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ミラーコーリング  作者: ザ・ディル
2章 コーリングTWO
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14話 死線の狭間


 梶原有栖は絶望した。

 

 ――このままでは桜が『消滅』する……っ!

 

 現実を受け入れなければ『真実の鏡』によって自我が崩壊され……桜は『消滅』する。

 『宝珠』に殺された過去を持っている彼女は、以前『宝珠』に殺されたことがトラウマで、それは今も払拭できていない。だから、このミラーワールドの『真実』を受け入れることなどほぼ不可能。有栖はそれを理解していた。

 だからこそ有栖は、

 

 「桜っ! 今すぐ戻れ!」

 

 「戻れ? どこに?」

 

 「そうですよ、有栖さん。

 何処に戻ると言うのですか?

 ここは『真実の鏡』。『真実』を伝えなければ、元の場所に戻すことは絶対あり得ない……!」

 

 「『真実の鏡』……頼むよ……桜に……戻る機会を与えてやってくれ……!」

 

 「駄目ですよ、梶原有栖。

 この世界のルールは法律と大差なし、差異なし。故に、ルールは破ってはいけない。もとから決まっていることなんですよ。決定事項なんですよ。これが覆ることは――あり得ない」

 

 事実、有栖は知らない――どこに出口があるかを。

 見渡しても白のみの空間。

 一体、どこが入口で、どこが出口なのか、皆目見当もつかない。

 

 「梶原有栖――貴方はどうしても桜さんを消滅させたくないようですが、この世界は――甘くない。ミラーワールドは破局した人間の性格の欠片――その終着点。その中で唯一活路を見いだせるのが、ミラーワールドの『真実』を知るもの。しかし、『真実』を知る覚悟を持っていなければ、ミラーワールドから出ることは私が許さない。だから私は、彼女――桜に『真実』を伝える。

 先に言っておきますが『ボス』と対決する前では、能力は発動できませんよ。そういうルールにしているんですから」

 

 『真実の鏡』の恐ろしさはこれだ。『真実』を伝えなければ絶対に逃げ切れない、そして『真実』を知れば『人』が消滅するという、その一点だ。その一点のみが、梶原有栖たちにとっては恐ろしくおぞましいものだ。

 そして『真実の鏡』は『真実』をすぐにでも伝えようとしている。

 

 有栖は、思う。

 ――桜を消滅させることは、許さない。

 

 それは覚悟、決心であり、それ故に理論を超越した。

 

 「なんですかこれは……!?」

 

 『真実の鏡』は驚きを隠せない。

 今、有栖は――有栖たちは『真実の鏡』の中にいる。そこでは、能力が発動できない。

 『真実の鏡』はそういっていた。しかし、現に今、梶原有栖は能力を使用している。

 自身の人体を――欠片を媒体として左手を失いながらも、その左手は形を変えて、糸のように細くしかし鋭い武器となり『真実の鏡』を貫く。血を吐く『真実の鏡』。さらに繋ぐ――『真実の鏡』から溢れた結果、物体となった血を媒体にして、凝固化。

 圧倒的物量で『真実の鏡』を破壊する。

 梶原有栖は限界だ。初めて手を失った。尋常な痛さではないだろうし、体力など考える暇もないほど疲弊する。それでも必死に足掻くのは、桜を助けるため。

 有栖は、リソースを全て『真実の鏡』にぶつけていた。全身にガタがくる。歯を食い縛る。気力で能力を発動している。

 『真実の鏡』を破壊している。

 『真実の鏡』は血が吹き出ていた。

 有栖の猛攻。

 『真実の鏡』は崩壊――否、世界が止まる。

 

 「――!?」

 

 有栖は身体が動かなくなる。同時に能力も扱えない。焦る、焦燥。このままでは、桜は『消滅』する。

 

 ――それだけは!

 

 止めなければ、いけない。

 しかし身体は動かない。たとえ自身の命を賭けても桜を助ける気持ちがあるのに、指一本動かないこの状況。

 

 「さて、私にミラーワールドの権限があるとはいえ、梶原有栖。まさか私の『ボス』の部分を強制的に取り出して、ここまで『ボス』を追い込むなんてね……。本来なら、正式な制定に従ってやるべきなんだけど……これはもう、手遅れね。『ボス』として立ち回らないといけなくなった。

 その挙げ句、ミラーワールドの時を操らないと勝てないなんて、ね。まぁ止めたのは有栖の時だけなんだけどね」

 

 そう言いつつ、『真実の鏡』は修復する。まるで、ケガなどなかったように、全てが元通りの身体になる。血の一滴も出ない身体。

 つまり、万全の状態。

 有栖は左手を失っていて、さらには身体が動かない。

 

 ――動け!

 

 心でそう願っても、身体は動かない。

 このままでは、桜も有栖も死――、

 

 「アロー、属性:最終(エンド)!」

 

 桜の髪色は黒となる。

 同時に、片腕を失う。

 片腕の代償とした矢は凄まじい威力を持ち、『真実の鏡』に直撃する。矢が通ったあと、『真実の鏡』は存在していなかった。

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 痛みが跳ね上がり、桜は絶叫する。

 有栖は桜を見て、ようやく腕が消えていたことに気づく。

 

 「桜……お前……なんで……腕を、失くしてまで……」

 

 桜は今も、苦痛の表情をしていた。

 無理もない。腕を無くしたということは、神経の切断を行ったということで、むしろ悲鳴を上げないほうがおかしい。

 

 「……いま、治すからな」

 

 「大丈夫、よ。……有栖、あんたに心配されるほど、私はやわじゃない……」

 

 強がっているのは言葉と態度のみで、それ以外はよそよそしく、か弱く、弱く見えてしまう。

 

 「それでも俺は、お前を助ける」

 ――たとえ、俺の腕を失ったとしてでも、桜は絶対に治す。

 

 『真実の鏡』では、能力を使えない。しかし、身体――仮の身体を媒介とすると、能力がいくらか使える。それを体感していた有栖だからこそ、身体を媒介にすれば、人を助けられるということを理解していた。

 そして桜を治そうとして有栖自身を媒介とし桜の腕を治――

 

 「……っ!?」

 

 治らない。否、再び身体が動かない。

 

 ――これは!? まさか!?

 

 目の前に人影。

 少女だ。桜ではない、少女――『真実の鏡』。

 

 ――なぜ生きている!? このままだと殺され――

 

 「合格です、二人とも」と、彼女は言う。「『ボス』を倒されたので、合格です。貴方たちを、元の世界に還すことを約束しましょう」

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