2 アラフォー世代のあれな話
私「それじゃあ、真面目にいくよー。まずは対談の始まりのこれ。『朝ドラで「いつだって不倫は主婦の憧れ」とナレーションが流れて炎上した』というもの。石田氏が「40代以上の女性の欲望は世間で幽霊と同じ扱い。『ない』ものとして誤魔化して生きている」と言ったことについてね。私は炎上したという朝ドラは見ていなかったからわからないけど、でも不倫は憧れというのは暴論な気がするのよね」
私の言葉に無言で見つめてくるK。見つめ返したらKは口を開いた。
K「ほんとにやんの」
私「もちろん。付き合いたくなければ、返事を返さなくていいから、聞き流していてよ。勝手に考えを話していくからさ」
K「わかった」
私「憧れっていうのはさ、現実に起こらないと思っているから憧れると思うのよ。かなり前に流行ったけど『冬のソナタ』。あれで韓流ドラマに『はまる人』が続出したように、画面の向こう側のものだと思っているから憧れるわけでしょ。そうしたら『いつだって不倫は主婦の憧れ」』というのはおかしいわよ。現実にそんなことが起こったら、目も当てられないじゃない」
K「確かにな。現実に起こったら周りはいい顔をしないよな」
私「でしょ。このあとに芸能界の不倫問題として名前をあげられたY・TさんとY・Sさん。アラフォー以上の女性が不倫をした場合のいい例でしょ。かなり叩かれたもの」
K「そういえば。夫や子供がいるのにと言われていたよな」
私「だけどさ、これっておかしいっちゃおかしいのよね。不倫をしている相手の男性は、そんなに痛手になっていないでしょう。不倫をするのは一人じゃ出来ないんだから、どちらも同じように叩かれるべきだと思うのよ。でも実際は女性のほうが余計に叩かれているのよね」
K「お前って、不倫は否定派じゃなかったのか」
私「もちろん否定派よ。だけど、罰は平等に受けるべきだと思っているだけ。それともっと本音を言えば、芸能人が不倫しようが関係ないと思っているわね。勝手にどうぞ! よ」
Kが返答に困ったような顔をしています。私は苦笑を浮かべて言葉を続けました。
私「というかね、芸能人になったのなら周りから見られる立場なのをわかってほしいのよね。今は昔と違って簡単に不倫現場を押さえられるのよ。携帯のカメラ機能なんてものがあることだし。防犯カメラだってあちこちにあるわけでしょう。一応芸能人は憧れられる職業なわけじゃない。模範的な行動をしてほしいと思っちゃダメなのかな」
K「ダメじゃないだろうけど、難しくないか。浮気は男の甲斐性みたいな考えが芸能界にはあるだろう」
私「だから、そこよ。男が良くて女は悪いってやつ。ここにも『男の欲望は肯定されるのに、女の欲望は否定される時代』と、書いてあるじゃない。これってさ、女が欲望を口にするのも悪いってことよね。男性優位の考え方よね。それってさ~」
K「わあ~! 待った待った! 怒るなよ。というか、怒る相手を間違えているから」
私「別にKに対して怒ってないわよ!」
K「……それなら、その握り拳はやめてくれ。表情と相まって怖いんだよ」
失礼な! と、思ったけど確かに頭に血が上った気がする。少しクールダウンした方がよさそうだ。
私「えーと、それじゃあ続きのこっちのことにしましょうか」
K「(ぼそりと小声で)まだ続くのかよ」
私「なんか言った?」
K「言った。まだ続けんのかよ」
私「まだ何にも語ってないでしょう」
K「いや、これ以外の話題に行かないか」
私「え~、もうちょい語りたいんだけど」
K「……それじゃあもう少しだけ」
私「ありがとう。それじゃあこっちの柴門先生が言った『私の周りは肉食女子が多いのか、30代から50代前半くらいまでの友人はみんな欲望があって、話をすると恋愛を求めている』に、いってみようか」
K「結局欲望の話かよ」
私「だってさ、柴門先生も取材中って言っているじゃない。それに答えてくれた方たちが『エロス的な映画や小説が大好きで情報交換が活発で、あれは良かった、もっと読みたいとか、そこからいろいろと想像力を膨らませて楽しんでいる』と言っていたのにね、賛成かな」
K「エロス的な映画? そんなの見てるのか?」
私「映画は見てないわよ。小説はハーレクインが当たるんじゃないの」
K「ハーレクインは俺にはわからないんだけど……」
私「えーと、そうねえ、ロマンスと言っているけど、情交シーンがしっかりばっちり書かれているのよねえ」
K「……そんな情報いらねえ」
うへえ、という感じに顔をしかめるK。ふふっ。それじゃあ、ついでにいらん情報をぶっこんでおこうか。
私「あのさ、漫画ってさ、少年漫画はいろいろ規制があるじゃない。少女漫画のほうはもう少し緩くてね、いかにもそういうことをしています、なんてシーンが書かれていたりするんだよね」
K「ええっ! 普通少女漫画のほうがそういうシーンを書いちゃだめだろう」
私「私もそう思うけど、うれし恥ずかし初エッチのシーンが、書かれていたりするんだよ」
K「それはどこ情報だよ。……まさか舞、まだ少女漫画を買っているのか」
私「買っているわよ。悪い? 娘に買っているものなんだけどね。あと、今更40巻も買いたくないから、続きを読むために花とゆめを買っているし」
そう言ったらなぜか疑いの眼差しを向けてくるK。
私「何よ」
K「お前、娘ちゃんをだしにして買っているんじゃないよな」
私「そんなこと、あるわけないじゃない。漫画を買うくらいなら、他の本を買うってば。というか、話を横に逸らさないでくれる」
K「いや、お前が逸らしたんだろ」
私「逸らしたんじゃなくて、おまけ情報をぶっこんだだけよ。本当にさ、女性向けの漫画のほうが行為自体をはっきり書いているものが多いしね。それに需要に合わせて、いろいろ出ているわよね」
K「需要って?」
私「えーと……まあ……いろいろ……と、いうことで」
思いだしたものがあれで、思わずゴニョゴニョと言い訳にもならないことを言ってしまいました。「ふ~ん」と意味ありげに言った後「エ~ロ!」と、いいましたよ。くっそー。言い返せないのが悔しい。
K「それじゃあこの話は終わりにしような」
ニッコリ笑顔に言い返せない。拳を握って雑誌の記事に目を落としました。
私「あっ、待って。これ! ほら、ここ! これってさ、知りようがない情報じゃない?」
私が指さしたその記事を、Kはそこを声に出して読み上げました。
K「(柴門先生の言葉)『貞淑なおばあさまが歳を取って認知症になると、自分の欲望を爆発させる話を聞くんです。介護施設で職員を捕まえてとんでもないセクハラをするらしくて』って、やつか? 本当にこんなことがあると思っているのか、舞は」
私「もちろんよ。その前の対談の言葉にもあるじゃない。『私達より少し年上の世代は、処女が嫁入り道具と考えるのが当たり前だった』って。『処女じゃない子は新婚初夜でいかに処女のふりをするか、みたいなことが真剣に雑誌で特集される時代』とも、あるよね。この世代の人は抑圧されて生きてきたのよ。認知症になって抑圧から解放されたら、そういうことをする可能性はあるでしょう」
K「う~ん。そうかもしれないけど……」
Kが歯切れ悪くいうから、私は続きを促しました。
私「そうかもしれないけど、何?」
K「貞淑なおばあさまがということが引っかかる」
思わず冷たい視線を向けた私は悪くないと思います。どれだけ女性に夢を見ているのよ。
やはりここで終わらせずに、もう少し「女の欲望」について話すことにしようと思いました。