10話 鏡は問いかけ、故に真実
有栖たちはミラーワールドの真実を探して、『真実』を得られることが可能かもしれない場所へと歩みを勧めていた。
歩き、敵がいて、倒す。
ファンタジーでありそうな、漫画でよくあるありきたりな展開。
しかし今回の場合はその機会を用意されただけ。本当の敵がいるとすれば、これまたベタにも程があるかもしれないが、己なのである。
*****
有栖たちは遂に、『真実の鏡』にたどり着いた。
「これが『真実の鏡』だよな?」
桜に確認をとる。
「そうね。まごうことなき鏡よね。これが『ボス』ではないことは明白……」
結局、いたのは『ボス』ではなく、『真実の鏡』だった。
明らかに目の前にあったのは鏡であったから。
しかし、
「これは『ボス』ですワ」
「これは『真実の鏡』です」
互いが、フェイバリットとシミラは違うことを言っていた。しかも指までさしていた。当然、同じ場所。『真実の鏡』に指の先端を向けていた。
「あり得るのか?
これは『真実の鏡』であり、『ボス』であるなんてことが?」
「いや、さすがにこれは……『真実の鏡』としか言いようがないわよね……」
壁にかけられていたのは完全完璧に鏡と言えるもの。
しかしながら、想像異常に大きい。それは、恐竜さえも軽く飲み込んでしまうほどにデカイ。
「シミラ、ここからはどうすればいいんだ?」
有栖は問う。
この先、何かをすることは理解していた。でなければ、目の先に見えるものが『真実の鏡』と言えるはずがないから。
「触れてください」
「触れる……?」
「触るでもいいですよ」
「いや、分かるけど……それって……」
――初めてミラーワールドに来たときにした感じに……ってことか?
ミラーワールドに呼ばれたのは、呼びだされた方法は鏡に触ることだった。それを有栖は思い出していた。
だから、もう一人の被害者に聞く。
「なぁ桜。こっちに呼び出されたのは鏡に触ったからだよな?」
「……うん、そうね。でもそれがどうしたの?」
「もしかしたら……このまま元の世界に帰ることなんてあり得るのか?」
「…………っ」
鏡に触れて帰ったなら、表から裏に干渉してしまい裏にきてしまったのなら、裏から表に干渉して表に、鏡に触れれば帰れるのは道理である。
「……っで、でもっ!
少なくとも普通の鏡だったら元の世界には帰れなかったわよ!」
この場合でいう、普通の鏡とはミラーワールドの多く見かけるなんら変哲のない鏡のこと。
「俺だってそれはさすがにやったよ。でも今回は『真実の鏡』だっ!
そのまま元の世界帰るかもしれない」
それは……今のシミラと前世のシミラを助けると思った有栖にとって、とても……非常に非情なものだった。
「『真実の鏡』に入ったからといって、地球には帰れませんよ?」
「えっ?」
だからその言葉は有栖にとっては朗報だった。
「本当か? シミラ?」
「ええ」
「よかった」
安堵。溜息。そして、
「じゃあ俺が先に入ってくるわ。それでいいか?」
「もちろん。気長に待ってるわ」
「ありがとう。それじゃ、また会おう」
そう言って、有栖は『真実の鏡』に入っていった。




