汁みたいな恋がしたい!!」
「分かるゥ」
「いや何一つ分からん!!」
放課後の教室に、そんな意味不明な訴えが轟いた。
馬鹿みたいな発言をした二条蒼空は「だってしたくねえか!?」と友人である織川理央に詰め寄った。
「ほっと安らぐ味噌汁ような女子と恋に落ちたくねえか!?」
「その女子を味噌汁と表現するお前の国語力を疑うぞ!!」
大体な、と理央は蒼空の馬鹿発言に対して「分かるゥ」などと適当な共感を口にした女子生徒へ振り返る。
「八重鐘、お前も何を理解を示してるんだよ!!」
「味噌汁飲みたいって話題じゃないの?」
スマートフォンを操作して話を一切聞いていない風の八重鐘優梨は、
「いいよね、味噌汁。私は豆腐が好き」
「俺はなめこ」
「何で『味噌汁みたいな恋がしたい』っていう馬鹿みたいな発言から、味噌汁の具材による談義になるんだ? ここの会話の速度は時速何キロ?」
唐突な変化球についていけない理央は、机に突っ伏して「何なんだよぉ」と嘆いた。『味噌汁みたいな恋がしたい』という蒼空の馬鹿発言から味噌汁の具材の話に変わっていくのは、まあ当然の帰結と言えようか。
すっかり味噌汁恋バナから味噌汁の具材について真剣に議論を交わす蒼空と優梨は、
「豆腐なら油揚げは必須だと思うぞ」
「豆腐と大根でしょ。二条こそ、なめこ以外には何を入れるの?」
「揚げなすとか入れたい」
「せめて玉ねぎでしょ、そこは。揚げなすとか主役級じゃない」
「味噌汁の主役って何?」
「何だろう?」
蒼空と優梨は、机に突っ伏す理央に助けを求めるような視線を投げた。
「いや何で俺に聞くんだよ」
「味噌汁の主役って何かなって思って」
「そりゃ味噌だろ、味噌汁なんだから」
「「あー」」
二人揃って納得したように手を叩き、
「え、じゃあ理央は味噌汁の具材で何が好きなの?」
「何でこのくだらねえ話題が続投されんの? 止めようぜ?」
「味噌汁の具材は何が好き?」
蒼空の有無を言わせない質問の圧に負けた理央は、渋々と自分の好きな味噌汁の具材について答える。
「トマト……」
それに対する蒼空と優梨の反応は、
「「いやないわ」」
次の瞬間、放課後の教室に何か色々なものが倒れ込むどんがらがっしゃーん!! という音が響き渡るのだった。
登場人物
二条蒼空:馬鹿その1。味噌汁にはなめこと揚げなす派。
織川理央:馬鹿その2。味噌汁にはトマト丸ごと。
八重鐘優梨:馬鹿その3。味噌汁には豆腐と大根。
作者:味噌汁にはなめこ。