8話 出でるのは再び『宝珠』
人間と呼ばれる種族が、どれだけ醜いのかということを話すと訝しげな表情をとる人が多い。
しかしながら人は、少なくとも地球に対しては害悪さえ超える害人。異常にして異様で異質な存在。様々な言語を話し、他の生きとし生きる存在の頂点の支配者。知恵がチカラを増やす因子で、全てにおいて最強で最凶。狂っていて、それでいて地球上でもっとも賢い…………、……本当に、賢いと……、そう言える? 言えますか? 断固として、強固な意思を持って「人間賢い生き物だ」と、そう言えるのですか?
解を言うなれば、それは解さえないもの。人それぞれによって正解が異なると言っても間違いがない。だが、今現在地球の寿命を根こそぎ奪っている存在が人間だ。地球に対して賢い方法をとるのであれば人間なんて死ぬべきだ。地球に優しくないから地球に殺されるべきだ。
そして……地球から認識されるか不明瞭な場所である、そんな場所――ミラーワールド、そこは人を正すきっかけになる可能性がある。そう言っていいのかもしれない。それが裏でも逆でもない鏡の世界で、地球にもっとも害を与えない、人に対しての仮の対抗策で、たまたま偶然発生した人と鏡を繋げることを可能とすれ場所。それが、一般人が知ることのない世界かもしれない。
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ミラーワールドは当然鏡の世界であって、しかしおとぎ話とはなんら関係の世界。だから鏡の世界のように開けた視界を、空を見ることはできず、しかし洞窟のような場所でもきらびやかな物――鏡や宝石などが散りばめられて光が照り続いているのがミラーワールドだ。
足場はコンクリートのように硬く、しかし整備されておらず、慣れなければ走ることさえ困難だと思えるようなそんな場所。
有栖たちは今、『真実の鏡』を目的地として四人で歩いていた。
もっとも、シミラ――スカイブルーの髪色とエメラルドな瞳をもつ彼女は『目的地へのルート』を案内するため喋れない。そのため、残りの三人が敵を迎撃するための準備を整え、シミラを護衛しているからだ。だからシミラの前に有栖はいるし、そして――、
「……ストップだ、シミラ」
曲がり角の先を一番に見た有栖は怪訝そうな瞳をしていた。
「どうしたの、有栖?」
「アレはなんだ? 『宝珠』か?」
アレとは、一見少女のように見えたものだがまったくと言ってもいいほど違う何か。
少女の腕は――足は合計六本。二本は足として、残りは腕のように扱っている見える。そして白髪、眼は瞼から飛び出して――否、瞼などない。眼は皮膚のようには見えなくて、まるで宝石でも嵌め込んだ眼だ。
「どれどれ」と言いながらソレを見た桜は……、
「…………」
黙る。
「おい、どうしたんだよ桜? 知ってるならアレの正体を教えてくれ……よ……」
彼女は、桜は異常に怯えていた。
歯をガチガチ鳴らして、身体全体震えて手で腕だけでも抑えようと、しかし震えは止まらない。……だが彼女は口を開き、
「……『宝珠』……よ。かつて……私を殺した……ね……」
「…………」
彼女も既に死んでいたこと。それを有栖は忘却していた。
そして殺された記憶は忘れない。
当たり前のことで、しかしそれが影響して桜は震え続ける。
「酷なとこだけど……教えてくれ桜。アイツはどんな能力を持っている……?」
「……『虫』」
「……『虫』?」
「……厳密に言えば、『鏡の異物』を無数に召喚して使役する……」
「…………」
有栖はゾッとした。かつて、『鏡の異物』二体相手にしただけで死にかけた。それなのに『鏡の異物』が無数に出現するなら勝ち目がそもそもあるのかという考えに導かれても仕方ない。
「……少なくとも、私とフェイバリットだけじゃ無理。……有栖、貴方の力が必要よ……」
有栖は話し相手をしっかりとみる。
有栖を見ておらず、恐怖を見ていて震えている彼女。
だから、
「俺がなんとかする。フェイバリットを借りるけどいいか?」
「……えっ……うん」
「分かりましたワ」
有栖が選ぶのは桜と協力せず、しかし彼女を助ける行為。
「シミラはモードをバーサークヒーリングに、フェイバリットは能力で敵の撹乱してくれ」
「了解。モード:バーサークヒーリング」
「了解したワ」
そして彼彼女らは『宝珠』の前に姿を見せる。




