第九七二話「魔法とパンケーキ」
「で、何故に先にパンケーキ?」
「もうお昼時ですし、授法の儀式は、今回たぶん時間もかかりますから。」
そう言いながらサオリさんは薔薇の香りのするクリームが乗ったパンケーキをキコキコと切っている。
「腹が減っては戦ができぬッスよ。」
ミツキが選んだのは前に私が選んだブダのソースを使ったシンプルなもののようだ。
ただし、蜂蜜のトッピングという裏技で、琥珀色の液体で楽しそうにそれを彩っている。
「お父さんすみません。たぶん、あたしが長い時間かかりそうなものですから。」
そういうサナは以前も食べていたフルーツパンケーキにしたようだ。
好みだったのか、それとも作り方を盗もうとでも思っているのかな?
パンケーキや柔らかいパン類があるということは、ベーキングパウダー、古い言い方でいえば、ふくらし粉、科学的にいえば重曹……は、ベーキングソーダの方だっけな?
とにかくそれらに類するものは、この世界にもありそうだから、今度探してみるのも良いかもしれない。
案外どこかの迷宮のドロップ品だったりというオチもありえるか。
「おいしいにゃ、おいしいにゃ。」
パンケーキの上に四角く切ったバター。
そしてその上からたっぷりと蜂蜜をかけた、私みたいなおっさんから見れば、ザ・ホットケーキという感じのシンプルなものを選んだのはチャチャ。
今回は前回よりパワーアップして三段重ねだ。
「まぁ、みんなの言うことももっともだな。
この後は授法の儀式しか予定も無いし、ゆっくりと過ごすか。」
「うふふ、そうですね。」
「あ、パパの一口欲しいッス。」
「ああ、あたしもー。」
「チャチャも食べてみるかい?」
「うにゃ?チャチャはもう一段やっつけてからにしたいにゃ。」
私が選んだのは、たっぷりのクリームがかかったその上にスライスしたイチゴが花びらのように乗っていて、垂れたイチゴソースも含めて花が咲いたかのような印象をうける映えそうなパンケーキ。
この店のオススメだそうな。
傍から見たら私が一番浮かれているっぽく見えそうだな。
▽▽▽▽▽
久しぶりのチャチャの「なむなむしたにゃ。」という感想と、ミツキの「アタシの護摩壇-!」というテンションを挟みつつも、授法の儀式は進んでいった。
まずはミツキ。
とりあえず魔法剣系の中級魔法を風、氷、炎属性の3つ覚え、他にも中級単発氷魔法と上級単体魔法防御魔法を覚えた。
ので、もうグッタリとしているが、気を失うほどではないようだ。
次はサナ。
まずは上級単発水魔法と、中級範囲氷魔法、それから中級範囲睡眠魔法と、特殊な雷属性魔法を覚えた。
なんでも相手の土属性に対する防御力も下げる魔法だそうだ。
サナに聞いてみると、属性違いだが、他にも似たような魔法は覚えていたそうだ。
その他にも、上級単体と上級範囲の魔法防御魔法、そしてなんと、死者蘇生の魔法まで覚えてしまったらしい。
もちろん死体の損傷度合いにもよるのだが、2時間以内なら死者を生き返らすことが可能らしい。
下手に人に知られると騒ぎの元になりそうだなぁ。
当然、本来は儀式魔法だろうし。
と、いうわけで、サナもミツキ以上にグッタリだ。
で、最後はサオリさん。
サオリさんは今回、特級単体回復魔法と、光属性の攻撃魔法の2つを覚えた。
シンプルだが、使い勝手が良さそうな魔法だ。
種類が少なかったせいか、ミツキやサナに比べれば、元気いっぱいといったところだろう。
ひょっとしたら早めの糖分摂取が生きたのかもしれない。
それでなくても、このサナとミツキのグッタリ感を見れば、先にパンケーキを食べておいて正解だっただろう。
適当な扉から淫魔法【ラブホテル】で、別荘か離れに戻り、早めに休ましてやらないとな。
サナです。
ね、眠い……。
気を張っていないと寝てしまいそうです。
帰ったら一寝させてもらおう。
次回、第九七三話「回復方法」
あ、ミツキちゃんも結構眠そう。




