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聖夜のデス・ゲーム  作者: 庭師シオン
1章 12月25日
3/5

平和な朝

広場を通った先にあった食堂は赤い屋根の一階建ての建物だった。

扉を開け、中に入ると目の前には大きなテーブルが1つだけ。部屋の隅にはホワイトボードがあるのが見える。


「思ってたよりも狭いけど、これはこれで良いかもね」

「まあ、この人数で広い部屋を充てられても持て余してただろうしな」


食堂は決して広い訳ではなかったが、参加者たちは特に不満ではなさそうだった。


(確かに6人しかいないんだし、この狭さは逆にちょうど良かったかも。でも……)


他の参加者は気にも留めていない様子だが、伊織には気になることがあった。


(この食堂、静かすぎない……?)


食堂だというのに他に誰かがいる気配は無く、聞こえるのは七尾と別所院の話し声だけ。

どうしても気になった伊織はそれとなく声をかけた。


「けっこう静かですね……」

「そうだね。やっぱり聞いてた通り、オレたち以外には誰もいないみたいだ」


どうやら他の参加者は無人であることは事前に知っていたらしく、特に焦った様子は見られなかった。


「そんなことよりさぁ、こんな入口で話してないでさっさとご飯食べちゃおうよ」


そう言って羽月はずかずかと食堂の中に入っていく。


「ん?何かあるよ?」


羽月が足を止めた食堂の一角には、いくつかの段ボールが重なって置かれていた。


「一番上の段ボールに紙が張り付けてありますね」

「えーとなになに?


『こちらは本ゲーム7日分の朝食になります。

昼食及び夕食に関しましては、厨房に御座いますので、別途ご確認下さい。』


だってさ」


(本ゲーム7日分……ということはこのデスゲームは7日で終わるってこと?期間が決まっている分、まだ気が楽かな)


内心ほっとする伊織の隣で羽月が何かに気がついた。


「ねぇ、今日の朝食ってこれじゃない?」


羽月が手に取った段ボールには「1日目・朝」と書かれたシールが貼られていた。

他の段ボールにも同じシールが貼られているところを見ると、どうやら食べるものがあらかじめ決められているようだ。


「昼食と夕食は厨房か……なら今のうちに確認しておいた方が良いか……?」


別所院は羽月の持っている段ボールを指差す。


「お前たちはそれを開けていろ。俺は奥の厨房を見てくる。的居、お前も来てくれ」

「は、はい!」


的居と呼ばれた青年は別所院と共に厨房に入っていった。

食堂に来るまでの道すがらで聞いたが、先程コテージの前ですっ転んだあの青年は「的居響己(まといひびき)」という名前らしい。


「それじゃ、さっさと開けちゃいますか」


羽月が持っていた段ボールを開けると、中にはパンが人数分入っていた。


「おぉ~他にも色々入ってんじゃん」


パンを取り出すとその奥からおしぼりと紙コップが顔を覗かせたが、肝心の飲み物は見つからない。


「この中に入ってないってことは厨房かしら?」

「それなら私が取ってきましょうか?」


伊織が顔を上げる。


「それじゃあ頼んだわ、お願いね」

「はい」


伊織は段ボール前で作業をし始めた3人を横目に厨房に入り、飲み物を探す。


「あ、もしかしてこの中かな?」


厨房入口の正面にあった白い冷蔵庫を開けようとすると。


「か、鹿子さん?ど、どうかしたんですか?」

「え?」


声がした方を振り向くと、厨房の右側にある別の冷蔵庫の前に的居が立っていた。


「えっと、飲み物を取りに来たんです」

「あ、ああ、そうでしたか。それならこちらにありますよ」


彼は自分の作業していた冷蔵庫の扉を開ける。中には、2種類のペットボトルが入っていた。


「あっ、たぶんこれですね。……的居さん、教えてくれてありがとうございます」

「い、いえ……」


的居は厨房の反対側で作業をしている別所院をちらりと見た。


「僕たちはあともう少しかかりそうですからさ、先に持っていってくれるとた、助かります」

「はい、分かりました」

「そ、それじゃあ……」


そう言って的居は先ほど伊織が開けようとした冷蔵庫の方へ歩いていった。


(さて、と……)


的居が立ち去った後、伊織は冷蔵庫に再び向き直る。


(念のため両方持って行った方が良いかな……?あ、でも朝食はパンだし、コーヒーだけで大丈夫だね)


伊織がコーヒーを手に取って食堂へ戻ると、既に紙コップとパンの配膳が終わっていた。

食堂に残っていた3人に近づくと、七尾が話しかけてくる。


「大丈夫?あった?」

「はい。お茶もあったんですけど、パンに合うのはこっちかなって」


伊織は持っていたペットボトルを3人に見えるように持ち上げる。


「おっ、いいじゃん。ま、オレはコーヒー好きだから何とセットでもいけるけどね」

「あたしもコーヒーでOKよ。……あなたはどう?もしかしてお茶の方が良かった?もしそうならあたしが取ってきてあげるけど」

「……いえ、大丈夫です」


優しく気づかう七尾に対し、少女ー村守(むらもり)楓は無表情で答えた。

的居と同様、食堂に来るまでに彼女の名前を聞く機会があったのだが、その時も今と同じような顔をしていた。


(なんだか無愛想な子だなぁ……)


七尾と羽月が明るい分、彼女の暗さが目立つだけなのかもしれないが、伊織はそう思わずにはいられなかった。

伊織がそんな事を考えていると。


「待たせて悪いな」


別所院と的居が戻ってきた。


「食料は確認し終わったし、朝食にしようか」


6人はそれぞれの席に着き、少し遅めの朝食にありついた。

最初は皆黙々と食事をしていたものの、食べ始めてしばらくすると雑談をし始める者が現れた。


「パンは美味しいから良いんだけどさ、せっかく食堂っていうならさぁ、出来立ての料理が食べたかったなあ……」

「仕方ないでしょ。ここに居るのはあたしたちだけなんだから」


パンを頬張りながら文句を言う羽月を七尾がなだめる。


(確かに味気ないけど、七尾さんの言う通り、しょうがないよね。それに、食事がしっかり人数分用意されてただけまだマシな気がするな……)


伊織はそう思いつつふと横を見る。すると別所院がある一点を注視していることに気がついた。視線の先にはホワイトボード。


(ホワイトボードに何か貼ってある……?もしかしてあれは地図?)


地図には四方を森に囲まれた村が描かれていて、村の西側には同じような建物が6つ並んでいる。


(もしかして、あれってさっき私たちがいたコテージ?ということは、あの地図に描かれてるのは今私たちがいる村……!?)


「あ、あの……」


地図に気がついた伊織は話しかけようとするが、朝食を食べ終わった別所院が一足先に立ち上がる。


「食べながらで良いから聞いてくれないか」


彼はそう言いながら部屋の隅にあるホワイトボードを引っ張ってきた。


「このデスゲーム、3日目から襲撃が始まるのはお前たちも知っているだろう?」


(……襲撃……!?そんなのがあるの!?)


伊織は思わず息を飲む。


「ええ、確か襲撃者に捕まれば脱落。つまりはそこでゲームオーバー、そういうルールだったわね」

「でもさぁ、2日目までは安全なんでしょ?」

「そうだ」


他の参加者は既に知っていたようで、驚いた顔を全く見せなかった。


(なんだ……じゃあ今日と明日は脱落することは無いのか……もう。急に襲撃とか言われたからびっくりしちゃったな)


「よって今日から2日間探索をする」


別所院はホワイトボードに張られている地図を手に持っているマグネットで指し示す。


「森は時間がかかるだろうから明日に回して、今日は村の中を探索する」

「こ、この村も結構広そうですけど、全部調べるんですか?」


食事中は一切しゃべらずに黙っていた的居が別所院に尋ねる。


「いや、今日調べるのは一ヶ所だけだ。他に目立った建物はこの村には無いようだからな」


別所院は村の東側にある建物を指差す。


「今俺たちがいるのがこの食堂だ。そして……」


彼は指先を食堂の南、すなわち村の南東部へと動かした。


「ここに廃墟があるだろう」


そこには「廃墟」と記された密集した家屋が描かれていた。


「今日はこの廃墟を重点的に調べようと思うんだが、何か意見はあるか?」


別所院はそう言って他の5人に意見を求めた。


「無いわ。他に調べる場所も無いって話だし、それでいいんじゃない?」


七尾が他の参加者を見やると、七尾と別所院以外の全員が首を縦に振った。


「決まりだな……もう全員食べ終わっているようだし、10分後に食堂前に集合だ。それまでに準備を整えておけ。いいな?」


こうして6人は休憩を挟んだ後、廃墟の探索に出かけることになった。

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