12話 『影』
「なんで増えるんだよ……」
驚愕した。ゾッとした。あまりにも規格外なものを見せつけられ、梶原は恐怖した。
「ワタシの予想ですが……今のが、あの『宝珠』の能力だと思います」
シミラは推測するが、それが当たっているのか定かではない。いや当たってはいるのだろうが、結局どんな能力なのか分からない。
「少なくとも能力は分身……ってことだよな?」
「えー……恐らくは。そして、分身したのは梶原が攻撃した『宝珠』だけです。そこにカラクリが隠されているのかもしれないですね」
シミラの言葉を話半分に聞きながら、梶原は集中する。それは『宝珠』の能力を見極めるため。
先ほど『宝珠』は、いつ能力を発動したのか?
→恐らく、自身の攻撃が当たった瞬間。
それなら、攻撃を受けなければ能力は発動しない?
→否、根拠がまだない。
『宝珠』の特徴や、攻撃したあとの変化は?
→変化……そう言えば何か違和感があった。
それは何か?
→……黒い液状に変化する前と、変化したあと……。
――もしかしたら――!
「シミラ。『宝珠』に、影があるか?」
シミラの方が――ミラーワールドの住民の方が、人間よりも身体能力が高く、また五感の制度が鋭い。
そして眼も良く、シミラは『宝珠』の姿を細部まで確認できる。そして、『宝珠』に影があるのかも……当然判る。
「あー、ないですね……」
「じゃあ、あの『宝珠』の能力は……『影』だ」
「『影』とは……一体どのような能力なんですか?」
「分からねぇ……分からねぇけど、『影』が能力と関係していることは間違いないはずだ」
よくある空想世界である影の能力は、現実とは別の解釈をさせて『影』として扱われる。しかし、その能力はまちまちで、例えばNARUT○で言えばシカ○○が自身の影をのばして相手と自身の影を絡めて相手の動きを止めたりすることが可能だ。
だが、それ以外にも『影』という能力は多岐に渡るから注意が必要だ。
故に、場は膠着状態。
『宝珠』からは攻撃できないし、梶原たちは攻撃しても無意味……それどころか被害を受ける可能性だってある。
しかしこのままでは何も解決しない。
だから、
「シミラ……、今から俺はこの安全な空間から出ようと思う……。シミラはここにいてくれ……」
「策は……あるのですか?」
「一応は……な」
そう言い残して、梶原は『宝珠』のもとに駆ける。
人間のような形はしても、あまりにも無口で歪で無感情――それ故に“人間の紛いもの”と言ってもなんら変わりない。それが『宝珠』。
そして“人間の紛いもの”である『宝珠』のもとに梶原は数秒で肉薄していた。
このとき、梶原は安全な空間外にいる。当然、初めて敵からの攻撃を見る。
軟体な手が、骨のないようにしか見えない動きをする手で『宝珠』はフードを外す。
「なっ――!?」
『影』だった。
この『宝珠』は、人間の形を持っていて、それを黒で塗りたくられ――いや、正確には塗りたくられてはいない。
まるで編み物の空洞が広がってその先が見えてしまうように、『影』にところどころ穴があった。
『影』はホツレの部分を梶原に伸ばす。が、それは無意味な行為で終わるだろう。
「いっけぇ――!」
梶原の能力――造形操作は、相手のそんな行動をする前に発動していた。
辺りすべての大地を纏め上げるように操作、『宝珠』を包み込むように覆う。そして覆った。『宝珠』を覆い隠すようにした。
さらに今はその大地から纏め上げたものを元に戻している。つまり膨らんだ大地を元に戻し、それ故に『宝珠』を押し潰す。
梶原の能力の真骨頂はここにある。それはここ一年で培ったものだ。
造形は、何かを造るに過ぎない。それは、一度造ってもまた想像しないと形が変化しないことを語っていた。
そのため、攻撃には意外と不向きなのだ――バカ正直に、応用力を効かせずに考えていればの話だが。
梶原は、能力のオンとオフをこの一年間で使いこなしていた。
ドーム状の造形をイメージして造ったあと、そのあとにそのドームの高さを低くしたものをイメージして造形すれば、結果的に相手に膨大な圧力を加えることが可能だ。それを何度もすることで、物を造形してない状態に戻し、同時に相手を叩き潰せる。そしてそれを『影』に使った。
このとき梶原は叩き潰せたという感触がしっかり残っていた。
眼前にドーム状内は見えないが、先ほどの『影』はもういないだろう。
梶原は一呼吸おく。
安心したのだろう。
当然、後ろを向いてシミラに報告をしようとする。
そのために、梶原は歩いた。
歩いて、安全な空間に戻る……『影』が自身に這いよっていたと知らずに。
「――!?」
いつの間にか『影』は梶原から離れ、シミラに向かっていった。




