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第8話 ミーニャ発見

 タイキが二つのワゴンと一緒に、部屋を出て行ってから、本部の中は更にあわただしくなっていました。

 ジージー。

 「ハロー、ハロー、こちら本部だ。ユニか」隊長の声です。

 「隊長、こちらユニです。ついに、しばの証言の人物の身元が、判明いたしました」

 「本当か!すぐ報告しろ」

 「はい。我々はしばと同じ時刻に、ハローアニマル動物病院にいたという者を、しばの証言をもとに探し出し、情報を集めていたところ、その中に、野良猫を拾ってきた人間と、面識がある者を見つけ出しました。クリーニング屋に飼われている、インコのチー子です。チー子は、この人間とは顔なじみで、鳥類、特にインコ好きのこの人物とは、店の前を通るたびに、手を振られる間柄だそうです」

 「そして、その人物とは?」

 「はい、この人物は、緒蔵おぐらヒロという名前でして、なんと、シモーン邸のすぐ裏手に位置する、六丁目の十番地に住んでいるとのことです」

 本部の中の隊員達は、驚きの声をあげました。

 「確かか?」

 「はい、確かです。我々はすでに、その六丁目の十番地に来ております。確かに、表札に緒蔵とある、庭付きの日本式一軒家を見つけました」

 「ミーニャ様らしき野良猫の姿は、見えるか?」

 「いいえ、まだ、何も分かりません。まだ、ヒロの姿も確認できておりません」

 「よし、とにかく見張りを続けるように。ミーニャ様らしき姿、または、家の住人を確認できたら、すぐ本部に報告するように。ご苦労」

 「はい、分かりました」

 そこで、隊長は電波を切り、ヘッドホンを外しました。隊長は手を叩いて、隊員達を静かにさせました。そして言いました。

 「皆も、今聞いた通り、ミーニャ様を拾ったらしき人物は、このすぐ裏手、六丁目十番地に、住んでいることが分かった。今のところ、ミーニャ様のお姿は、確認できてはいないが、このしばの情報が、一番可能性が高いものであることを考えると、ミーニャ様がこの家にいる確率は、かなり高いと思われる。これから報告会議を行いたいと思う。すぐにクーニャ様に連絡して、その準備をするように」

 「はい」

 隊員達は隊長の声に、素早く動き始めました。今までの情報を束にして集める者。呼び鈴を押してy人を呼ぶ者。会議ができるように、場所を片付ける者。そして、そんなあわただしい中、隊長はじっと地図を睨みつけながら、考えていました。もう、日はとっぷりと暮れていました。

 

その夜、九時半頃、クーニャと、y人全員は、本部に集まっていました。本部を埋め尽くすように置かれていた、最先端の装置は、今は部屋の隅に片付けられています。その中の一つの、ラジオのような装置の前に、ヘッドホンをかぶった隊員一匹が、座っているのみでした。他の、隊長を含めた隊員達と、y人達は、中央のテーブルに座っていました。隊長の命令により、報告会議が行われているのです。大きな町の地図を背に、座っている隊長の目の前には、沢山の書類が山積みになっていました。

 「つまり、今までの捜査情報によりますと、ミーニャ様は、ほぼ間違いなく、この場所にかくまわれていると思われます」隊長が地図を示しながら言いました。

 y人達が、ざわざわし出しました。

 「シモーン邸の、すぐ裏手なんて」

 「そんな近くに?」

 「まさか、ねえ」

 「でも、ミーニャ様のお姿は」クーニャです。

 「まだ、確認はできておりません。しかし、見張りをつけて監視しておりますので、確認され次第、連絡が入るでしょう」

 クーニャを含めたy人達は、それでも、ほっとしたようでした。

 「とにかく、ご無事でいらっしゃるなら…」

 「その、交通事故で病院に運ばれたという猫達については、分かったんですか?」しっかりy人が尋ねました。

 「はい。全ての猫を確認いたしまして、ミーニャ様ではないと、判明しております」隊長が答えました。

 「それに、他の様々な目撃証言も、ミーニャ様ではないと、確認が取れています。ですから、このしばの証言の信憑性が、一番高いと思われるのです」

 そして隊長は、書類の山の中から、一枚の紙を取り出して、

 「ミーニャ様を拾ったと思われる、この人物は、緒蔵ヒロといいまして、シモーン邸のすぐ裏手、六丁目十番地にある、庭付き一戸建てに住んでいます」

 「え?ああ、あの家?ベランダのある?」

 途端に、y人達が反応しました。

 「ご存知ですね?」隊長が、y人達の反応を見て言いました。

 「はい。なにせ、すぐ裏手ですし、時々脇道を使う時に、庭を通りますから」ドジy人が言いました。

 「この人物を、ご存知の方は?」

 y人達は、互いに顔を見合わせます。

 「う〜ん、近所でも、あっちの方はあまり行かないし…。宮殿の出入り口とは、反対の方角ですから」おちょうしy人が答えました。

 「えっと、家は知っているんですけど、どんな人が住んでいるのかまでは、ちょっと…」泣き虫y人も、困ったように言いました。

 「え?あら、あの人のことかしら?」

 それまで、ギンギンの目で、隊長を見つめていた変人y人が、突然思い出したように言いました。

 「ご存知なんですか、変人さん」

 「ええ。きっと、あの人のことだわ。六丁目の緒蔵さん」隊長に名前を言われて、嬉しそうに変人y人が答えました。

 隣に座っているうたがいy人が、ジロリと変人y人を睨みます。

 「何で、知っているんだ?」

 「だってあの人、昔一度、道で変人に手を振ってくれたことがあって…。それで変人は、後をこっそりつけて行って、住所を突き止めたの。はかない、恋の思い出よ」

 嬉しそうに赤くなる、変人y人を見つめながら、他のy人達は呆れ顔です。隊長もしばしの間、キョトンとして、変人y人とy人達を見ていましたが、すぐに我に返って、変人y人に質問しました。

 「その人物に、間違いありませんか?」

 隊長は変人y人に、しばの証言をもとに作成した、緒蔵ヒロの詳細が書いてある、書類を渡しました。

 「えーっと、中背で細身、肩までの黒髪に、少々猫背気味、薄い唇…」

 変人y人は、書類に書いてある人物像を、読み上げていきます。そして、自信ありげに頷きました。

 「ええ、間違いないわ。緒蔵さんよ」

 「ありがとうございます、変人さん」隊長は、変人y人から書類を受け取りながら言いました。

 「どういたしまして」変人y人は、目をパチパチさせました。

 「今の変人さんの証言で、しばの目撃した人物と、緒蔵ヒロが、同一人物だという確証を得ました。後は、拾われたという野良猫が、ミーニャ様であるのを確認するのみです」

 そして、隊長は、ラジオの前の隊員を振り返りました。

 「タイキ、見張りの者に、変人y人さんの証言を伝えて、同一人物であると確認できたことを伝えろ」

 「はい」

 タイキは、アイスクリームの件で、隊長に特に名前を覚えられてしまい、そのために、何かと隊長に使われるようになってしまいました。

 「ところで…」隊長が、y人の方に向き直って言いました。「ミーニャ様のお姿を確認した、その後のことですが」

 「はい」クーニャが返事をしました。

 「その後、我々は、どう動くべきでしょうか。ミーニャ様を発見した後は、どうするべきでしょう」隊長が、クーニャをじっと見て言いました。「もし、ご命令ならば、ミーニャ様を、緒蔵家から秘密裏に救出することも、可能ですが」

 y人達は、ざわざわ興奮し始めました。

 「秘密裏に救出、だって…」

 「ミーニャ様救出大作戦。ゾクゾクする響き…」

 クーニャは、しばらくうつむいて考えていました。そんなクーニャを、隊長は黙って見つめます。

 ついに、クーニャが言いました。

 「ミーニャ様を救出するのは、ちょっと待ってください」

 y人達は静かになり、クーニャを見ました。

 「ミーニャ様は、ご自分の意志で出て行かれました。ですから、ミーニャ様ご自身の意志で帰ってこられるまで、待つべきだと思うのです」

 クーニャの言葉に、y人達も顔を見合わせてから、もっともだと言うように、頷きました。

 隊長は大きく頷くと、「分かりました」と言いました。そして続けて、

 「しかし、それまで万一のために、緒蔵家の見張りを、続けるべきではないでしょうか」

 その言葉に、クーニャも頷きました。

 「よろしく、お願いいたします」

 「お任せください」

 「見張りの班を、新しく組むでありますか」ペイが、隊長に言いました。

 「うむ、そうだな。今は、ユニの班が、緒蔵家の見張りについています。今後も、二匹ずつ交代で、庭から見張らせます」隊長が、クーニャに言いました。「そして、本部にも二匹ずつ、交代で徹夜の情報受信にあたらせます」

 「隊員の方達の、お休みになるお部屋は、ご用意いたします」クーニャがすかさず言いました。

 「いいえ、ご心配にはおよびません。見張り以外の隊員は、本部に寝袋で眠りますので」隊長は言いました。

 クーニャは驚いて、「しかし、客室をご用意いたしますので」

 y人達も、おろおろします。

 「いいえ、大丈夫です。ご心配なく。我々は、野宿もなれておりますから。本部で十分です」

 「そ、そうですか。でも、本部が狭いようでしたら、隣の部屋をお使いください。そこのドアから、隣の、『くつろぎの間』につながっておりますから」

 クーニャはそう言って、本部のはじにある、小さな扉を示しました。

 「それから、足りない物があれば、お持ちいたしますので、何なりと」

 「ありがとうございます。しかし、全て必要な物は、持参しておりますから、大丈夫です」

 そして、隊長は席を立って、言いました。

 「それでは、これで会議を終えたいと思います。何か分かりましたら、すぐにお呼びいたしますので…」

 隊長が、そう言った時でした。部屋の隅で、ラジオの受信にあたっていたタイキが、突然大声で叫びました。

 「隊長!見張りの者からです。ついに、ミーニャ様のお姿を、確認いたしました!」

 隊長は、タイキに駆け寄りました。隊員もy人も、一斉に騒がしくなりました。

 「ついに、確認できたか!間違いないのか!」

 隊長は、近くのヘッドホンを引ったくり、頭にかぶりました。

 「つなげます」タイキが機械をいじります。

 突然の知らせに、一瞬騒がしくなった本部の中は、静かになり、皆、息をひそめて隊長を見守ります。

 「ユニか!ミーニャ様のお姿を、確認したのか!」隊長は、マイクに大声で話しかけました。

 しばらくは、ザラザラした雑音が、スピーカーから聞こえていました。ガー、ピー、という音がした後、ついに、ユニの声が聞こえてきました。

 「はい、隊長。こちらユニです。たった今、緒蔵ヒロと思われる人物によって、開けられた窓から、ミーニャ様のお姿を確認いたしました。間違いありません」

 「間違いないのだな!」

 「はい、確かです。ダンボール箱の中で、眠っていらっしゃいました。ヒロが雨戸を閉めるために、窓を開けた、ほんの少しの間でしたが、間違いありません」

 「よろしい。よくやった、ご苦労。これからも引き続き、見張りを続けるように。今後の指示は、また後ほど伝える」

 「分かりました」

 そこで、電波が途絶える音がして、隊長はヘッドホンを外しました。そして、全員の方を振り返って言いました。

 「皆様、ついにミーニャ様を発見いたしました。間違いなく、六丁目十番地の、緒蔵家にかくまわれておりました」

 「わーっ!」一斉に、隊員達とy人達は、喜びの声をあげました。

 「よかった、ミーニャ様!」

 「キャーッ、ミーニャ様!やっぱり、ネコ兵はステキ!」

 「ご無事で良かった」

 口々に喜びの叫び声をあげるy人達の中、クーニャは隊長の前に来て、ちょこんとお辞儀をしました。

 「本当に、ありがとうございました」

 隊長も微笑みながら、「ミーニャ様がご無事で、何よりです。クーニャ様、今夜はどうぞ、ゆっくりとお休みになってください。これからも、我々がしっかりと、ミーニャ様の身の安全をお守りいたしますので」

 「はい。本当に、本当に、ありがとうございました」

 クーニャは、もう一度お辞儀をして、それから、そっと涙を拭きました。


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