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第9話 ネコ兵の夜食

 ここは、シモーン邸の台所です。報告会議の後、泣き虫y人と、ドジy人と、だまされy人の三匹は、クーニャに頼まれて、夜食の準備をしていました。

 「夜食は、おにぎりなんだね」泣き虫y人が、言いました。

 「うん。本部にいる隊員十匹分と、隊長を含めて、十一匹分ね」

 「中身は?」ドジy人が、だまされy人に尋ねました。

 「えーと、昆布と、サケと、鶏肉ソボロです」

 「それから、お味噌汁もつけるんだよ」

 「クーニャ様、おにぎりは、一匹分ずつ包むんですよね?」

 「そうです。隊員の方達が、それぞれの作業をしながら、食べられるようにするのです」クーニャが頷きました。「お味噌汁は、二つの大きな魔法瓶に入れてください。そうしたら、冷めないでしょう」

 「ネコ兵は、二時間ずつ交代で、夜通し見張るんだって。すごいよね。眠るのも、寝袋に包まるらしいですよ」泣き虫y人が、感心したように言いました。

 「泣き虫y人、鶏ソボロを、フライパンからお皿に移してくれる?握る前に、冷まさないと」ドジy人が言いました。

 「あっ、お米が炊けたみたいです」だまされy人が、炊飯ジャーを振り返ります。

 「はい、しゃもじ」

 「昆布は、どこです?」

 「冷蔵庫の、上から三段目。サケは、もうほぐして、骨抜きしておきました」

 「でも、ミーニャ様が、まさかシモーン邸のすぐ裏手にいるなんて、全然考えもしなかったよね」

 「本当、びっくりしました」

 「やっぱり、ネコ兵はすごいよね。たった一日で、ミーニャ様を捜し出しちゃったんだから。だけど、病院に連れて行かれたって、大丈夫なのかなあ」

 「ねえ。今も、ダンボール箱に寝ているって、言っていましたしね」

 「ミーニャ様を拾った人って、良い人みたいじゃあないですか?変人y人に言わせると」

 「ねえ?あの変人に、手を振ってくれるなんてね」

 「ただの変わり者、だったりなんかして。はい、手袋」

 泣き虫y人は、他の二匹のy人に、ビニール手袋を渡しました。おにぎりをにぎるのに、手袋をつけるのです。そうしないと、毛が汚れるし、ご飯に毛が混じるからです。

 「にぎる前にちゃんと、水に浸してくださいね」

 「何個ずつ、にぎるんだっけ?」

 「それぞれ、一隊員につき、一種類ずつですから、十一個ずつにぎってください」

 「じゃあ、私はサケをやりますから、ドジy人は昆布、泣き虫y人はソボロを」

 「うん、分かった」

 三匹は、炊き立てのご飯で、おにぎりをにぎり始めました。

 「あちち、わっ、あちち…」

 「ドジy人、気をつけて」

 「は、はい。あつ、あちち…」

 「このぐらいの大きさで、いいかな」

 「うん。あまり中身を詰めすぎない方が、簡単ですよ」

 「あっ、しまった。中身を入れるのを、忘れた」

 「なかなかにぎるの、難しいですね。丸くすべきか、三角にすべきか」

 「あっ、中身がはみ出してきた」

 「違うよ、ドジy人。こうやって、包み込むようにして、にぎるんですよ」

 「は、はい。あっ、しまった。ビニールが破けた」

 「駄目だよ、ドジy人。力を入れてにぎると、爪が出てきて、手袋が破けちゃうんです」

 「は、はい。あっ。…あの、手袋をもう一つ、取ってもらえる?」

 「はい、手袋。先に、水に浸けないと」

 「そうだったね。忘れてた」

 ドジy人は新しい手袋をつけて、再びおにぎりをにぎり始めました。

 「ドジy人、違いますよ。それはソボロです。君は、昆布係でしょう」

 「あ、そうだった」

 「のりはここにあるから、にぎったら巻いてください」だまされy人が、丸くにぎったおにぎりに、のりを巻きつけてお皿にのせました。

 「お味噌汁は、もう魔法瓶に入れましたから」

 お味噌汁を作っていたクーニャが、おにぎりをにぎっている、y人達の所にやってきました。

 「ありがとうございます、クーニャ様」

 「おにぎりの方は、どうですか」

 「はい、もうすぐできます」

 y人達は、おにぎりをにぎり終えました。三つのお皿に、それぞれ中身が違うおにぎりが並びました。

 「後は、冷ましてから、三つずつ包むだけです」

 おにぎりが冷めるまでの間、y人達は、使った用具の後片付けです。

 「クーニャ様、明日の朝御飯は、いつも通りですか?」だまされy人が、洗い物をしながら尋ねました。

 「はい。ちゃんといつも通りに起きて、仕事をしてください。朝食は、ネコ兵隊の分も一緒に用意するように、しっかりy人に言ってあります」

 台所を片付けた後、y人達は、冷めたおにぎりを包み始めました。

 「はい、これで十一匹分ですね。あれっ?ドジy人がにぎった昆布おにぎり、一つ余ったみたいですよ」

 だまされy人が、お皿に一つ残ったおにぎりを見て、キョトンとしました。

 「あっ、しまった。にぎりすぎたかな」

 「まあ、足りないよりはいいですよ。ドジy人、自分で食べちゃったらどうですか」

 「いただきます」

 ドジy人は、一個余ったおにぎりを手にとって、むしゃむしゃ食べ始めました。

 「あれ、変だな。このおにぎり、中身が何も入っていないぞ」

 えっ?という顔で、泣き虫y人と、だまされy人は、ドジy人を見て、それから、三つずつ包まれている隊員のおにぎりを、横目でちらりと見ました。

 「泣き虫y人、これをワゴンにのせてください」

 「うん。それから、お味噌汁ものせますね」

 中身のないおにぎりを食べている、ドジy人の横で、二匹はそそくさと、ワゴンの支度を始めました。

 「それじゃあ、クーニャ様。後は、運ぶだけなので、もうお休みください」

 「いや、私も一緒に行きます。最後まで、きちっとしなければなりませんから」

 「そうですか。それでは、一緒に行きましょう」

 「ドジy人と、泣き虫y人は、後片付けをしたら、もう部屋に行っていいですよ。お休みなさい」クーニャが、二匹のy人に言いました。

 「はい、分かりました。お休みなさい、クーニャ様。だまされy人、お先に」

 クーニャとだまされy人は、ワゴンを押して、台所を出て行きました。

 突然、ドジy人が嬉しそうに、おにぎりを見下ろして言いました。

 「あっ、中身があった。昆布が、こんな所に。端っこに、はみ出してたよ」

 

 ガラガラ、ガラガラ。静まり返ったシモーン邸の廊下に、ワゴンの音が響きます。

 「良かったですね、クーニャ様。ミーニャ様が、こんなに早く見つかって」

 ワゴンを押しながら、だまされy人は、隣を歩いているクーニャに話しかけました。

 「ええ、本当に。ネコ兵隊に頼んで、正解でした。ミーニャ様は、シモーン様のことで、ショックを受けていましたし、とても心配でした」

 「ミーニャ様は、いつ戻られるのでしょうね?」

 だまされy人の、その言葉に、クーニャは少し考えてから言いました。

 「ミーニャ様が、ご自身の意志で、宮殿に戻られるのを待つしかありません。それが、どのくらい長くなろうとも、我々は、いつでもミーニャ様をお迎えできるように、準備していなければなりません」

 「はい、クーニャ様」

 二匹は、本部に着きました。ノックをしてから、扉を開けます。

 「失礼します。お夜食を、お持ちいたしました」

 クーニャとだまされy人は、ワゴンを押して中に入っていきました。

 「あ、どうも、ご苦労様です」隊長が、振り返りました。

 本部の中には、隊長と、二匹の隊員がいるのみでした。最先端の装置も、報告会議の時と同じように、部屋の隅に片付けられていて、一つのラジオのような機械以外は、全て停止しているようでした。ヘッドホンをして、ラジオの前に座っていた二匹の隊員も、クーニャ達を振り返って、お辞儀をしました。

 「包みは、十一匹分ございます。お味噌汁は、魔法瓶の中に入っています」だまされy人が、隊長に夜食の説明をします。

 「ありがとうございます」隊長が言いました。

 「何かございましたら、呼び鈴を押してください。y人の一匹が、常に待機しておりますので、ご用をお申しつけください」クーニャが、呼び鈴を指して言いました。

 「分かりました。後は我々に任せて、もうお休みください」

 「はい。それでは、よろしくお願いいたします。朝食は、八時半になりますので、時間になりましたら、本部にお持ちいたします。では、失礼します」

 クーニャとだまされy人は、お辞儀をして、本部を出て行きました。部屋を出る時、隊員の一匹が、だまされy人に、親しげに手を振ってきました。それに気付いたクーニャは、廊下に出てから、だまされy人に不思議そうに尋ねました。

 「隊員の方と、もう友達になったみたいですけれど、いつの間に?」

 「はい。あの隊員は、タイキさんって言うんですけど、彼が隊長命令で、ワゴンを台所に運ぶのを、手伝ったことがありまして」だまされy人が答えました。

 「隊長命令で、ワゴンを運んだ?どうしてでしょう」クーニャが首を傾げます。

 「さあ、私にも、よく分かりません。私がやりますからって、言ったんですけど、どうしても隊長命令だからって」

 「きっと、私達には分からない、厳しいきまりが、隊員の中にはあるのかもしれませんね。私達も、見習いましょう」

 二匹は一緒に階段を上って、二階に向かいました。シモーン邸の二階は、王様と、y人達の部屋があります。y人達は、それぞれに自分の部屋を持っています。

 二匹は、階段を上り終えて、すぐの所にある、y人控え室から出てくる暗がりy人に、ばったり会いました。

 「あっ、クーニャ様に、だまされy人」暗がりy人が、小声で言いました。

 「これから、夜の見回りですか?」クーニャが言いました。

 「はい、そうです」暗がりy人は、片手にロウソクを持っていました。

 y人は毎晩交代で、夜の見回りをして、y人控え室で寝ます。宮殿内にある全ての呼び鈴が、この部屋につながっていて、いつでも王様がご用の時、または、宮殿内で何かあった時のために、待機するのです。今晩の当番は、暗がりy人なのでした。彼はこれから、夜の見回りに行くところなのです。

 「夜食は運んだし、何かあったら呼び鈴を押すように、隊長に言ってあります」クーニャが言いました。

 「分かりました。それでは、僕は見回りに行ってまいります」

 そして暗がりy人は、y人控え室のすぐ脇にある、らせん階段を上って三階へ消え、クーニャとだまされy人は、二階の東棟に向かって行きました。


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