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14 浦島太郎からの……古事記に見られる土地と関係した話

私「桃太郎(いま)の話にも関わるんだけど、昔の漁師の船って普通は櫓を操っていたものじゃない。えーと、高知のほうのクジラを取る様な大型の船ではないもので、大概が一人か二人で沖に出て銛や網を使って漁をしていたと思うのよ。う~ん、とね、ダッシュ島にある船でわかる?」

K「ダッシュ島? トキオの?」

私「そう。ああいう船で漁をする場合あんまり沖合まではいかないでしょ。だけど波によっては沖まで出ちゃうことがあったんじゃないかなーと、思うのね。そうするとさ、黒潮に乗ってしまってもおかしくないじゃない」

K「黒潮?」

私「そうよ。それでね、たまに話題になる黒潮の蛇行のことなんかも関係してくるとも思うんだよね」

K「黒潮の蛇行? ……まさか黒潮に乗ってしまい、村に戻れなくなったとか言わないよな」

私「いや、まさしくそれでしょう。台風なんかの大波の時には、小舟で出て行くわけないでしょ。そうなると遭難する条件としては黒潮に運ばれるが正しい気がしない?」

K「だけど、どうやって戻ったんだ? 自力で戻れないくらい遠方に運ばれたんだろ」

私「そこは大型船に乗せて貰ったとか、陸路を歩いて戻るとか、本人に帰る意思があれば何とかなるんじゃない?」

K「いい加減な推論だな」

私「仕方ないでしょ。推測するしかないんだから。それでも浦島太郎の話ができるくらいに、十年以上の年月が経ってから村に戻ってきた人が居たのは、確かでしょうね」

K「十年以上?」

私「昔の人の寿命を考えてよ。十年離れていれば親世代の人は亡くなっているだろうし、子供だった人はいい青年になっているじゃない。そうしたら戻ってきた人を知っている人が居なくなっていたとしてもおかしくはないでしょう」


Kは「そうかな~」と半信半疑だ。けど、何を思ったのかパソコンで海流などと打ち込んだ。

……ざっくりとしたものしか出てこなくてガクリとするK。


私「何が知りたかったのさ、K」

K「舞の言う近海の海流を知りたかったんだ」

私「それだと……えーと確かやじきたで描いていた、……えーと、えーと海上保安庁だったかな? そこに問い合わせる……じゃなくて、そこのホームページを見ればいいんじゃないかな?」

K「はっ?」


怪訝な顔をしながらも海上保安庁のホームページにアクセスした。海洋情報部から海の情報へとあたりをつけて開いていく。


K「おっ! 潮流推算なんていうのもあるじゃないか」


瀬戸内海の潮流推算を喜んでみているけど、それは浦島太郎じゃなくて桃太郎のほうだろうと思った私。……言わないけどね。それくらいのやさしさは持っているからさ。


しばらくあれこれを見ていたKは「あれ?」と首を捻った。私のほうを向いたから、何か言われる前にマウスを奪い取る。


私「知りたいのはこれでしょう」

K「おー! 本当にあった」


なにやら楽しそうに画面に見入るK。その画面には細かい潮流の向きが矢印で描かれていた。前線が近づいている時などはほぼ一定方向だけど、風が強くない凪の時(だと思う……たぶん)には、意外と矢印の向きがバラバラだった。


しばらくマウスを操作して過去の潮流などを見ていたKは、満足したのか画面から私のほうを向いた。


K「それにしても相変わらず変なことを知っているよな。普通こんなもん知らないだろ。釣りとか趣味にでもしてないとさ」

私「私だって好きな漫画に出てこなきゃ、覚えてないもの」

K「出た! 舞花の漫画知識」

私「だー、かー、らー! バカにすんなや」

K「してねえよ。呆れているだけだって。えーと、それでやじきただっけ。それってどんな話だ?」

私「えー、覚えてないの? 貸したことあったよね。矢島ことやじさんと篠北こときたさんと呼ばれる女子が、学校を転校しまくっていろいろなことに巻き込まれるのよ。やじきた学園道中記って云って、今も最新シリーズが出ているよ」

K「やじきた学園道中記? ……ああ、あれか。番長が出てくるやつだろ。確か、関東番長連合のトップを争うとか、小鉄って忍びがいるとかしたやつだろ」

私「若干違うけど、それ」

K「それなら、そんな潮流がどうのって話は知らないぞ」

私「えー、それこそおかしいよ。だってさ、舞台が静岡なんだよ。基本(の舞台)は沼津だけど伊豆全般動き回ってたよ。Kだったら覚えているはずじゃん」

K「……なあ、それっていつ頃描かれていたんだ」

私「う~んとねぇ、多分私があっちで働いていた頃……じゃないかな?」

K「あのな、俺が読んでいたのは高校の頃だぞ。それも舞が妹に貸してくれたやつだけだ。それで続きをなんて知るわけないだろう」

私「あれ~? そうだっけ? でも、こっちに戻ってきてから貸さなかったっけ?」

K「借りてねえよ、漫画は」


う~んと思い出そうとしたけど、一部記憶があやふやで確証は得なかった。でも、うちの子が生まれてからは、本しか貸し借りはしていなかった。……いや、こいつは自分が先に読んで私が気に入りそうなやつは貸してそのまま置いていってくれていたじゃん。おかげで本の置き場所に困るように……と、どうでもいいことまで思い出し、キッとKのことを睨んだ。


K「なんだよ。睨まれるようなことは言ってないぞ」

私「あんたさ、うちを書庫代わりにするのをやめてくんないかな」

K「何をいまさら……というより、話がずれてんだろ」

私「こら、とぼけるな! これ以上増やすなって旦那に言われているんだからね」

K「それなら倉庫にしまうなり売るなり捨てるなりすればいいだろ」

私「私だってそうしたいわよ。でもKのものを勝手に売るわけにはいかないでしょ」

K「いや、ここに俺のもんはないぞ」

私「嘘だー。○○とか××とかはKが面白いからって置いていったやつじゃない」

K「いやそれ、舞にあげたやつだって。言ったぞ、俺は」

私「はあ? いつよ」

K「読んで面白かったから読むかって言ったら、お前が『読んでみる』って言った時に。俺はもういらないから読み終わったら好きにしろってさ」


……あれ~? これって私が悪いってやつか? でもさ、どれがくれるやつでどれがKが持っていたいものかなんて、その時に言われないとわからないじゃない。だから悪いのは私だけではないよね。うん。


K「で、話を戻すぞ。浦島太郎の話ができた背景は、当時の船の構造と潮流によるものでいいんだな。」

私「だから、そう言ったじゃない。でもさ、捕捉するのなら、ここいら辺は浦島太郎の舞台にはならないでしょうね」

K「どうしてだ」

私「いや、よく考えてよ。うちの辺から流されても辿り着くのは伊豆半島のどっかでしょ。伊豆辺りからなら、海を見ながら歩いてくれば住んでいたところに戻ってこれると思うんだよね」

K「断崖絶壁があっても?」

私「あっても。地形って本当に、大事よねえ。そういえば地形と言えばさ、古事記のヤマタノオロチの姿かたちって、あのあたりの地形を表しているよね」

K「はあ?」

私「あっ、違うか。あの地形をヤマタノオロチに見立てたんだ」

K「……おい、舞花。どうして話がそっちに飛ぶんだよ」

私「えっ、いや、だってさ、唐突に思い出したからだけど?」


軽く首を捻りながら答えた。……というか、これっていつものことじゃん。ねえ。


K「あー、お前ってそういうやつだよな。それじゃあ何か、次は古事記の話に行くのか!」


なぜか、やけ気味に言うK。……うん、どうやら話が長くなって、嫌になったようだ。それならヤマタノオロチのことだけ話して、そろそろ終わるとしようか。


私「そんなつもりはないけどさ。でも、ヤマタノオロチについてだけは語らしてもらうよ」


先ほどの地図を開き、ついでに『面白いほどよくわかる古事記』の該当ページも開く。


私「ヤマタノオロチの話はさ、スサノオノミコトがヤマタノオロチを倒すものだけど、その中にねオロチの姿が詳細に書かれているのよ。それは『八つの頭と八本の尾をもち、胴体は苔むし檜や杉が生え、その長さは八つの谷と峰を這い渡るほど』とあるじゃない。で、地図を見るとさ、斐伊川があるでしょう。支流が幾つかあって、ついでにここでかなり曲がっているのが見て取れるわけじゃない。河口から川の上流になる方をみたらさ、まんまだと思わない?」

K「まあ、確かにな」

私「それにね、注釈にもあるけど斐伊川ってしばしば氾濫を起こす暴れ川だったんでしょ。あと、あの辺りって鉄が取れるっていうじゃない。それがさ、オロチを倒して『草薙の剣』を手に入れたに繋がるわけでしょう」


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― 新着の感想 ―
[一言] うむ。 ヤマタオロチは、スサノオが、洪水をおこす化物を倒して、治水工事をしたという説があります。 あと、浦島太郎のモデルは、海の世界に仕事で出かけた王様。 桃太郎は、海賊を退治した将軍が、そ…
[一言] 話の飛び具合から、文字通り「浦島さん、どこへ行っちゃったんですか?」(笑) やじきた……読み切りの時から読んでました。 つか、市東亮子先生はデビューしたころから読んでました。 ああ、なつか…
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