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ミラーコーリング  作者: ザ・ディル
2章 コーリングTWO
26/28

13話 カワレ


 体感二日間。

 ミラーワールドの現在時間を有栖は全く分からない。

 だが、それは今どうでもいい。後回しにしてもらっても構わない。

 

 状況説明。

 『真実の鏡』は狂言回しだった。語り部だった。何でも知っていて、神様のようで、しかし幼き女の子で、そして『ボス』。

 混ぜてはいけないものが混ざって、それ故に起こったのは精神()殺し。

 

 だがしかし、二日間も経てばさすがに状況に、情況に変化は生じる。

 

 『残骸』となっていたものは有栖紛いに戻って、しかしながら全快とは言い難い。

 

 「ようやく……話せる程度には戻って来ましたか?」

 

 少女はそう呟いた。

 

 「まぁ……なんとか……」

 

 有栖は未だ、疲弊している。それほどまでの真実を知らされた。

 

 「話せる……というなら語り合いましょう。

 語って語って語り尽くしあいましょう」

 

 異常。異様。異質。

 怪異。奇怪。珍寄。

 

 明らかに、確然に、灼然に。少女は、彼女は、『真実の鏡』は人間の心など持っていないことを有栖は理解していた。

 だから『真実の鏡』を人間だと思わないで、何でも答えてくれる少女と有栖は見なした。

 

 「あぁ、質問するさ」

 

 「ではどうぞ。この『真実の鏡』は嘘を付くことはありません」

 

 「本当に嘘を付かないんだな?」

 

 「勿論当然当たり前。

 私は『真実の鏡』の思念体とでも言うべき存在。『真実の鏡』が『真実』を伝えなくては馬鹿馬鹿しいと。そうは思わない?」

 

 「思うよ。だからこそ、そう聞いた」

 

 「勿論。『真実の鏡』の名に嘘偽りはないとしましょう」

 

 「『真実』ではなく『真実の鏡』の名において嘘偽りがないのか?

 『真実の鏡』なのにまさか『真実』を話さないなんてことはないよな?」

 

 「……素敵ね(ディマーク)

 貴方は素晴らしいわよ。貴方であれば『ボス』を倒せるでしょう。

 私は貴方がその類いの質問をしなければすぐにこの世界からログアウト――消していたかもしれないのに、運よくか、はたまた実力か。とにかく貴方は私を満足してくれるものを持ち合わせているのかもしれない。

 

 では『真実の鏡』の名において真実のみをお話しすることを確約しましょう。

 貴方の質問は?」

 

 有栖は考える。この場合、何から質問するのが最適解なのか?

 しかし考えたところで所詮は順番が変わっただけだ。

 だから気になる部分から聞く。

 

 「質問だ。

 もしも、『ボス』に勝てば俺たちはどうなる?」

 

 「なるほどね。貴方はその答えを知りたいのね。

 答えは簡単。今の梶原有栖の一部、いえ、貴方自身が梶原有栖になるとでもそう言えばいいのかしら?」

 

 「もとの世界の自分と合流する。そういうことか?」

 

 「そうよ。

 もともと、この世界の目的は性格に“難”がある人が多く紛れているのだから」

 

 「多く?」

 

 その言葉に有栖は違和感。

 なぜなら、有栖が出会ってきた地球人(本当は地球人かどうかも怪しいが)は梶原桜のみ。他の人には会っていない。

 

 「なるほどその部分が気になりましたか。

 結論から言ってしまえば、ミラーワールドにきたのは貴方たちだけではなく、他の方々もいますよ。ただまぁ、全員死にましたね、今は」

 

 「…………今は?」

 

 「これからまたこのミラーワールドに来る人――大方の奴らは『性格』が来るわけだけれど、今は来ないように設定をしているんですよ。そうしないと色々と面倒なのよ」

 

 「……そうか。

 ? ちょっと待ってくれ……?

 今、“このミラーワールド”って……そう言ったのか? ミラーワールドは他にもあるのか?」

 

 「ええ。ミラーワールドは複数に別けられている。貴方は“104”と、そして現在は“256”のミラーワールドに来たわよ」

 

 その不明さ加減甚だしい数を無視して、あることだけを有栖は思い、口にする。

 

 「……質問だ。

 前世……104のシミラに会うことはできるのか?」

 

 それは、梶原有栖紛いにとって最も重要なことだった。

 

 「それは貴方の『願い』であれば、擬似的にですが可能ですよ」

 

 「『願い』?」

 

 「ええ。もしも『ボス』に勝つことができれば貴方の場合は梶原有栖そのものを取り戻し、さらに『願い』をも叶えることが可能ですよ。

 もちろん、物理的に不可能なものは『願い』にはなりませんが、貴方の『願い』を叶える場合は思念体のように、イマジナリーフレンドのようにしてシミラを地球に送ることができるのよ」

 

 それはつまり、地球に、ミラーワールドの住民を呼び寄せることが可能なことを示していた。

 

 「そんなことが……可能なのか?」

 

 「可能も何も、できるのよ。簡単に。十全に。もっとも、貴方にしか見えない状態にはなってしまうけれど、完璧にシミラよ。

 地球に現れるのは紛い物のシミラでもなんでもない。そこは私が保証する」

 

 「それは……よかった……」

 

 「安堵するのは勝手気侭至極どうでもいいけれど。貴方が言っていることは『ボス』を倒してようやく叶うことなのよ?

 何もどうして今現在安堵できるか、私には理解し難い。よければ是非ともその心の中身を私に打ち明けてはくれないかな?」

 

 強欲。

 知識の強欲。

 感情の強欲。

 強欲の……強欲。

 全てを、十全を強欲する。

 欲求を強欲して強欲する。

 強欲を強欲して強欲する。

 

 

 彼女はただ見たいのだ。彼がどのような選択をするのか? それを見たい。

 しかし。

 どうでもよくてどうにもならないことは、相手の心を全くもって十全と読める存在ではない。故に、地球人の取る行動に酷く執着してしまう。もっとも、相手が断ればそれまでのことだ。

 

 有栖は『真実の鏡』の発言に気を止めたが、眉をひそめる程度で疑問を流してから話し出す。

 

 「……俺はシミラに恩返しをしたいと思ってるんだ。散々、最悪なことに最大限巻き込むようになってしまったけど、その分シミラには地球を見てほしい。

 アイツに……地球を見せてやりたい……」

 

 「それがもしも、シミラたちの欲望ではなければどうするつもり?

 偽善者の行動だったらどうするつもり?

 シミラたちがそれを望んでなかったらどうするつもり?」

 

 「そのときはそのときだ」

 

 「……けっこうあっさり言うのね」

 

 「もう誰かの意見に左右されるだけは嫌だからな。シミラたちだって人間だ。強制的に地球に連れていくのは嫌だろうしな。合意を得てから願いを叶えてほしい。……それでもいいか?」

 

 ため息をつく『真実の鏡』。

 

 「まぁそれでもいいわよ。でも」

 

 「でも?」

 

 その発言を繰り返し、誰かが『真実の鏡』に訪れた感覚を得る。

 

 「貴方が『真実の鏡』?」

 

 「そうよ」

 

 梶原桜が『真実の鏡』に入ってきた。

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