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ミラーコーリング  作者: ザ・ディル
2章 コーリングTWO
25/28

12話 which?(生と死)


 白の空間。

 何もなく、やはり何もがないような場所。

 

 「貴方は貴方だけど、貴方は梶原有栖ではない。認識できた?」

 

 『真実の鏡』の真実は、梶原有栖ではない何かを絶望に落とす。

 堕ちた。

 真実の非情さ。真実の現実。

 

 有栖は確かに、心のどこかでは現実ではないと理解していた。あり得ない世界。あり得ない身体能力。あり得ない能力。何もかもがあり得ない。ならば…………『有栖』そのものも本当の存在ではない、そのように思っていた。

 

 人間は何かを得るために、何かを捨てる。

 人間は変わるために、何かを捨てる。

 それが『自分』だろうが、簡単に棄てる。

 非道。

 極悪。

 残酷。

 非情。

 悪辣。

 加虐。

 

 無意識に、異常な行動を人間は選択する。

 

 「…………」

 

 彼は足の力が抜かれ、腕、首、……すべての力が抜けて、仰向けに倒れた。

 

 ――俺は……俺じゃない…………?

 

 

 そんな考えを有栖ではない何かは思っていた。

 

 「あらら……倒れちゃった。まあ、人間ならままあることですけど……。でも倒れただけなら重畳。貴方はそれほど自我を形成できている。

 他の人なら消滅(・・)していた場合がほとんどなんですから」

 

 「……なに……を…………?」

 

 何を言っている?

 そう問うことさえままならない現状。

 

 「そのままよ。

 私がさっきの真実を口にすればその者は消える場合がある。文字通りね。理由としてはその存在が完全に、完璧に、十全に要らないと判断されたからね……。貴方は自我が強いから避けられたけれど。

 まぁ、これを一つの試練だと言ってもいいかもしれないわね。

 もっとも、一つ目の試練はミラーワールドを生き残れるか? そう言うことになるでしょうけれど……」

 

 「…………」

 

 有栖は反応する気さえなかった。

 それほどまでに疲弊。魂のような何かがごっそりと大部分抜かれた。

 それにもかかわらず、空虚よりも疲労の方が強い。だからまだ、有栖ではない何かは死んではいない。死んでいないだけで、生きているかどうかは怪しいが。

 

 「今から貴方には『ボス』――つまり私と戦う…………いや、少し違うわね。

 私だと仮定(・・)して、私のような者と戦ってもらう。それが一番解りやすいかな? 兎に角、戦ってもらう。

 早速戦ってもいいけれど…………まだ無理よね……」

 

 有栖の表情は、顔は、絶望で染め上げられていた。

 

 「待つ時間は無制限。永遠と戦わずしてこのままここで人生を終わらせる……なーんて方法もあるけれど、さすがにそれはしないでね。

 退屈だから。

 飽き飽きするから。

 つまらないから」

 

 その声は辛うじて『残骸』には伝わってはいるが、何も思うことはなかった。

 彼の心はズタズタに引き裂かれ、壊され、疲弊され、摩耗され、終わりかけているのだから。

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