6 話は転んで、手塚治虫の火の鳥のことから、縄文時代&石器時代の考察と和歌のこと
私が軽く頬を膨らませてそっぽを向いていたら、Kから話かけてきました。
というわけで話の再開です!(笑)
K「だけど舞、平安時代がこういう恋愛観だっただけだろ。他の時代だと、もっと不倫にはうるさかったんじゃないのか」
私「それこそ認識が甘いのよ。なんやかやいっても、歴史をみてみれば今の道徳観念は通用しない世界だったって、わかると思うわ」
K「そうか~?(と、不審そうな声でKは言った) ん? 歴史って、どの時代のことだよ」
私「えーと、そうねえ、わかりやすいのは欧州の貴族のことだけど、今は話の流れのまま日本のことを先に話そうか。ん~と、あっ、そうだ。私ねえ、手塚治虫の火の鳥を読んだ時に衝撃を受けたのよね」
K「舞、また話が飛んだぞ」
私「いいから聞いて。時代は縄文時代くらいなのかな。ある村のお祭りの話で、新月の夜に若い男女がペアを組んで睦合うというものがあったのよ」
K「睦合う……それって、アレか」
少し頬を赤らめるK。いい加減いい年になっているんだからさらりと流せよな。と思ったことは内緒だ。
私「そうよ。それでね、確かこの村って、男と女は別々に暮らしていたみたいなのよ。だから、こういう儀式の一環で子作りをしていたんじゃないかと」
K「……それって……いや、所詮漫画だろ。手塚先生が創作した世界の話のことだろう」
私「でもさ、これが意外と真実かもしれないじゃない。他の動物の世界でも、メス同士が協力して子育てするというのもいるわよね。それが昔の人間にも当てはまるんじゃないかと考えったって、不思議はないと思わない。そうするとその前の石器時代も同じことが考えられるんじゃないかしら」
K「う~ん、石器時代ねえ。想像の外の世界の話だな。それで、舞がそう考えた根拠は」
私「根拠というかね、えーとどこの洞窟だったかな、壁画に狩猟の様子が残されていたのがあったでしょう。それって男たちが獲物を狩っている図だったわよね。じゃあ、描かれていなかった女たちは何をしていたのか。普通に想像を巡らせれば、女たちはどこかで子供を育てながら待っていることになるのでしょう。これが狩猟から農耕に変わっても、そのスタイルは変えられないと思うのよ。……ええっと、そうねえ、樹なつみ先生の獣王星って覚えている?」
K「樹なつみ? 八雲立つの人だよな。そんな話を書いてたか? OZならわかるけど」
私「話的にはOZに近いけどね。簡単に内容を話す?」
K「覚えているのかよ。というか、そんなものがあったのなら貸せよ」
私「本は買ってないよ。連載していたのを立ち読みしていたの。最初のほうは読めたんだけど、中間あたりから終わりの辺は(読みに行けないという意味で)読めなくて、最終回の文字で立ち読みしてから、そのあとに古本屋で全部読んできたのよ」
私の返事にガクリとするK。
K「お前……立ち読みで済ますなよ」
私「別にいいじゃん。で、内容だけど、未来の世界の話で、コロニーで生活するエリートの子供が主人公でね、ある時両親が殺されて死刑囚が送られる惑星に落とされたのね。そこはとても厳しい環境で生きるのが大変な弱肉強食の世界だったのよ。でさ、この世界を生き抜くために人々はリングという集団を作っていて、肌色で入れるリングが決まっていたのね。確か白人系と黄色人種系と黒人系の三つのリングがあったはず。それとは別に女性だけのリングもあったの。こういうところだから、やはり女性の数が少なくて番う時には、女性のほうに選ぶ権利があったんだよね」
そう話したら、何故か怪訝な顔をしてくるK。
K「舞、どこが石器時代と関係しているって?」
私「えっ? ……え~と、でも、男と女が別々に暮らすということが、わかりやすい話だった……と」
K「違う。全然違う。もう石器時代も縄文時代の話もいらん。終わり!」
私「え~、横暴~。でも、まあいいか。一応付け加えるとさ、その頃は子作りするのに時期があったという、手塚先生の説? も、あり得たんじゃないかということよ」
K「だったら、横ごとを話すなよ。……というか、やっぱりお前の記憶力おかしいから。なんでポンポンでてくるんだよ」
私「好きなものは覚えているものじゃないの。じゃあ続けて飛鳥時代に行こうか」
K「飛鳥っていうと、日本が国として基盤をちゃんと確立するあたりだよな」
私「まあ、そうなんだけどね。この頃って性に関してはおおらかだったよね~」
K「そうなのか?」
私「だってそうでしょう。万葉集だっけ? それとも他の和歌集だったのかな? その中の歌に残されているじゃない」
K「歌? えーと、百人一首になったあれか」
私「そうそう! あっ、でも、百人一首の中に入っているものじゃないからね、その和歌は。あれもねえ、衝撃的だったんだよね。同性に送った恋の歌が、いまも残されているなんてさ。今はかなりそういうことにも理解がある世の中になったと思うけど、まさか1300年くらい前にあけすけに送り合っていたとは思わないじゃない」
K「……それって」
私「古文の先生が懇切丁寧に解説してくれたのを、今でも思いだせるわ。この言葉は男性が使う言葉で、こちらが対応した返歌になっている。こちらも言葉の使い方が男性だって、断言したのよ。そうしたら、里中真知子先生が書いていた『天上の虹』でも、男同士のそういうシーンを書いていたのよ。確かその時に和歌を書き込んであったと思うのよね。……あっ、待って。あのシーンって誰か……そう、皇族の誰かが亡くなって、その葬儀の帰りだった気がするわ。個人を偲んでいたはずなのに……なんでそんなことになったんだっけ? 慰めからだったかな~。身代わり? う~ん、どうだっけ?」
K「……舞、また横に逸れたんだけど」
Kに指摘されたことは確かに、横に逸れた話だ。でも、話を戻す前に対談に関係ある話をしておこう。
私「確かにね。そこはごめん」
K「嫌に素直じゃないか」
私「でもさ、横に逸れついでに和歌の話をしてもいい」
K「和歌の話? どうして」
私「いやだってさ、対談で石田氏が言っていたじゃない。『この国においては、性欲をどう相手に伝えるかというのが一つの文化で、「源氏物語」の時代だと性へのエネルギーを恋の歌、和歌という形に変えて男女が送り合った』って。でね、『ちはやふる』ってわかる」
K「ちはやふるって有名な和歌だよな。それこそ百人一首の中の一首だろう」
私「そうよ。……じゃなくて、漫画の『ちはやふる』よ」
K「漫画? えーと、確か実写化されたやつか。広瀬すずが主演の」
私「そう、それ。……って、なんで知っているのよ」
K「そりゃあ同県民だし、いまは同じ市だろ。気にかかるだろ」
私「ふ~ん。まあいいや。それでさ、その作品の中で大江さんという子が言っていたんだよね。読まれた時代や歌の意味を大事にしてくださいって。確かにさ、奈良時代の歌と平安時代の歌とじゃ違うもの。でも、性へのエネルギーうんぬんは置いといても、恋のことを歌った歌が多いのは確かよね」
K「そうだったか? 百人一首なんてもう覚えてないからなー」
私「私もそんなに覚えているわけじゃないけど、でね、この時代の人たちって、たった三十一文字に思いを込めたわけじゃない。その語彙力ってすごいと思わない」
K「語彙力ねえ。ラブレターなんて書いたことないけど、短い文章で思いを込めるって、すごく難しいことなのはわかるな」
私「そうよね。私も話は無駄に長くならないように気を付けることにするわ」