第九六七話 「次元の壁」
そうこうするうちに、サノボリ君が迎えに来たので、飲み会もお開きとなり、酔いつぶれているチャチャを除いて、ここで、別れの挨拶となった。
ちなみにチャチャが酔いつぶれているのは、タクミさんが面白がって飲ませていたからだ。
曰く、来年成人なら、今のうちに自分の限界を知っておいた方がいい。
来年急に身も心の大人になるわけじゃないのだから。
とのことだ。
まぁ、タクミさんは実質中の人が昔の人だから、アルコールに関して大らかなところもあるのだろうが、実は、この辺りは私も賛成だったりする。
と、いってもあくまで法律を護った上で、という建前付きだが。
それはさておき、タクミさんは1週間くらい里に滞在する予定で、現在はその3日目。
運が良ければもう1回くらい会えるかもしれないな、と話しながら、サノボリ君に絡みつつも、里へと帰って行った。
魔術王といわれる勇者でも、この結界を一人で歩くのは難しいのだろうか?
▽▽▽▽▽
「ちょうどいいタイミングでサノボリ君、来てくれたね。」
「ですね。そろそろ、もう一品追加しようかどうか迷っていたところです。」
私のつぶやきにサナがそう答える。
それくらい囲炉裏の上は綺麗に食べつくされている。
まぁ、途中からアイテム欄にしまってあるビーフジャーキーを出したり、ソーセージを出して囲炉裏で焼いたりもしていたので、サナの目算よりは多く食べ飲みしていた感じだろう。
片付けを手伝おうとしたが、チャチャの事をお願いされたので、とりあえず隣の部屋に布団を敷いて寝かしつけてきた。
その間に、サナとミツキが手際よく囲炉裏周りを片付け、それをサオリさんが手伝っている。
サオリさんが片付けしているのは、ちょっと珍しい図ではあるな。
▽▽▽▽▽
「で、なぜに私は、改めて洗われているんだ?」
「だってお父さん、川のお風呂だと洗うの適当なんだもん。」
「そうッスよ、足元とかずっと気になってたッス。」
「うふふ、まぁ、いいじゃないですか、ほらばんざーい。」
「ひやう。」
泡だらけのサオリさんの両手がわきの下へと飛び込んでくる。
いや、それは良いのだが、正面に座っているサオリさんがその体勢をとると、両肘に挟まれたサオリさんの豊満な胸が、とてつもない柔らかさをもって刺激的な動きをするので、視線に困るのだ。
お父さん洗い with レン君洗い、おそるべし。
ちなみにサオリさんの担当は前面の上半身、主に頭と胸、腹までなので、わきの下はギリギリのラインだったりする。
で、残りの左右をミツキとサナが担当している。
主に背中と、手足だな。
回数を重ねているせいか、見事なコンビネーションだ。
洗われているのに重ねて、マッサージもされているような感じだな。
「結局帰れない。ってことでいいんスかね?」
「元々帰らないつもりではあるけどね。問題は『返されない』保証が無いってことなんだよな。」
「あー。」
サナが抱きつくように右腕を洗いながらそう呟く。
「急に呼ばれたのだから急に返される。なんてことは普通ありそうだろ?
今回は次元の壁という問題があるから、そんな簡単な話じゃないだろうけど。」
「そもそもその次元の壁というのが、よくわかんないんスよね。
フィーリングとしてはわかるんスけど。」
「ふーむ。」
そりゃそうだな。
「例えば、表紙から全部のページが透明な絵本があって、それを読める立場にいる神様がいるとする。」
「はい。」
「神様から見れば、絵本は最後のページまで1枚もページをめくることなく何が書いてあるかが分かるし、好きなページを簡単にめくることが出来るだろう。」
「そりゃそうッスね。」
「だが、絵本に描かれている人物が表舞台に出るには、自分の前のページを全て押しのけなければならなず、相当の労力が必要だし、そんなことは不可能かもしれない。
これが次元の壁、って感じかな。
神様がこの絵本を読むときに、後ろのページに行くのは読み進めれば良いだけだから簡単だけども、わざわざ前のページに戻ることは稀だろ?
そういう意味でも上の次元に行くのは難しいことだと思うんだ。」
うーん、うまく伝わっているだろうか?
サオリさんなんて筋肉のスジにそってあみだくじめいた遊びを始めてしまっているのだが。
「ま、天地が、いや、いまのパパの話じゃ絵本がひっくり返らない限りは大丈夫ってことッスね。」
「うん、それに、その気の無いお父さんをわざわざ元の世界に返す理由も必要もないし、そこに多大な労力をかける人なんていないだろうから、大丈夫だと思う。」
「そうだね、そういうことだから、安心していいからね。」
「はい」
「了解ッス。」
「はーい。」
サオリでーす。
ちょっと飲みすぎちゃったかもしれません。
タクミさんからサノボリの話を聞くのが面白くて。うふふ。
次回、第九六八話 「アットホーム」
レン君洗い、慣れると楽しいですねー。




