10話 性格に難アリ
梶原は、呆然と、ただただ宮島桜が何処かへ行くのを見ていることしかできなかった。
「いいのですか、梶原? 追わないのですか……?」
「…………」
「梶原?」
梶原は、自分を役に立たないと言われたことにショックを受けていた。
どこにそんな要素があったのか……梶原はまだ知らない。もしそれを見つけたとしても直せるかどうかわからない。
「ワタシは桜さんとフェイバリットは追うべきだと思いますが……」
沈黙している梶原を一瞥しながらも、シミラは提案する。しかし、その提案は――、
「……追わなくていい……」
「ソウ……ですか……」
「…………」
「…………」
沈黙が続く。
桜たちが完全にいなくなったことを梶原は確認する。それは、再び桜と会える可能性が著しく低いことと同義だ。
しかし、それでも梶原はこの選択を選んだ。選んでしまった。
「……シミラ、行こうか」
「……? どこにですか?」
「『鏡の異物』を狩りに、どこか……遠くに……」
梶原の眼はシミラを見向きもしない。下をずっと向いたまま。
桜と協力関係になれなかったのは何がいけなかったのか、何が駄目だったのか、梶原は理解できなかった。
彼女は悪くはない人間だと判断できる気がするし、しかしながらどこか難あるような“性格”で……、
――思えば俺も……性格悪いよな……。
梶原という人間は、便乗行為が好きだった、大好きだった。それは度が過ぎるほどに、異常で異質で、狂人すぎる“便乗”。
例えば、誰かがイジメを複数人から受けていた場合。そのイジメが陰口程度だったものが、梶原という存在によって陰口から暴力の含むものに昇華してしまう。それほど異常だった。
梶原は多数者に従い、多数者の中でも意見を異常に主張する。マイノリティを見下し、叩き潰して多数者に取り込む。そんな人間だった。
だから……だから、高校からはそれが通じなくなった。あまりにも異常に“便乗”するという性格は、現代の高校生から見れば異常なものにしか見えなかった。
自身が、マイノリティに属された。
それでも多数者に――マジョリティになるために“異常な努力”をした。異常な努力をしてしまった。だからクラス全員から嫌われた。個人の尊重を一切せず、多数者に属する人間を褒め称え続け、矛盾が出ても気にせず多数者になろうとした。それが、梶原がクラス全員から嫌われた原因だ。
彼はカタルシスを味わえなくなっていた。多数者でいることがカタルシスを味わえる唯一のことだったのに、自身がマイノリティに属されたなら、そのストレスはどこに向かうか?
現実とは違う場所――幻に、幻想に囚われることでしかカタルシスを満たすことができない……。だから、彼はネットをした。ネットで多数者となり、少数に属する人間をネットで虐めるようになった。
そして学校などどうでも良くなって、いつの間にか彼はニートになった。
彼は今、それを思い出した。
「梶原? 大丈夫ですか? 治癒を望んでいますか?」
「…………いや、大丈夫だ。行こうシミラ、『鏡の異物』を狩りに……」
現実に戻るのが辛くても、こんな幻想はぶち壊して、元の世界に帰らなければならないと、梶原は思った。




