第九六二話 「チャチャと二人の王」
戯れているというと聞こえが良いが、実際のところ、二人相手に戦っているといった方が正しいであろう絵面だ。
ちょっとなにしてるのチャチャさん?!
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「ギルドで色々習ったから、お知らせしてたのにゃ。」とは、チャチャの談。
そういや最初の謁見では、大獅子軍に猫人族としての戦い方の教えを請いに行くという話だったっけ。
チャチャとしては、最初の話と違っていたので、思うところがあったのだろう、それで、獅子王と虎王には、挨拶を、というわけか。
結構、話を聞いていないようで大事なところだけは掴んでるんだよな、チャチャ。
「勇者レイン殿、勇者チャチャは中々の仕上がり、今後も指導を期待しますぞ。」
「ええ、この先が楽しみだわ。」
本当に子どもの成長が楽しみのように、獅子王も虎王もそういって喜んでいる。
「ははっ。この度は不躾にチャチャが蛮勇を振るったようで申し訳ございません。
諸々が一段落いたしましたら、改めて大獅子軍へとご挨拶に伺います。」
「ははは、この程度、蛮勇のうちに入るものか。
子猫がじゃれ合ってたようなものよ、なぁ?虎王。」
「あら、あたしも子猫のうちかしら?」
「……それは流石に図々しかろう。なぁ?」
いや、その年齢の話題でこっちに振らないで欲しい。
「虎のおばちゃん、やっぱり上手だったにゃ。」
と、チャチャの助け舟が。
「猫科の戦いとしては、チャチャにあっているということでしょうか?」
「まぁ、悔しいながら、そうであろうな、うまく自分に合う戦い方を伸ばしていくが良い。」
獅子王がそういってチャチャの頭をなで、虎王もそれに続く。
そのまましばらく雑談が続いたが、最後には改めて非礼を侘び、議場を後にした。
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「最初はどうなるかと思ったわよ。」
「うにゃぁ、ごめんなさいだったのにゃ。」
「今度はちゃんと話してから行こうね。」
「はいにゃ!」
まぁ、基本的に聞き分けの良いチャチャだ、その言葉を信じよう。
それにしても、
「他に何か約束事わすれていることないかしら?」
ここのところ短期間で色々ありすぎて、忘れていることがあるような気がする。
「あー、そうッスねー。」
なぜかミツキが言い淀んでいる。
「タクミさまとまだ会ってませんね。」
「そうね、そろそろ里に来ていても、おかしくない時期なのにね。」
ミツキの代わりにサナとサオリさんが、そう教えてくれた。
タクミ・ウチウミ。
ナイラ王朝の勇者。
そういえば、たしか、毎年、夏が終わるころに里に顔を出しに来るとかいう話だっけ。
息子が婿に出たばかりで孫の顔を楽しみにしているとかなんとか……。
まだ8月の中旬中日、といったところだが、そういう理由ならもう里を訪れているかもしれないな。
普段は離れまでしか行かないので、行き違いになっていてもおかしくない。
地母神様の儀式までは、もう数日かかるだろうし、それまでに本来、里に来た理由である「元の世界に帰る方法はあるのかどうか?」を勇者タクミに聞きに行くのも手かもしれないな。
「一回、里に戻りますか?」
顔色を読まれたのか、サオリさんにそう問われる。
「そうですね、頼まれた資材の買い物も済ませてありますし、一度、里に顔を出しますか。
まぁ、実際もう元の世界に戻る気は無いのだけれど、最初の疑問ははっきりと解消しておいた方が気が楽そうだ。
サナです。
離れまではしょっちゅう戻っていますが、里に戻るのは久しぶりなような感覚ですね。
ちょうど、タクミさまも里に来ているといいんですけど、時期的にちょっと早いかな?って気もします。
次回、第九六三話 「勇者タクミ」
あ、お婆ちゃんにも一声かけておこうかな?