第九六一話 「レインの価値」
一応、その件については、チャチャは私を通じて勇者になったのだから、その元を絶って、もしもチャチャまで勇者の資格を失ったらどうする。と、サビラギ様が庇ってくれたので、事無きを得た。
サビラギ様様だな。
返す刀でサビラギ様が、いかに勇者レインを亜人族側に取り込むか、これが最優先課題と考えます。
と、サビラギ様は反論をする。
「ネローネでも見習ってハーレムでも与えるつもりか?」
「それも手段ではありますが、あそこの勇者のように歪む可能性もありましよう。
で、あるならば、もっとまともなものを与える用意が私にはあります。」
「ほう、それは?」
「家族です。」
「ふむ。ナイラの勇者再び、というわけか。」
「相手はどうする、まさかお前がまたというわけじゃあるまい?」
「それは勿論。また子を儲けるだけでなく、婿に入って貰おうと考えております。」
「まさか、サオトメ家本家へか?!」
「それこそまさか、本家ではなく、第2族長継承候補者を分家に立て嫁とし、亜人族の姉妹妻で横を固め、元族長が監視員としてつく予定です。」
「勇者チャチャはどうする?」
「本人の意思にもよりますが、今までどおり勇者レイン、いや、レンの娘として育てるのが、手堅いでしょう。
姉として慕っている二人もおりますし。」
「ふむ、一家で逃げるとなれば、どうする。」
「その場合は監視員の出番で、首が飛びます。」
「首?勇者レインのか?」
「いえ、このサビラギ・サオトメの首がです。」
ごくりと唾をのみ込む音が聞こえる。
いや、これは自分が飲み込んだ音か?
「相分かった、お主は自分が娘に自分の首を切らせるつもりで人質になるというのだな?」
「はい、そのとおりでございます。
だが、その前に、皆さまには地母神様復活の儀等、その目で確かめていただきたい事も多くございますので、しばしお時間をいただきたく存じます。」
「わかった。まずは、地母神様の件が嘘ではない事、そしてこれの成功を一つの試練とする。
異議のある者は申し出よ。」
ユメニシ陛下の声が高らかなに響き、それに沈黙が答える。
「異議無きものとし、これをもって今日の議事を終えるものとする。
閉会!」
最後もユメニシ陛下が締め、一連の議事が終了したようだ。
パラパラと席を外す音が聞こえてくる。
「婿殿、あまり危ない真似をしてくれるなよ?」
ふいにこちらに語り掛けられたサビラギ様の言葉。
と、同時に、ザッという音と共に淫魔法【盗聴】が解除された。
どうやら、【盗聴】用に証人台に塗った血に気付かれていたようだ。
どうやったら気付くんだ、あんな位置。
相変わらず怖い人だ。
「議事が終わったみたいだね。」
「あら、そうですね、ガヤガヤと騒がしい声が聞こえます。
通路の端の方へと寄っておきましょう。」
「お偉方の歩く邪魔をすると後が怖いッスからねー。」
「そういうもんなんですか?」
「そういうもんス。」
「お仕事終わったのにゃ?」
「ん?ああ、みんな終わったみたいだよ。」
「なら、チャチャ、あいさつしてくるにゃ!」
「あいさつ?」
返事を聞く間もなく議場の方へと駆けていくチャチャ。
流石に一人には出来ないので追いかける。
全員でだと、また何か変に勘繰られてもアレなので、サオリさんに声をかけ、追いかけるのは私だけにした。
追いかけるとはいえ、偉い人達とすれ違うわけだから、私は走る訳にはいかず、礼を繰り返しながら、歩いてでの追跡だ。
チャチャのようにダッシュでゴーというわけにはいかない。
いや、本来、チャチャもダッシュでゴーされちゃ困るのだが。
そして遅れること数分、議場に辿り着いた時に、目の前で繰り広げられているのは、獅子王、虎王と戯れるチャチャの姿だった。
ミツキッス。
アタシ達は何するって訳じゃないッスけど、ああいう場は緊張するッスね。
今回は人数が多いから更に倍率ドンだったッス。
次回、第九六二話 「チャチャと二人の王」
って、チーちゃん、どこ行くッスか?