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ミラーコーリング  作者: ザ・ディル
1章 コーリングONE
8/28

8話 幻想話


 「えっ?」

 

 目から糸が消え、いきなり知らない二人が現れ、梶原(かじわら)は驚きを隠せなかった。

 

 見た目だけで正体が分かる。

 片方は人間、もう片方はシミラと同じミラーワールドの住民だ。容姿だけで分かる。

 普通の人間に対してミラーワールドの人間は、身体が宝石や鏡などの光る物で形成されていたかされてないのか判然しないが、少なくとも外見上はそのように形成されているように見える。だからソレがミラーワールドの住民だと分かった。

 

 

 「怪我はないです? 今日ワ災難でしたね」

 

 ミラーワールドの住民が、梶原に話しかける。

 

 「あっ、まだ名前を言ってなかったですね。私ワ、私の名前はフェイバリット。これ、英語らしくて日本語に直訳でお気に入り、って意味らしいワ」

 

 「いや、ニートの俺でもそんぐらい分かるから……。というか、君たちが助けてくれたのか?」

 

 梶原は事態がいまいち解っていない。

 テレポートでいきなり移動され、先ほどまで戦闘していた『鏡の異物』まで倒されれば、その出来事をすぐに把握するのは受け入れがたく、当然時間はかかる。

 

 「そう。私と、私の隣にいるパートナー――宮島(みやじま)(さくら)が助けたワ」

 

 梶原は、宮島桜のほうをちらりと見るが、彼女の興味は『鏡の異物』だった。

 巨大であるソレらに近づき、何かを観察していた。

 そんな不可思議な行動を見て、梶原はフェイバリットに話しかけた。

 

 「あれは……、何をしているんだ?」

 

 「回答しますワ。桜はミラーワールドからの脱出方法が複数あると考えています。その一つの可能性として『鏡の異物』の特殊性を研究しているのです」

 

 「ミラーワールドからの脱出方法が……複数だと……!? そんなことがあり得るのか?」

 

 梶原は『鏡の異物』を一万倒せば地球に帰還できることを知っていたし、恐らくは彼女も知っている。

 そして、それ以外にも帰還できる方法があるのなら、こんな死地をさ迷うようなことはしなくていいと、梶原は思っていた。

 

 「脱出方法が複数あるのかという、その質問は機密事項ですワ。この世界の私が答えられるのは、貴方たちがその解を見出だしたときですワ」

 

 『わ』、のときだけ機械にようなノイズが走る声の回答は、意外なものだった。

 

 「それってやっぱ、脱出方法が複数あるってことだよな?」

 

 「機密事項ですワ」

 

 これほど機密事項だと言われ、故に梶原は確信する。

 脱出方法は複数あるのだと。

 それと同時に、

 

 「梶原、怪我はありませんか? 所望すれば治癒を行いますが?」

 

 シミラが、こちらまで駆けつけて声をかけてきた。

 少し間を置いて、梶原は答える。

 

 「……俺は治癒要らないよ。それより、シミラ自身に治癒をかけたほうがいい。カマドウマに殺されかけただろ?」

 

 「……優しいですね、梶原。了解です。持続回復を自身にかけることを実行します」

 

 持続的に、自身に治癒をしたシミラは心地よく自身の回復を味わっていた。

 そこに、『鏡の異物』のもとまで見に行っていた宮島桜という名の少女は戻ってきた。

 

 「終わったわ、フェイバリット。収穫は、まあまあね」

 

 「それはよかったワ。研究は実りそうです?」

 

 「それは分からないけれど、収穫だけでみれば、今回は良かった。貴方たちも礼を言わないとね。ありがとう」

 

 ぺこりと、会釈するようにする桜は、背筋を戻すと同時に髪をかきあげた。

 彼女は髪が長く、その髪は紅に染められているように見える。

 梶原は、頭を掻きながらも桜と話をし始める。

 

 「桜さん……でいいのかな? 桜さんは、ミラーワールド(この世界)に来てからどのくらい時間が経っているのかな?」

 

 「それについては私が答えますワ。現在、彼女がミラーワールドに来てから二年三ヶ月十一日と、三時間四分三十二秒の時が経っています」

 

 「…………二年以上……」

 

 その年数を聞き、梶原は怯えた、恐怖した。

 自分はまだ、一日も経っていないのに、彼女はその何百倍もここで過ごしてきて……、考えるだけでゾッとする。

 桜は問う。

 

 「……貴方はどのくらいここにいるのかしら?」

 

 「それはワタシが回答します。今は梶原とともにして五時間経ちました」

 

 その言葉を聞いて、桜は眉をしかめる。

 

 「……貴方……嘘をついているの……? 私が訊きたいのは、私と同じそこにいる人間が、どのくらいミラーワールド(ここ)で生活しているかって話なのよ。五時間なわけないじゃない!!」

 

 怒りが籠められた声はシミラのほうを向いていた。しかし、シミラはそんなことを知らないのか、

 

 「ミラーワールドに来てから五時間と七秒しか経ってませんよ」

 

 そう答えるばかりだ。

 間違いは無い。無いが、あまりにも状況が悪すぎだ。

 仕方なく、梶原本人が言う。

 

 「シミラの言ってることは本当だ。俺はここに来てから五時間しか経っていない」

 

 これでシミラが嘘を言っていないと証明できたはずだ。はずだったが、

 

 「ははっ……嘘……嘘、嘘でしょ……あり得ない」

 

 渇いた声で笑い、渇いた眼により涙を流し、その場で崩れ去る桜。

 

 

 「私は二年以上ここにいるのよ!? ようやく初めて『人』と出会ったのに、それがさっきここに来たとか……あり得ない……!!」

 

 「…………」

 

 梶原はなぜ、彼女がこんなにも悲痛な眼で訴えているのか?

 なぜ、彼女はミラーワールドにきたばかりの地球人であれば涙するのか?

 まったくもって理解できなかった。

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