3話 新たな選択
辺り一面に、宝石が、輝石が、鏡がある世界がこの世界――ミラーワールドだ。
「有栖、貴方にお知らせすることが複数あります」
「なんだ?」
唐突にシミラは話題を変えて話し出す。
「貴方は今回で『二回目』以降なので脱出方法の選択が与えられることが可能です。選択を増やしますか?」
「――!?」
あまりに卒爾な告白は、有栖を困惑させるものとなる。
答えがない故、ずいッとシミラは有栖に近づき、
「再度確認します。脱出方法の選択を増やしますか?」
「……ああ、頼むよ」
あれほど――……、一年の歳月をもってしても手に入れることのできなかった情報を得られることは喜ばしいが、有栖は同時に戸惑い、そして何かを懸念する。疑念する。何か……ヤバいのではないかと。
どこかに危険が孕んでいるのかと、脳内の危険信号は警鐘を鳴らす。
しかし、だからといってそんなことを考えては前に進めない。だから、有栖はこれを受け入れるしかなかった。
「脱出プランの説明をします。ワタシのあとをついていけば、『真実の鏡』に辿り着けることを確約するメソッドがあります」
――『真実の鏡』? 何かはよく分からない……分からないが、……行くしかない……よな。
「……分かった、ついていく。だけどその前に質問だ。……『鏡の異物』や『宝珠』に出会うことなんてないよな?」
有栖がここに来てからの日常はすでに『鏡の異物』を狩る日常を強いられてきた。だから、危機的能力が上がったのだろうか? 有栖はあることを懸念する。
それは、もしもシミラによって案内されている間に『鏡の異物』が襲ってきた――それも複数で襲ってきたならば、倒せるかどうか危ういということだ。
だが、恐らくそうならないだろう。シミラが案内するなら、シミラは案内することしかできないはずだ。シミラは一つのことしかできないから、戦闘はできない。厳密には少し違うとも思うが……。だからこの間は無防備で、だから当然安全に『真実の鏡』までたどり着けるはずだ。
ともあれ、そんな理由から梶原有栖という人間は、念のためシミラにそう問う……のだが、
「いや、出会いますヨ」
「……はっ?」
騙された……否、騙されてはいないのだが、予想外の返答に有栖は困惑した。したけれど、
――そう言えば、あのシミラもこうなったことが多かったよな……。
そんなことを考えたから、怒りはない。むしろ、酷く心が痛む。あのときシミラは救えたが、自身が死んだことであちらのシミラが落ち込んでいると考えると辛くなる。いや、それ以前に本当に『影』を倒せたかも有栖にとっては分からない。
「……? どうかしましたカ?」
丸みを帯びないその体躯は、やはり一年間いたシミラとはまったく変わりがなくて、けれど声は機械的な声が強くなってしまって……。
「……必ず助けてやるからな……」
低く、細々と、しかしながらしっかりとした強い意思をもって、有栖は改めて誓う――シミラを助けなければ……と。
「……? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。……行こうシミラ。お前は俺が護ってやる」
「――? ハイ、ワカリマシタ」
シミラと有栖は歩きだす。
目的地は『真実の鏡』――真実を目の当たりにされる鏡、異質な鏡、そして……人を殺す鏡の場所に有栖たちは向かってしまったのだ。




