11 ハーレムについて語ってみようか
私「あはは~」
私はとりあえず笑って誤魔化そうと、乾いた笑い声をあげた。
K「こら、笑って誤魔化すな。それで、フェリペ二世のことはもういいのか?」
私「そうだねえ」
私はフェリペ二世やスペイン王国のことについて話したことを、思い返した。
私「一応まとめるとさ、スペインという国はカスティーリャの女王イサベルとアラゴンの王子フェルナンドが結婚して統合されたことで出来た国だけど、実はスペインという国はないんだよね」
K「……おい、また、別の事実が出てきたぞ」
私「まあまあ。そこはさらりと流してよ。本当はスペインという国がないんじゃなくて、スペインの憲法では正式国名が定められてないだけなのよ。それで、このスペインの繁栄の元を作ったのがイサベラ女王とフェルナンド王。統合はされたけど、それぞれの国王名は敬称……で、いいのかな? それが残っているから、肩書の一つとしてカスティーリャ王とアラゴン王の名前があるのね。フェリペ二世の父親のカルロス一世はイサベラ女王とフェルナンド王の孫になるのよ。二人の次女のフアナの子供。フアナはカスティーリャ女王だったかな。スペイン女王ではなかったと思うわね。フェリペ二世は父親から『太陽の沈まぬ帝国』を引き継いで、スペインの最盛期を統治していた人」
暫くKは何も言わなかった。そしておもむろに言った。
K「それだけ?」
私「これ以上何を言えと?」
K「もう少しフェリペ二世について何かあるのかと思ったんだけど」
私「いや、これ以上は宗教が絡んでくるからさ」
K「宗教か、またややこしい話が出てきそうだな」
私「うん。だから、この話はおしまい。それで、さっき言いかけたハーレムについて少しいい?」
K「嫌だって言っても、語るんだろ」
私「まあね。もともとハーレムって言葉はトルコ語で女性の居室、後宮を意味するハレムの日本語転訛なんだよね」
K「てんか?」
私「あ~、漢字はね、転じるの転に訛りをあててるねえ」
K「訛り? えっ。もしかして訛りでハーレム?」
私「そうみたいよ。で、ここから転じて一人の男性に対して多数の女性が取り巻く状況をハーレムと呼ぶようになったのよ。たださ、ハーレムものを扱った作品を見ていると、ハーレムのことを勘違いしている作品が多いよね」
K「勘違い作品? どういう意味で?」
私「よくあるのは、ただ女の子達を侍らせて喜んでいるのや、奴隷のように好き勝手するやつね。ほんと、胸糞悪いったら!」
つい吐き捨てるように言ってしまった。
K「舞、口調」
私「仕方ないでしょう! 気分が悪い作品が多いんだからさ!」
K「それは分かるけど、じゃあ、実際のハーレムってどうなっているんだ」
私「まず、今のイスラム圏の一夫多妻制度だけど、夫が娶れる女性の数は決められているのね。それと夫は妻となった人たちを平等に扱うことと、ちゃんと扶養できなければ、複数の妻は持てないのよ」
K「なーるほど。ちゃんとした責任が伴うわけだ」
私「そうなのよ。それなのに、そういうことを無視した作品が多いじゃない。あとさ、さっきから言っているけど、一夫多妻制になったのも、王族がハーレムを築くのも、女性のほうが多いことが原因の一つと、後は環境も大きいんだわさ」
K「環境? イスラム圏って、アラブのほうだよな。アラブのイメージはやっぱり砂漠、だよな」
私「そうよ。昼間は下手をすると50度を超えるかと思えば、夜には氷点下まで気温が下がるという、過酷なところよね。そんなところだと争いは多かったと思うのよ。そうなると女性に関する扱いも、慎重になるでしょう」
K「慎重ねえ。まあ、美人は自分だけのものにしたいって気持ちは分かるけどさ」
私「……Kも男だったんだね~」
K「おい!」
私「いや、だって、Kは結婚してないからさ。一時期は実は女性に興味がないのかと、本気で思っていたし」
K「そんなことを思うなよ。俺はゲイでもホモでもバイでもないからな」
私「わかってるって。それでね、女性を隠すようにしていたのは、守るためでもあったんだからね」
K「……流して話を進めるな」
私「いや、関係ない話は流すでしょ。で、日本の大奥でもわかるように、後宮って基本外界から隔離されるじゃない」
K「舞が振ったのに……」
私「あー、はいはい。私が悪かったってば。それでさ、後宮の規模って、権力者の力の象徴よね」
K「……力の象徴と言われたら、そうかもな」
私「いや、そうでしょう。力があるってことはお金も持っていて、それだけ女性を養えたわけじゃない。気に入らない婚姻もあったかもしれないけど、権力の象徴の女性をそう簡単に手放したとは思えないもの。そういったことを踏まえて、ハーレムものの話を作ってほしいと思わない?」
K「だけど、……虐げられた女性もいたんじゃないのか」
私「いたでしょうね。さっき話したメアリー一世とエリザベス一世の話も、陰惨な話があったもの。王家に清廉潔白はないでしょうね」
K「それならゲスいハーレムものがあっても仕方がないんじゃないか?
私「まあそうなんだけどね。側面から見れば、人質だもんね」
K「ほら、そうだろ。人質として考えれば、状況次第では虐げられたわけだ」
私「……ねえ、どうしてKは虐げられたことに拘るわけ?」
K「それは舞がその事実を無視するから」
私「無視ではなくて、ハーレムの成り立ちについて語っただけじゃん」
K「だけど清廉潔白な王家はないって認めんだろ。それならそういう話が書かれたって仕方ないだろう」
私「いや待って、私が言ったのは、ハーレムの成り立ちや実際の状況を知らないで、男に都合がいい話を書く輩が多いから、それを指摘しただけじゃん。事実を無視してないわよ」
K「どうだか。お前って夢見るところがあるから、悲惨な事実から目を背けてんだろ」
私の中でぷちっと何かが切れた気がした。
私「そんなに言うなら、悲惨な方面の話をしてやろうか。拷問道具や昔の人が実際に行っていた処刑方法とか。今の毒殺やガス殺、銃殺がすっごく優しく思えるような話なんかをさ!」
K「ほお~、そんな話ができるのならしてみろよ」
私「後悔しても知らないんだからね」
半眼で睨んでから、私は少し思いだすように考えてから口を開いた。
私「さっき名前を出したイングランドのメアリー女王とエリザベ女王なんだけどさ、どちらも幽閉されていたのは知っている?」
K「幽閉? えーと、確かそんな史実があったような?」
首を傾げて思いだそうとするから、私はウィキ先生からメアリー女王とエリザベス女王のページを検索した。
私「この頃のスコットランドの女王もメアリーって言わなかったっけ? 同じ名前が出てきて紛らわしいんだよね」
K「そっちはメアリー・スチュワートだろ。エリザベス一世の姉はメアリー一世じゃないか。紛らわしいけど、間違えるなよ」
私「紛らわしいって言っているだけじゃん。……ああ、ほら、エリザベス一世はロンドン塔に入れられたり、ウッドストックに幽閉されたじゃない」
K「メアリー一世のほうはどうなんだ。……ハートフォードシャーというところで幽閉とあるな」
私「でしょ。二人は父親のヘンリー八世から庶子に落とされたけど、殺されはしなかったわけじゃん。殺されてもおかしくない状況はいくつかあったみたいだけどさ。ヘンリー八世もテューダー朝を存続させたかったみたいだから、子供を弑することはしなかったようね。けど、結局その子供たちは子どもを産むことなく亡くなってテューダー朝は終わりを告げたんだよ」
K「……で、どこが後悔するような話だって?」
私「だ~か~ら~、ロンドン塔って牢獄として使われていたわけじゃない。それなら拷問部屋があってもおかしくないでしょう。ほら(と、ロンドン塔の拷問部屋と検索をする)、やっぱりロンドン塔にもあったじゃない」
K「いまは拷問道具も展示されてんだな」
私「そうだね。……じゃなくてさ、Kは拷問ってどういうものを思い浮かべるの?」
K「ん? そうだな、よくあるのは縛って鞭打ちだろ。他には指を一本ずつ折っていくとかかな」
私はニヤリと笑った。
私「甘いわね。そんなのは序の口ね」
K「……序の口って?」
私はパソコンを操作して拷問道具を検索して、絵つきのページを開いたのでした。