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ミラーコーリング  作者: ザ・ディル
2章 コーリングTWO
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6話 従姉弟関係


 宮島桜――旧名、梶原(・・)桜。

 桜という人間は長い黒髪(・・)を弄るのが癖だ。否、髪だけではない。否、髪を弄ることが癖なのではない。

 痒いのだ。

 髪が、手が、足が、背中が、身体中すべてが痒い。常日頃つきまとい、異常に掻きむしりたくなる。

 しかし常日頃身体を掻いていればおかしな人だと疎まれて、変な人だと訝しげな瞳で見られる……。彼女はそれが嫌で耐えた。

 耐えた。歯を食いしばって唇を噛んで耐えて耐えて耐え抜いた。

 結果、それが異常だと見られて回りから疎まれてしまった。

 その疎まれから逃げて家に引きこもった。しかし、彼女は痒みから耐え続けた。

 だから髪を弄ることが癖になってしまっている。

 

 そして彼女は、梶原有栖と従姉弟の関係だ。

 

 しかし有栖は桜のことを桜だと――実の従姉弟だとは思わなかった。

 

 *****

 

 

 「やっぱり……忘れていたのね……」

 

 有栖に向けてため息を溢し、桜はそう言った。

 

 「いや、仕方ないだろ? 現世でお前の髪の毛は黒だし、それに暫く会ってなかったんだから」

 

 今の桜の髪色は紫で、だから……黒髪に近くて、ようやく有栖は自分の知っている桜だと認識できた。

 

 「だとしても有栖と私は従姉弟の間柄。それなのに髪の色が変わるだけで覚えてないとか……恋人同士だったら嫌われるどころじゃないわよ」

 

 「別にいいだろ、従姉弟なんだし」

 

 「そうね、貴方と私は従姉弟。でもね、それでも久しぶり出会えたから言わせて……。久しぶり、有栖」

 

 「…………」

 

 丁寧に、お辞儀をした彼女に有栖は呆然とする。そして、

 

 「……俺を……責めないのか? 怒らないのか? 俺はたとえ髪色が違ったとしても、あのとき桜のことが分からなかったんだぞ?」

 

 あのとき……とは当然一年前の出来事――ミラーワールドに連れられてきて初日。桜に会ったにも拘わらず桜だと認識できなかったことである。

 

 「バカね。ミラーワールドに来てから一日目なら私のことが分からなかったのは当たり前よ。こんな世界にいきなり連れてこられて現実と髪色でも違えば別人だと思うのは仕方ないわよ」

 

 「そういうもん……なのか?」

 

 「当然よ。私の場合、一日目は何も行動しなかったし、泣きじゃくれていたわよ」

 

 「お前がか?」

 

 彼女は目を細めながら、

 

 「何……? その信用してないって言いたそうな目は?」

 

 「お前の口から言ったから信用はする。するけど……ホントか?」

 

 「なんなの、その疑いの目は?」

 

 「疑っている、というよりは珍しいって感じだな。お前はけっこう決断っ早(ぱや)いって思ってたからさ」

 

 率直な意見を述べる有栖に冷ややかな目を向ける桜。

 

 「私をそんな目で見てたの?」

 

 「まぁ見ていたと言えば見ていた……かな?」

 

 「……いやらしい」

 

 「おいっ! 待ってくれ! どこにいやらしいワードがあったんだよ!?」

 

 困惑し、思わず大きな声で訂正を謀るが……、

 

 「私を勝手に決めつけていたんでしょう? いやらしいったらありゃしないわ」

 

 どうやらどうしても有栖にいやらしいレッテルを張りたいようだった。

 有栖は何も言えなかった。別に、いやらしい目で見てるのが真実かどうかも分からないし、少なくとも自分だけでは判らない、判断できない。だから、

  

 「……俺ってそんないやらしい目で見てるのか……?」

 

 恐る恐るそう聞いた。

 

 「……プッ……」

 

 「ぷっ……?」

 

 「……アハハ、おかしいわねーアンタがそんな目で私を見たことなんてないと思ってるわよ。軽いジョークよジョーク」

 

 「からかってた……のか?」

 

 「当たり前じゃない!」

 

 有栖は疑心暗鬼でいた。

 それは、彼はミラーワールドに来るまで自分の意思で動くことはなかったからだ。それが彼の過去によるシガラミ。

 でも、今は目的をもっている……とはいえ、そこまで人は変われるものではない。だから、

 

 「…………」

 

 有栖はこの場合、どんな反応をすれば“正解”か、それが分からなかった。正解なんてないのに。

 

 故、俯く。

 正解も何も言えず、それが恥ずかしく、申し訳なく、そう考えてしまうのだから今の動作を起こしてしまった、無意識に。

 

 「……有栖? 何を考えているのか私にはさっぱりだけど、顔を上げな!」

 

 「――!?」

 

 桜の口調が豹変し、それ故俯いていた顔を桜に向ける。桜との距離は、限りなく近い。

 

 「いい? アンタは私のできないことができる。それは絶対。だってアンタは一年前のやさぐれた顔はしてない。取り繕うにしてもアンタには覚悟が見える。新しい覚悟、できたんでしょ?」

 

 「……ああ」

 

 見透かされていた。

 有栖はシミラを救おうとしている。それも、『二人』とも。今はただもがくだけで精一杯だが、きっといつか会えることを信じて。

 

 「よし! 大丈夫そうね。じゃあ目的地に向かいましょ」

 

 目的地。それは有栖が今もっとも行きたい場所。恐らく桜もその場所を目指してたまたま出会うことができた。

 その場所は――、

 

 「『真実の鏡』に」

 「『ボス』のところへ」

 

 ……。

 

 「……えっ?」

 「……ほぇ?」

 

 意味が分からなかった。

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