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第4話 ご主人との出会い

 汚いボロ雑巾のような野良猫を拾った人は、雨の中を歩いて、五丁目にある白い建物にやってきました。

 『ハローアニマル動物病院』白い建物の看板には、そうありました。

 その人は傘をたたむと、曇りガラスの自動ドアから、中に入っていきました。中は小ぎれいな待合室になっていて、数人の人がイスに座っていました。皆、それぞれに動物を連れていました。小型犬、大型犬、柴犬にプードル、小さなオリに入れたインコ、文鳥、ハムスターに、イグアナを連れた人もいます。

 野良猫を連れた人が中に入ると、途端に小型犬が興奮し出しました。その人は犬を無視して、右奥にある受付カウンターに向かいました。

 「初診の方ですか?初診の方は、こちらの用紙に必要事項を記入してください」カウンターに座っている白衣の女性が、紙を差し出しました。

 その人は、用紙とペンと、ついでに猫をくるむタオルを借りて、待合室のはじにあるイスに腰掛けて、記入を始めました。しかし、たった今拾ってきたばかりの猫ですから、細かいことは何も記入できませんでした。仕方なく、飼い主の必要事項だけ記入して、また受付に戻りました。

 「あの、一応記入したんですけど、実はこの猫、今そこで拾ってきたばかりなので、何も分からないんですけど」その人は用紙を渡しながら、白衣の女性に言いました。

 カウンターの女性は、少し驚いたようにしてから、野良猫を見て、

 「どこで、拾ってきたのですか?」と聞きました。

 「三丁目のタバコ屋の角の、細い道で。よく無断でゴミ袋が置いてある、電信柱の所です」その人は答えました。

 「まあ、可哀想に。順番になったらお呼びしますので、少々お待ちください」

 野良猫を持った人は、また待合室のイスに腰掛けようとして、柴犬の前を通り過ぎました。すると、柴犬が興奮したように、暴れ出しました。

 「これ、静かに」

 飼い主のおじさんが鎖を引っ張って、犬を静かにさせました。猫を拾った人は、軽く頷いて、隅っこのイスに腰掛けました。

 そうしてイスに腰掛けて、待っていること三十分。プードルも柴犬も、インコもイグアナも、診察を終えていき、タオルに包まってぐったりとしている野良猫の様子が、さすがに心配になりかけた頃、ようやく名前を呼ばれて、その人は診察室に入っていきました。

 「はい、ここに猫ちゃんを置いて」

 白い白衣を着た先生は、野太い声の中年男性でした。

 野良猫は死んだように、診察室のベッドの上に横たわり、先生はその体を、隅々まで検査して回りました。そして、心配そうにしている飼い主に、猫は雨に濡れて、冷えて弱ってはいるものの、命に別状はないと告げました。

 「鼻水は、風邪を引いたからで、アレルギーではないし、栄養を与えてよく休ませてあげれば、良くなりますよ。目も腫れているようだけど、これも風邪のせいでしょう。もしかしたら、栄養失調気味かな。おそらく、ここ数日、何も食べていないようだよ」

 先生は野良猫に、ビタミン注射を一本うって、

 「目を覚ましたら、何かやわらかいものから与えてみてください。牛乳なんかもね。あとは、体をなるべく温めてあげるように。風邪をこじらせると厄介だから」

 「分かりました。ありがとうございました」

 野良猫の診察を終えて、診察室を出ると、先ほどの柴犬を連れたおじさんが、新たに待合室に現れた、コリーを連れたおばさんと、立ち話をしていました。柴犬がまた暴れ出す前に、その人はさっさと会計を済まして、病院の外に出ました。雨はまだ降っています。その人は猫を腕に抱いて、傘を差して歩き出しました。

 その人は、そのまま、商店街にあるペットショップに立ち寄りました。猫缶を買うためです。医者に、やわらかい物を与えるように言われたので、瓶に入った子猫用の離乳食0才から三才用を数個購入し、自分の家に帰っていきました。

 その人の家は、六丁目にある、庭付きの一軒家でした。家に帰ると、その人はダンボール箱を庭から持ってきて、タオルに包まっている野良猫を、そっと中に入れました。猫はまだ、眠っているように意識がありませんでした。

 その人は台所に行って、お昼の即席ワンタンスープを作ってから、また猫の様子を見に行きました。雨に濡れていた野良猫の、毛並はすでに乾いていて、今は静かに眠っているようでした。医者のビタミン注射が、効いたのかもしれません。その人は安心して、ワンタンスープを食べ始めました。

 お昼を半分くらい食べ終えた頃、微かなうめき声が、ダンボール箱から聞こえてきました。ついに、野良猫が目を覚ましたのでしょうか。その人はワンタンスープを食べるのを止めて、箸を置くと、箱の中を覗いてみました。タオルの中で、猫は微かにもがいていました。指でそっと触ると、反応して鼻をひくひくさせました。でもまだ目はつむったままでした。

 試しにその人は、先ほどペットショップで買ってきた、子猫用の離乳食0才から三才用、を開けて、中身を少しスプーンですくって、猫の鼻先に近づけてみました。

 するとその猫は、更に鼻をひくひくさせたかと思うと、口を開けたのです。そして鳴き声をもらしました。

 「ニャー、ニャー、ミ、ミーニャ、ミーニャ…」

 「ミーニャ?」その人は首を傾げます。「随分、変な鳴き声だな。まだ意識がぼやけているらしいぞ」

 その人は面白そうに、猫の口に、離乳食を少し与えてみました。猫は一度、警戒するように身を引きましたが、すぐにスプーンにかじりつくように、離乳食をぺちゃぺちゃと食べ始めたのです。

 「やっぱり、お腹が空いていたんだね。この猫、きっと空腹で倒れていたに違いない」

 猫は、目も満足に開いていないのに、あっという間に、離乳食の瓶を一つ空にしてしまうと、そのまま、また眠ってしまいました。

 「あれ、また眠っちゃった」

 その人は、タオルに包まる猫を見つめます。

 「すごい食欲だなあ。これじゃあ、またペットショップに行かないといけないな」

 その人は、空になった子猫用の離乳食の瓶を置くと、すっかり冷めてしまったワンタンスープを、また食べ始めました。


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