13 昔話……というか古事記にも関係する話
さて、脱線させ過ぎた話を元に戻すことにしよう。
えーと、さっきは何の話をしていたっけ?
私「えーと、余分な雑学知識はここまでにして、さっきKが気にした昔話のことを語ろうか」
K「お前……余分な無駄知識だと言ったな」
私「雑学知識だってば! 無駄な知識じゃないもん。私が書く話に役立っているもん」
K「どうだか」
疑わしそうに私のことを見てくるK。どうやら魔女の処刑のことから意識は逸れたようだ。
私「まあ、そこはいいからさ、後回しにした昔話のことにいこうよ」
K「わかった、さっき言った桃太郎や浦島太郎の話だな」
私「そうよ。昔話って河童のことでも言ったけど、教訓が含まれている話が多いのよね。日本の話ではないけど、分かりやすいのは赤ずきんちゃんの話でしょう」
K「うーん、教訓としては親の言いつけは守りましょう、か」
私「まあ、一番はそれだよね。でもさ、その話ができた理由を考えるのに、作られた時期って大きいよね」
K「作られた時期ねえ。そんなものがわかるのか」
私「推測は出来るじゃない。一寸法師の話には京都が出てくるでしょう。お姫様と言ったら、平安時代でしょうね」
K「そう、断言していいのか」
私「だから、諸々のことからの推測だってば。えーと、消去法で時代の特定をしようか? まず江戸時代は江戸が中心と思われているから、ありえないでしょう。戦国時代及びその前の室町時代後期も違うわね」
K「室町時代後期なら可能性がある……わけないな」
私「そう。いくらなんでも争って荒れ果てた京都に行こうなんて思わないでしょ。それにね、鎌倉時代から武家が力を持ち出したころでしょ。立身出世を夢見るのなら、京都より鎌倉幕府へと行くか、もしくはほかの地方武士のところに行った方がいいでしょうね。そうなると花の都と憧れられた平安時代が、一番可能性が高いと結論が出るじゃない」
K「なんか暴論のような気がしないでもないけど、筋はそれなりに通っているように思う」
ウンウンと頷くK。
私「あとね、昔話に大切なのはその話の舞台になった場所よ」
K「舞台になった場所? それにどんな意味があるんだ」
私「大ありよ。そうでなければ桃太郎の鬼ヶ島も、浦島太郎の竜宮城、なんて発想も出てこなかったでしょうね」
Kは「場所、場所ねえ」と呟いた。
K「舞、地図はあるか」
私「ちょっと待って。これでいいかな」
カラーボックスからいくつかある地図から見やすいと思うものを取り出した。
K「桃太郎って岡山だったか。ああ、そうか。鬼ヶ島と言われている島がこれだったよな」
指さしたのは女木島。……ときどき思うけど、こいつもいらんことをいろいろ知っていると思う。鬼ヶ島のモデルの島なんて、あるとは知っていても島の名前まで覚えているのは……やはり何かしらのオタクなのだろうか。
K「舞、なんかすんごく失礼なことを考えてないか」
私「いや、普通のことを考えてた。よく島の場所を知っていたなと、ね」
K「まあ、ついこの間岡山に行った時にたまたま桃太郎の話が出たんで覚えていただけだよ」
私「……ん? 岡山に行った?」
K「ああ、仕事のことで去年の秋からあちこち行っているのは知ってるだろ」
私「それは聞いていたけど……そっか、あっちこっちに行ってるんだものね」
納得して頷く私。実際にその場所に行ったことがある(かもしれない)のなら、知っていてもおかしくないか。そう思ったら、Kからもう一つの情報が入った。
K「あとな、島じゃないけど鬼ノ城が築かれた鬼城山が岡山にあると聞いたぞ」
私「えー、それは知らなかった。えーと、鬼ヶ島で出て来るかな?」
キーボードをポチポチと叩いてEnterを押した。
私「……あった。ああ、そうか。吉備津彦の関係かー」
K「……お前って……」
呆れた声で言って、でも一言で止まったことに訝し気に見たら、思いっきり呆れた顔で私のことを見ていたよ。
私「なに?」
K「いやー、本当にいろいろ知ってんなと思っただけだよ」
私「ん~? ああ、吉備津彦のこと? ちゃうちゃう。なろうで仲良くなった人に岡山の人がいて、吉備津彦のことを書いていたものを読んだことがあるだけだよ。だから桃太郎と吉備津彦は私の中ではくっつかなくて」
K「くっつかないって?」
私「だからー、ちゃんと知識として私の中に納まってないってこと。桃太郎のモデルの話は聞いたことあったけど、気にしてなかったから」
K「珍しいな、舞が知らないなんて。古事記に出てるだろ」
私「Kはさ、私をなんだと思っているわけ? 私にだって知らないことは多いわけよ。それに古事記は読んだことがあるけど、あれって読んでいると頭が痛くなってくるのよね」
K「それこそ舞にしては珍しいことだな」
私はカラーボックスから『古事記』の文庫と『面白いほどよくわかる古事記』という本を取り出した。
私「ほら、これを見てよ。まるでどこぞの呪文みたいな神様の名前が連なっているでしょ。ルビがふられているところはいいけど、ふられてないと読めなくなるのよ」
と、原文の部分を見せた。
私「あとね、この本でわかるように原文と現代訳とが交互になっていて、ついでに豆知識的に注釈も入るわけじゃない。私が最初に読んだときは子供向けに訳されたわかりやすいものだったけど、それでも神様の名前には苦労したわね。まあ、読み物としては面白かったけどさ。でもねえ、私、古事記は全部を読んでないんだよね」
K「読んでない? なんで?」
私「最初に読んだ本に神武天皇以降の話がなかったからだけど」
K「続きを読みたいと思わなかったのかよ」
私「小学生に何を期待しているのさ。私の興味は少女向け小説から少年向けの推理小説へと変わっていったから。それにねえ、私は古事記として読んでいたんじゃなくて、日本神話として読んでいたの。神代の時代から人の時代に変わっていくのを読みたいと思わなかったしね」
Kは「そういうもんか?」と考え込んだようだ。でもすぐに「倭建命のことは人になってからだろ」と言った。
私「それはそうよ。というかさ、地元に関係ある話は読むでしょう。ある意味吉備津彦の話を書いた人と同じだと思うけど」
K「そうかー?」
私「というかさ、また話が逸れてるんだけど」
K「逸らしたのは、俺か?」
私「そうじゃないけど、肝心な場所の話をしないで古事記の話になっちゃいそうでしょ。だから聞いて」
Kが頷いたのを見てから私は言った。
私「桃太郎の話でね、なんで鬼ヶ島という島に討伐に行くことになったと思う?」
K「島に討伐? そうだな、簡単に攻めてこられないようにするためとか?」
私「それもあるかもしれないけど、それだったら鬼ノ城の通りに山城でもいいわけじゃない? それを島にしたのは瀬戸内が関係しているのでしょうね」
K「瀬戸内ねえ。……それって海賊のこととかか」
私「当たり! 瀬戸内海って他に類を見ない特殊な地形でしょ」
K「そうかー?」
私「そうでしょうが。あんなに島が密集しているじゃない。ただでさえ船が通りにくいのに潮の目によっては島に簡単に渡れないわけでしょ」
K「今は動力があるからそうでもないだろ」
私「いまの話をしてないでしょ。昔よむ・か・し! 手漕ぎで櫓を操って進んでいた船」
K「ああ~」
ジトーとKのことを見る私。Kは苦笑いを浮かべて手を立てて『すまん』としてきた。
私「ということで、さっき私が言った、作られた時期が大きいというのも分かってくれたかな?」
K「まあ、確かにな。桃太郎の話で出てきた鬼は、海賊に困らされていたからということからなら、納得だな。……それじゃあ、浦島太郎はどうなるんだ」