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ミラーコーリング  作者: ザ・ディル
1章 コーリングONE
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2話 フーイズシー


 彼の意識は途切れ、しかし当然のように意識は繋がれる。無造作に無作為に悪魔的な行為で、されどそれは人為的なものではない。

 

 「生きて、いますね」

 

 声が聞こえた。機械じみた、しかし少女でもあるかのような声。

 

 「……っ。……ここは?」

 

 「回答します。ここは鏡の世界――ミラーワールドです」

 

 「ミラーワールド……? ……って…………、なんだここ?」

 

 迷路のような場所であることが一目で判った。

 彼のいる空間は休息の空間なのか分からないが、細い道ではなく、というか道ではなく、ちょっと広い程度の空間。そこからいくつにも道が続いている。

 宝石のような、といか宝石そのものが辺りを、上も下も横も埋め尽くされ、輝きを放つ空間。そしてところどころに大小様々な鏡が張られていた。

 

 そんなファンタジーみたいな世界を拒絶する彼は、腕をつねったり頬をつねるが、当然のように痛みはして、幻想のような現実を受け入れなければいけないことを理解する。

 そこに、機械の声と少女の声が混ざった彼女は、

 

 「貴方は今、鏡の世界に迷い混みました」

 

 「それはお前が呼んだだけだろ! ……って、……お前そんな姿してるのか……?」

 

 目の前にいるのはミラーワールドに招待したはずの声で、少女ではあった。少女ではあったのだが、人間には到底見えない。

 瞳は花緑青(はなろくしょう)色の宝石で形どられ、それ以外の身体のパーツも、いや身体だけで捉えれば人間を模倣しているのだろうが、いかんせん宝石などによって丸みを帯びて無さすぎる。

 一つを例として挙げるが、彼女の髪はサラサラしてるようにはまったくみえない。それは髪が角張っているからだ。比喩でもなんでもなく、自然と角張っている。その理由は、彼女の瞳のような宝石が、彼女の青髪にも適用されているから。

 手足なんか異常中の異常だ。今にも割れそうな透き通った手足をしている。これも比喩ではない。肌色ではなく水晶のような透き通った色だ。

 服は宝石なのかは判然し難いが、多少は身のこなしが効きそうな服を着ているように見える。

 

 「ワタシはミラーワールド出身の者なので、チキューのような丸まった身体ではないのです」

 

 彼女は彼の意図を読んだのか、彼の疑問に答えた。

 

 「そう……か……」

 

 彼はまだ、ここにいるという状況に慣れていない。しかし、どうにかしないといけないことは分かっていた。だから言葉を続けざまにして、

 

 「ミラーワールドから出るにはどうすればいいんだ? えっと……名前は……」

 

 「シミラです」

 

 「シミラ……か。まぁいいや。帰れる方法を教えてくれ、シミラ」

 

 「エー、その質問にはいくつかの解があると考えられています。ワタシが知っているのは『鏡の異物』を一万、倒すコト」

 

 「……よく分からないな。『鏡の異物』ってのは?」

 

 「ゲンジツ世界における生き物に似たもので、さらにワタシたちに敵対心があるならばそれは『鏡の異物』で間違いないとデータが言っています。ノミや(アリ)、さらにはクモなどと様々な『鏡の異物』がいます。エンカウント率は少ない場合が多いです」

 

 シミラは淡々と彼の言葉に答えた。

 

 「なるほどね。まぁ、虫を倒せばいいってことだよな…………。……もしかしてそいつら普通のやつらじゃない?」

 

 「普通ではないとは?」

 

 「ミラーワールド……だっけか? この世界の虫は地球の虫と違うんだろ?」

 

 「地球の虫というものがワカリマセン」

 

 シミラは小首を傾げた。

 

 「シミラ……お前もしかして地球のことを知らない?」

 

 「チキューは青い。海がキレイ。四季があるとデータが言っています」

 

 「四季は地球全体にあるわけじゃないぞ……」

 

 思わず彼はそう突っ込みを入れる。

 

 「ソウデスカ。データを書き直して、記憶を保持します」

 

 まるで機械のように、堅苦しく話すシミラ。

 しかし、一瞬で少女のようになって彼の腕を掴む。

 

 「そう言えば、貴方のデータの採集をしていませんでした。データ採集の協力をお願いできますか?」

 

 「ああ……」

 

 腕をいきなり捕まれた反応で、我を少し忘れていた彼は適当な相づちをした。

 

 「では聞きます。貴方の名前は?」

 

 「………………梶原(かじわら)だ」

 

 「……? フルネームでお願いします」

 

 「梶原だけでいいだろ? フルネーム言わなくても梶原って呼べばいいだろ?」

 

 「ワタシはシモをご所望します」

 

 「――梶原梶原だよ……! 上も下も梶原。これでいいか?」

 

 梶原は少し怒り気味にそう言った。言ってしまった。

 そして当然、梶原梶原なんて名前ではない。

 

 「名前は梶原梶原ですね。では次。梶原の血液型を教えていただけますか?」

 

 「O型だ」

 

 「誕生日の月日は何座にあたりますか?」

 

 「いて座」

 

 「理解。O型といて座により…………データから答えを得ました。梶原の能力は造形操作です」

 

 「はっ? 今なんて言った?」

 

 思わず聞き返してしまう梶原だった。

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