6話 『鏡の異物』は巨大である
梶原たちは既に、『鏡の異物』に襲われない空間から別れていた道の一つに入る。
辺りどこを見渡しても鏡や宝石、水晶など輝きを放つ物で天地が埋め尽くされていた。
「現在、『鏡の異物』は近くにいないと思われます」
辺りの輝きに引けを取らない少女――シミラは特に表情無く、そんなことを話す。
「なんでそんなこと分かるんだ?」
「そのような、性能をもっているからです」
梶原はシミラの言葉に違和感をもって、指摘する。
「性能をもっている……? 日本語おかしくないか、それ?」
「――? ソウデスカ? データ上の発言等から収集、選別した結果、性能をもっているという最適解を出したはずですが……」
梶原はシミラの言っていることがなんとなく解ってはいる。ただ、なんというか、引っ掛かりがあった。性能をもっているに対しても、今発言した言葉にも違和感があった。
だから、それはすべてデータのせい、ということにしておこう。今は。
「……お前のデータは少し偏ってるな……。まぁ偏ってることは気にはしないけど……、……そのデータってのはどこからきてんだ?」
「不明です……。ですが、随時データは更新されています。今更新されたデータは機密事項らしいですが……」
「なんだよ、その機密事項って……」
「機密事項はワタシも解りませんが、ある時をトリガーとして初めてワタシは外部データを知見できる機会を得るようです」
「……そうか」
梶原は顎に手を当てて、何か考えていた……ようだが、
「『鏡の異物』を感知しました。エネミーネーム、クモ。梶原、迎撃の準備を」
シミラは、梶原に注意を促す。
いよいよ、戦闘が始まるのだ。
「了解」
緊張故、あまり声を発しようとはしない。それは、相手に意識を向ける行為。だが、
「どこにいるんだ……、蜘蛛は?」
梶原は上を向く。
梶原はある程度だが、蜘蛛に対しての知識が人並み以上にあった。
だから上を向いた。一般的な蜘蛛は糸を張り待ち伏せをして、獲物を捕まえる習性が多いからだ。
しかし、それはクモでなく、蜘蛛である場合だ。
「クモは地の下にいます。それも、梶原の真下に」
「――!」
地面が瓦解する。それほどのエネルギーがミラーワールドを蹂躙し、宝石や鏡を崩しながらクモは現れる。
梶原は能力――造形操作によって、辺りにある輝く物を一点に纏めあげてそれらを足に着けることで、梶原自身をぶっ飛ばす。その先は当然壁なのだが、造形操作を使用して壁から斜面緩やかなものにすることで衝撃を無効にしながらジェットコースター気分を味わい、地に着いた。
「あっ……ぶね……!」
行動が終わったあとに、思わず声として、その言葉が出た。
「梶原、戦闘態勢をとってください」
「もう態勢とかの話じゃねぇだろ! 俺が前衛、シミラが後衛だよな!?」
「イエス、イグザクトリーです」
そうは言ったが、今は梶原がぶっ飛ばされてしまい、シミラが前衛にいた。
クモの動向を見ながらシミラは下がる。
当然、それをそのまま見過ごすはずのないクモは、シミラに向けて糸を吐き出す。
蜘蛛の糸ではない。クモの糸、それはガラスから派生したものだろうか、キラキラとして、透明なものだ。
しかもクモの吐き出す糸は大きい。それはクモ自身が大きいからだ。既に梶原がぶっ飛ばされていた。それほどの大きさだ。
クモの糸はシミラに数瞬で届き――、
「オー……、サンキューです、梶原」
「っぶねぇだろ!? なんで呆然と突っ立ってんだ!」
梶原の造形操作によって、シミラの目の前には宝石や鏡の壁ができていた。
「質問に回答。突っ立っていた理由は、あまりにも一時的にデータが膨大になったから」
「あっ? どういうことだ?」
梶原は理由が知りたかったが、次の彼女の発言でそれを知ることとなる。
「別種のエネミーが接近。エネミーネーム、カマド――」
シミラの言葉は音によって遮られる。異常で強大な音によって掻き消された。
梶原は思わずその音の方向に一瞥……、どころではなくガン見した。
「カマドウマ……なのか……、あり得ねぇ…………!」
轟くほどの音を上げたのは、巨大なカマドウマが梶原たちにあり得ない距離を跳躍したからだった。




