3話 幾何学模様造形操作
「再度答えます。梶原――貴方の能力は造形操作です」
「…………能力……?」
思わずその言葉に反応にして眉をしかめる。
そして、彼――梶原は、思ったことを口にする。
「なぁ。やっぱこんなのあり得ないだろ?」
「……? 意味を理解できません」
「こんな世界あるわけないだろ? 夢か幻術か……、幻術のほうがあり得そうだよな」
「反論。ここもゲンジツであることに変わりありません。ゲンジツの世界であり、ミラーワールドです」
「……平行線だな。いつまで経っても水掛け論になる。これ以上話すのは止めてくれ」
梶原はため息をつく。
しばらく、十を数える程度、会話は途切れていたが、
「梶原の能力についてご説明いたします」
「……俺の話、聞いてたか?」
梶原の話を無視したのか、視線を梶原に向けて、そう話すシミラ。
「まず、能力を使用したい範囲の設定を行ってください」
梶原には怒りがあった。なぜ、こんなわけの分からない場所に連れてこられたのか。疑問しかない。だから疑う、疑心暗鬼する。
だが、それでも気になったことは当然ある。それは、
「……本当に能力なんてのが使えるのか?」
梶原が能力を使えること。彼はそれがとても気になっていた。
「エエ、アタリマエデス。貴方にはその権利があります」
それを聞いて、内心安堵した。
そして、彼は問う。
「…………、……能力の範囲設定はどうすればいいんだ?」
「質問に回答します。能力の範囲設定はイメージするだけで範囲を指定することが可能です」
それを聞いて理解し、とりあえず地面、といっても宝石や鏡などの地面だが、そこから能力の範囲を指定した。範囲は、六畳程度だ。
「……指定したぞ」
「それでは、次のステップに移行します。指定した範囲から、作りたいものを創造してください」
シミラの言われるまま、梶原は作りたいものを創造した。
創造したのは、ベッドだった。
「……なるほど、作りたいものを作れるんだな。ただ……、これは大きい過ぎないか?」
作りたいものをイメージして作る。それは今、現実にそうなっていたので理解はできていた。ただ、梶原はそれとは別のことに驚いていた。
それは、そのベッドがあまりにも大きさすぎることだ。これでは、ジャンプしてもベッドに届くことさえ不可能な高さだ。
「原因は、範囲を大きくしてしまったためかと思われます。小さくすれば、貴方にとって快適なベッドを作ることが可能です」
「そうなのか? ……じゃあ――」
梶原はイメージして範囲を縮める。
「――ホントに小さくなるんだな……」
自分が範囲を縮小しながら再びイメージすることで、ベッドが小さくなる。
「これが梶原の能力です。理解できましたか?」
「あぁ。でも……ホントに能力なんて使えるんだな。しかも、こんなにいきなり……」
「質問に回答します。ミラーワールドでは、すべてのチキュー人が能力を発動することが可能です」
「……すべての人が……か。ってか、俺以外にもミラーワールドに入ってきた地球人がいるのか?」
「今現在、地球人が梶原以外いるか分かりませんが、いる場合は能力が自動で付与されます」
宝石や水晶で身体を作られた少女は、表情を変えずに淡々と答えた。
それに梶原は、少しため息混じりにはくように、
「じゃあ、俺が特別ってわけではないんだな」
梶原は少し、希望的観測をしていた。
それは、ミラーワールドで梶原という存在は特別だと思っていたことだ。
「――? 貴方はミラーワールドに来た時点で特別ですよ。呼んだのはワタシですが」
「特別? それは……俺を励ましてくれているのか?」
「――? 意味分かりません。ですが、ミラーワールドに来たのは特別だからですよ」
「…………ありがとう……」
梶原は嬉しかった。自分という存在を、こんなにも正面から特別だと、意味合いは多少違えども特別だと言ってくれることが嬉しかった。
シミラは「なぜ、感謝するのですか?」と、無表情ながらも小首を傾げていた。
それに、梶原は笑いながら応えた。
「それはお前が特別な存在だからだよ」




