第九六五話 「タクミとサノボリ」
それにしても、土を取るときはともかく、戻すときはかなりの土ぼこりが出そうだな。
風下から、やっつけていくか。
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勇者二人がかりのインチキ開拓で、小一時間もかからず、6枚の田んぼが出来上がった。
うち1枚は土地が若干足りなかったのだが、アイテム欄に仕舞った土で埋め立てまで完成させるというインチキぶりだ。
そんなインチキ作業でも一緒に作業をしているとコミュニケーションも取れるようで、作業が終わるころにはタクミさんともサノボリ君ともすっかり仲良くなっていた。
まぁ、私の実家が農家で話が合うのも仲良くなった理由の一つだろうが、元の世界の時間軸でいうと、タクミさん、サノボリ君、私の順で新しいのだが、この世界の農業の形態的には、タクミさんで進歩的、サノボリ君で一部再現不可能、私で基本再現不可能といったところだ。
農薬やら機械類やらが再現できない主な理由なのだが、機械は無理でも機器なら再現可能だろうということで、もうすぐサノボリ君の時代が来そうな気がするな。
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「ただいま、ミツキ、チャチャ。」
「おかえりッス&いらっしゃいませー。勇者レンの次女、ミツキッス。
南部訛りが聞き苦しいかもしれないッスけど、よろしくお願いするッス。」
「おかえりにゃー、と、いらっしゃいませにゃー、チャチャにゃー。」
いまさらだが、二人とも訛りかぶりで、耳と尻尾かぶりだな。
「はじめまして。勇…いや、タクミ・ウチウミです。この度は、お招きありがとうございます。」
「ミツキちゃん、お風呂は用意できてます?」
「大丈夫ですよママさん。ばっちりッス。」
「それじゃ、先にレン君とタクミ様はお風呂をどうぞ。」
「お風呂に入っている間に、何か、つまむものつくっておきますね。」
サオリさんとサナに促され、河原の風呂へと向かう。
なんだかんだで土ぼこりまみれ、とまではいかないが、さっと風向きが変わった時にでもさっと被ってしまった感があるので、お風呂はありがたい。
ちなみにサノボリ君は既に婿入りした家の方へ帰っている。
「仲の良い家族ですね。」
「はは、みんなのお陰で、なんとか今までやってこれました。」
「それはそれは……私もサノボリのお陰ですかね。こうして心安らかに過ごせるのは。」
そういって目を細めるタクミさん。
「と、いっても転移者と転生者なので、普通の親子とはまた違う関係なのでしょうが。」
ああそうか、サノボリ君の享年によっては、精神年齢はタクミさんの方が低い時期もあったかもしれないのか。」
「どちらかというと親子というより兄弟といった方が関係は近しいかもしれません。」
「それはまた複雑ですね。」
「はは、この世界に一人じゃないというのは、存外救われるものですよ。」
「それは確かに。」
そんな会話をしながら河原まで向かい、身体を洗い湯船に浸かる。
「ふぅ。」
「ああ、久しぶりに入りました。」
久しぶり?
ああ、そうか結婚はしていないが、サビラギ様のパートナーを務めたこともあるんだ。
なら、離れにも来る機会は当然あったか。
その後、サビラギ様の話に花を咲かせ、そろそろ湯を上がろうかというタイミングで、サナが、拭くものと浴衣を持って現れた。
「タクミ様、こちらをどうぞ。
あと御召し物は、しばしお預かりして、軽く土を払っておきますね。」
「かたじけない。」
大げさにサナに礼をするタクミ。
昔、なにかしでかしたのかな?
「と、レンさんの服と浴衣は?」
「ああ、お父さんなら大丈夫です。」
タクミさんとサナが話をしている間にさっさと身体を拭いてしまい、淫魔法【コスチュームプレイ】で浴衣に着替えてしまう。
「?魔法の浴衣?」
見て分かられたのは初めてだな。
「そういえば!」
ふりかえりサナを見直すタクミさん。
「こっちもか。……あなどれないですね、レンさん。」
「それはお互い様ですよ。」
「「ふふふふふふ」」という、怪しい笑いを「湯冷めしますよ?」というサナの正論が止める。
「では、あたしは先に上がって、用意してますので、できれば早めに上がって来てくださいね。」
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「おお、これはこれは。」
囲炉裏に並ぶ鮎の塩焼きをはじめとしたいくつもの酒の肴にタクミさんが声を上げる。
「そろそろ、いい焼け具合ッスよ。」
「じゃ、みんなでいただこうか。」
「「「「「「いただきます」」」」」にゃ。」
と、いっても、時刻はまだ3時前後、晩御飯ではなく、おやつをいただくといった感じではある。
と、いいつつ、昼酒に興じるわけだが。
「タクミさん、おひとつどうぞ。」
「これはこれは、おっとっとっと……プハッ美味い。
『鬼盛り』ですね。」
「ご存じでしたか。」
「はは、実は僕、ロマさんとも面識があるんですよ。」
「ほお!」
………………
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酔いもそれなりに回り、宴もたけなわとなるには少し早い時間となった。
そろそろかな。
「そういえば、タクミさんに聞いてみたいことがあるんですよ。」
「なんですか?僕に答えられることなら、なんでもどうぞー。」
少しよった語尾で酒器を傾けるタクミさん。
すかさずサオリさんがお酌をする。
「タクミさんは元の世界に戻ることを考えたことはないですか?」
ピタリと、タクミさんの動きが止まる。
「んーたぶん違うな、たぶん、本当はこう聞きたいのだろう?
『勇者タクミは元の世界に戻らないのですか?それとも戻れないのですか?』と。」
心臓を素手で握られた気がした。
「ははは、そう驚くほどのことじゃない。転移者でも転生者でも一度は考えることだろう?もとの世界に戻れるか?なんてことは。
そんな中、自分でいうのもなんだが、魔術に詳しい僕がこの世界に居続けることに、なにか答えがあるだろう、なんて考えるのは当然のことさ。」
そういって、タクミさんはまた酒器を傾ける。
「結論から言おう。
魔術では戻れない。
が、魔法なら分からない。
それが僕の長年の研究の結論だ。」
チャチャにゃ!
お魚は下の川で、ねぇねと二人でとったのにゃ!
きれいに焼けて、おいしそうなのにゃぁ。
次回、第九六六話 「魔術と魔法」
山菜採りもしたんにゃよ?