雨降り
今日は雨の日。肩身の狭い・・ではなく肩の冷たいエヴィルがエリスとお散歩。そこで彼等はとある病院と出会う。そこは暗い過去を持っていて・・・
これはとある人外なボディーガードの奮闘記。
雨降り
今日もボディーガードだ。そして今日は雨だ。だから今日は大人しく家で・・・・しない。少なくともエリスがそんな性格をしていたら、俺の精神的疲労は今の二分の一になっていただろう。で、やっぱり例のごとく散歩。だが今日に限って森だ。何故?と疑問に思いながらエリスに傘を差してあげている。正直、左肩が冷たい。やめたい。でかい傘を使っているのだが、エリスが濡れないようにするには俺の左肩が犠牲になる。やっぱりやめたい。だが、被害を被ってるのはエリスも同じようだった。
「もう。雨のせいでスカートの裾がびしょびしょなのです。」
「じゃあズボン穿いてこいよ。森なんだし、ここらは舗装されてるけど結局汚れてるじゃねーか。」
「あれは特別な時用なのです!」
まぁ、いろいろ言ったが実は俺はここが気に入っている。雨が葉っぱに当たる音が聞いてて気持ちいい。要望を付け足すならこのまま何も起きないで欲しい。どうせ何か起こるのだろうが
しばらく森を進むと、
「あ。」
エリスが指を指す。その先を俺も見ると、
「・・・なんだあれ?」
まぁまぁでかい廃墟があった。近づくと、元病院だったのか、やっぱりでかい。とりあえずやってみる。が行動の基準のお嬢様だ。とりあえず入っていこうとするが、
「やめとけ、崩れたらどうすんだ。」
さすがに俺が止めるが、行ってしまう。雨でドレスが濡れるが、気にする様子がない。全く、ドレスが濡れるとか言ってたのはどいつだ。(あと、カタブツ。と小声で言ったのはこの先覚えとくからな。)
とりあえず中に入る。酷いものだ。ガラスの破片が散らばっており、患者用ベッドは錆び付いて足が折れているが、屋根は何とかもっているのか、意外と雨漏りしている場所は少なかった。エリスは物珍しそうにあちこちキョロキョロしている。まぁ、こんな廃墟は俺も一度見たことがあるぐらいだ。エリスにとっては未知の世界だろう。
「なんか、幽霊でも出そうだな。ここ。」
「ついに血迷いましたかポンコツ骨頭。」
「おい聞こえてるぞ。」
それにしても、いつ潰れたのだろう、この病院。劣化して文字が読めなくなった物も多いが、重要そうな書類も残されている。なんとなく『夜逃げ感』が漂っているが、
「夜逃げではありませんよ。」
後ろから突然声を掛けられた。振り返ると身なりのいい男性。微笑んでいる。年は六十ほど。
「夜逃げではない?どういうことですか。」
一応敬語にしながら俺が聞くと、
「ええ。この病院はね、二、三年までは人気のある病院でした。私はそこの医者で毎日生き甲斐を感じながら仕事をしていました。勿論、病院などは繁盛しないのが一番なのですが・・・たくさんの方々に愛されていましてね。」
ほう、と俺が答える。なら何故ここまで廃れたのか。そう思うと俺の考えを見透かしたように、
「ここの院長が急に体調を崩しましてね、確かに持病持ちでしたが、少しずつ快方に向かっていたものですから、まわりも対応できずにすぐに死んでしまいました。その人は人望があった方ですから、それでも病院は続いていました。」
そこで声の調子が変わった。
「街の方に大きな病院ができました。そこではこの病院よりいいサービスを受けることができるということを知ると、皆、そこに移っていきました。病院の業績は傾き始めましたが、まぁ、そんなこんなで細々と続けてられていました。あの事件が起こるまでは。」
と、そこで俺は異変に気づいた。ベッドが、俺達の周りを取り囲んでいる。まるで俺達をここから出すまいとしているように。
「突然、病院で発砲事件が起きたんです。複数の人間で行われ、死者は八人、怪我人は何人も・・・犯人は逃走。私は何とかやられず済んだのですが、看護師も沢山やられたのでこの病院では何もできませんでした。先程話した大きな病院に運び込み、何とか手当てを受けることができました。でも、もう病院を建て直すことは無理だった。看護師や医者の怪我が治るまで業務を再開できなかったし、それはとても大きかった。そして、何故かどの新聞社も、それを取り沙汰しなかった。」
病院がだんだん狭くなっていく。俺達を、潰そうとしているのか。あわててエリスの手を引き、病院から出ようと走る。が、なかなか前に進めない。
「全部、リーガン・メルチの策略だったんです。あの病院を作った。あの男の。あの襲撃者だって、新聞社だってあの男から金を渡されていた。私はあとから、新聞記者である友人からそのことを聞かされました。」
エリスが何か言いたそうに口を開く、が俺はその口を塞ぐ。今この少女がリーガンの娘と知られることはこちらにとってデメリットにしかならないだろう。
「でも、もういいんです。私は幸運にも私はここと繋がることができた。私はあの記憶と共に生き続けるんです。そして、あなた達も来てくれた。これで寂しくない。さぁ、私と共に暮らしましょう。この場所で、時が果てるまで。」
ベッド、デスク、薬品棚。全てが俺達の元へ迫ってくる。男は微笑みながらこちらを見ており、何故かアイツだけには物が当たらない。なんとか『移動』で時間は稼げているものの、エリスを守りながら捌ききるのは難しい。
「ッ!」
飛んできたデスクを蹴り飛ばす。デスクはバラバラになりながら吹っ飛んでいった。
(クソがッッッッ・・・!)
と、その時、後ろの部屋のドアが音もなく開いた。その部屋から、見えない力が働き、俺とエリスは吸い込まれそうになる。マズイ。あの部屋に入れられればどうなるか分からない。少なくともエリスの命の保証は無いだろう。しかし、だんだんと部屋との距離は迫っている。俺は賭けることにした。わざと地面から足を離す。かなりのスピードで部屋に近づくが、なんとかドアの枠に手を引っかけることに成功する。間に合え。割れたガラスから見える外の景色が潰される前に俺はそこで、『移動』を使った。
まず感じたのは、目が眩むような激しい光、辺りに響く悲鳴。そして、手に付いた真っ赤な血。
「うわああああ!?」
久し振りに夢を見ていたことに気づいた。この体になってから眠らなくなった。いやな夢を見たものだ。何故今あの事を思い出したのだろう。と、俺は周りを見る。それは、あの森だった。雨はもう止んでいる。右隣には、エリス。今目を覚ましたようだ。そして、その逆には、
がれきの山。そこからはベッドやデスクの脚が飛び出て、そして周りにはガラスの破片。間違いない。さっきまで俺達が中にいた病院だ。
「・・・」
惚けたように病院だったがれきを見ているエリスの手を引き、
「帰るぞ。メイド達が心配する。」
と声を掛ける。エリスは、
「ん。」
とだけ返事をすると、俺の手を握る。二人でもと来た道を歩き始めた。俺はさっき起こったことが現実かどうかを確かめるため一度だけ振り返った。エリスも一緒に振り返ろうとするが、俺はその目を隠す。
「見るな。」
俺の声に何か感じたのか、エリスはすぐに前を向く。だって、見せられるわけ無いだろう。また、元通りになっているなんて。
ホラーっぽくしてみたのですが、どうでしょうか?リーガンの悪い所も出してみようと思ったのですが・・・