5話 集中力操作自在
『宝珠』との会敵――!
恐怖完了。
空間把握。
自意識低下。
自虐完了。
集中力増加。
覚悟……開始……!!
『影』である『宝珠』に、有栖たちは飛び出た。
もちろん、無策で現れたわけではない。
「――――」
飛び出たことにより『影』は有栖を見遣る。
刹那、有栖は壁に造形操作を使用。発動したのは『影』の死角だと思われる場所。
それによって死角からの攻撃を仕掛ける。
有栖の考えは、気づかれずに『影』を押し潰す――ただそれだけ。
しかしそれは叶わない。
「なっ――!?」
『影』は分裂する。
人型の形を崩し、液体が飛び交っているのではないかと錯覚を起こすほどの分裂。
――前に戦ったときにはこんなことは――
以前、この『宝珠』と戦ったときは亀裂を因子として分裂した。
しかし今回はどうだ?
『影』が亀裂がまったくない場所で、いきなり水の飛沫のように分裂した。
これは――、
――『影』が進化をしているのか!?
有栖はそれしか考えられなかった。
しかしその考えは刹那で捨てる。無駄なことを考えれば死ぬ。今は『影』を倒すことに集中する。
『影』は襲ってきている。有栖を、そしてシミラを。
シミラ自身は『影』の攻撃を実質無効にできる。それはエナジードレインによって『影』を弱めることが可能だからだ。だからといってほっとけば、今度は『影』の量が異常になりエナジードレインを使用しても焼け石に水状態で、さらにはシミラが危険に晒される。
だから有栖は『影』をなるべく多く引き寄せる。
「――!」
能力――造形操作によって、『影』を有栖に引き寄せる地形に変化。
そして、多くの『影』は有栖を襲う。
……集中する。
今、この『影』すべてを対処できなければ、有栖は死ぬ。
約束を――今度こそシミラを、自身が死なずとも助けるとそう決めた。それを忘れてはならない。
だから……集中する。
『影』の一つ一つの変化をつぶさに観察する。時間はまるで止まったかのようだ。
有栖の意識は鮮明で、物事の一つ一つをこと細やかに把握できていた。
それは殺されると思ったからか、はたまたシミラを護ると誓ったからか、それとも――――
とにかく、あることを起点として彼は今、目覚めたのだ
C.E.C.――先天性集中力過剰に。
否、有栖の場合は後天性、C.D.F――集中力操作自在に目覚めた。
先天性集中力過剰、その精神疾患のメリットのみを受け持った存在になった。
それは一コンマの速さ、それさえも遅く感じるほどの集中力を発揮させる因子。
一つ一つ、すべてを把握して、有栖は行動する。一つ一つ、何も取り溢さずに情報を刮ぎとる。さらにら貪りの限りを尽くすまで刮ぎ刮ぎ落としてソレを貪り食う。
無数の『影』を造形操作により対処。しかし――、
「――っ!」
集中力操作自在を得たとしても状況はひっくり返ることが難しい、それが今の現状だ。
そもそも、『影』のチカラが強大になりすぎている。
圧倒的物量によって有栖はねじ伏せられるのだ。
シミラは自分を守るだけで手一杯。
絶体絶命。
有栖は死ぬ――死んでいた――集中力操作自在によって彼女らを感知していなければ。
「桜っ――!」
その声は遠く離れ、しかし有栖たちの現状を秘かに見守っていた少女たちに協力を求めた。
「アロー、属性:紫電!」
稲妻が如く、稲妻より迅い矢が有栖とシミラを除いて、飛び交って次々と『影』たちを貫く。
それまで痛みを発することのなかった『影』は中途半端に一つに戻りながら、地面をもがき、声にもならない声をミラーワールドの世界で木霊させる。悲痛な悲鳴はやがて消え、死に絶えた。……消えてしまったというほうが正しい死に型だったが……。
「よく気づいたわね、梶原」
紫色のロングヘアーを靡かせ、フェイバリットによって梶原有栖の隣までテレポートで来た。
桜は――宮島桜は少し笑っていた。それは一年前の怖い表情ではない顔で。
有栖は申し訳なさそうに言う。
「一年前、気がつかなくてすまなかった。宮島桜――いや、梶原桜」




