15話 幸せのコール
「『真実の鏡』、お前いま、何て言った?」
「合格ですよ、二人とも。貴方たち二人の精神は、地球に戻っていいランクにまで昇華しました。ですから、あなた方の願いを叶え、このミラーワールドから立ち去ることができます」
急な出来事に、有栖は呆然とする。
「とりあえず治しときましたよ、腕から何まで」
有栖は失くなったはずの左手を見る。左手があった。
桜のほうも、腕が元通りになっていた。
腕だけでなく、心労から何から何まで治っていた。
あっという間の出来事に、二人は呆然する。
「私はミラーワールドを自由に操作できるんですよ? 何を驚いているんですか?
まぁ、何はともあれ合格。
特に要望がなければ、地球に還しますが、どうしますか?」
「シミラは……地球の世界に顕現させられるんだよな?」
「ええ、当然できますよ。桜さんも、フェイバリットを地球に連れていくようにしましょうか?」
その言葉に、桜はぽかんとしていた。
「そう言えば、桜さんには言っていませんでしたね。
『ボス』を倒せば、私が願いを叶えるって約束があるんですよ。それは貴方にも有効なんですよ、桜さん。当然、フェイバリットを地球に連れていくとかじゃなくても――」
「――フェイバリットを地球に連れていくようにして。フェイバリットはそれがいいって、知ってるから」
「……分かりました。願いを叶えましょう。
あとは特にないですか?」
再度確認をとる『真実の鏡』。
「なぁ、『真実の鏡』。本当に還れるのか?」
「当たり前ですよ。貴方たちは言うなれば、地獄の試練を潜り抜けたのですから。しかも最後には、自身がどうなってもいいとまで思いながら、相手を想っていた。それは腐敗した人間とは到底かけ離れています。ミラーワールドが存在しているのは、平たく言えば、ダメ人間を真人間にするための世界。その場所で成長した貴方たちだからできた芸当ですよ、さっきのは。だから、安心していいですよ。地球に帰れるのは、嘘ではないですよ。
では、そろそろいいですか、貴方たちを地球に帰らせても?」
有栖と桜、二人は互いを見合い、頷く。
「ああ、そうしてくれ」
「そうして」
二人は淡い光を帯びて、そしてミラーワールドから、消えた。
*****
朝。梶原有栖は目が覚めた。
朝。宮島桜は目が覚めた。
洗面所に向かう。
洗面所に向かう。
顔を洗い、鏡を見る。
顔を洗い、鏡を見る。
隣にいるのはシミラ。
隣にいるのはフェイバリット。
鏡の向こうから、声は聞こえない。
鏡の向こうから、声は聞こえない。
きっとあれは、夢だったかもしれない。
きっとあれは、夢だったかもしれない。
だけど、一部はまさしく現実だ。
だけど、一部はまさしく現実だ。
隣にシミラがいる。
隣にフェイバリットがいる。
全てが夢なはずはない。
全てが夢なはずはない。
彼女がその証拠。
彼女がその証拠。
忘れてはならない、あの日の思い出。
忘れてはならない、あの日の思い出。
死んだこともあった。
死んだこともあった。
絶望したこともあった。
絶望したこともあった。
だけど。
だけど。
今は、幸せだ。
今は、幸せだ。
ミラーワールドがなければ、有栖は変わらなかった。
ミラーワールドがなければ、桜は変わらなかった。
あの日の出来事があったから、今が楽しい。
あの日の出来事があったから、今が楽しい。
今が幸せ。
今が幸せ。
きっと、有栖のように何かに迷っている人がいる。
きっと、有栖のように何かに迷っている人がいる。
その人には幸せのコールが訪れる。
その人には幸せのコールが訪れる。
鏡の呼び掛け――ミラーコーリング。
鏡の呼び掛け――ミラーコーリング。
きっと困難が待ち受けている。
きっと困難が待ち受けている。
だけど、その先に。
だけど、その先に。
確かな幸せが待っている。
確かな幸せが待っている。
だから、鏡に飛び込もう。
だから、鏡に飛び込もう。
貴方の幸せを、掴むために。
貴方の幸せを、掴むために。




