第九六〇話 「淫魔族レイン」
長老会からの退席を許された後、今度は代わりにサビラギ様が議場へと向かって行った。
おそらく私達の時よりも濃い、というか現実的な話をするためであろう。
愛想を振りまくチャチャの頭を撫で、笑ってサビラギ様は議場へと入る。
ちなみにだが、魔力回復薬の類は、そのまま議場に置いて来た。
命に係わることであれば、ちゃんと全部鑑定したいと思う人もいると思ったからである。
下手に仕舞って次に出した時に、すり替えただのなんだの変ないいがかりつけられても面倒だしな。
いや、そこまでしないとはおもうけど。
それはそうと、
「淫魔の姿が普段の姿になるとはね。」
頭の上の2本の角と、おっぱいと気が重い。
淫魔の姿が普段の姿になるということは、振る舞いや言動も、当然、女性の、それ、にしなければならないからだ。
いくら迷宮内である程度慣れているとはいえ、四六時中となるとまた話が変わってくる。
あとは……
「呼び方どうしようか?」
「呼び方、ですか?」
サオリさんが頬に手をあて小首を傾げる。
かわいい。
そうじゃなくて、
「今まで通り、レインさんで良いのでは?」
「いえ、サオリさんはそのとおりなんですが、ほかの3人からの呼ばれ方をどうしようか?という話です。」
「ああ。」
なるほど、と、ぽんと手を打つサオリさん。
「やっぱりご主人さまだと聞こえが悪いッスから、呼び方は変えなきゃ駄目ッスねー。」
と、頭の後ろで腕を組みながら、ミツキも賛同してくれている。
「チャチャも迷ってるにゃ。」
両指の人差し指を両猫耳の回りをくるくるさせながら、チャチャも思案中のようだ。
「呼び方……呼び方……レイン姉さん、とか?」
さすがサナ、手堅い。
「そうッスね、そんな感じで、どうとでも取れる感じにしておいた方が無難だと思うッス。
アタシは……そうッスね、レイン姉、で、いくッスかね。」
サナにはミナ、ミツキはサナという姉がいるから名前付きか。
なるほど。
「チャチャはどうするの?」
「うにゃぁ……ととさんんがねねさんににゃったから、でもねねさんはねねさんだから…………あねさん?」
「あねさんか、うん、いいんじゃないかしら?」
「あい!じゃ、女のととさんはあねさんって呼ぶにゃ!」
なぜかというか、どこで覚えたのか敬礼をしながら、そう宣言するチャチャ。
まぁ、王宮では結構敬礼されることも多いからな。
ふむ、まとめると
サナが「レイン姉さん」
ミツキが「レイン姉」
チャチャが「あねさん」
サオリさんが「レインさん」
と、いうことか。
なにより私が慣れないと駄目だな。これ。
本名のレンとレインの響きが近いのが幸いだ。
さて、そんな、ほのぼのとした話はさておき、今、サビラギ様が入った状態の長老会はガチな内容を審議しているところだろう。
一応、淫魔法【盗聴】の準備だけはしてきているが、聞くのはちょっと怖いな。
▽▽▽▽▽
聞かなければ良かった……、いや、聞いておいて良かったのか、いや、私自身も大変な立ち位置だけども、防波堤になってくれているサビラギ様も大変だ。
本当に頭があがらない。
あやうく、その上げる頭も無くなる可能性すら長老会では出ていたからな。
過激派、いや、保守派なのか?の意見では、純粋な亜人族のチャチャがいる以上、私がいる必要性はないから、処刑してしまった方が良いのでは?
あの者の能力は危険過ぎる。
とか、いわれると、その、なんだ、困る。
いや、前にサビラギ様にも似たようなこといわれたけどさ。
サオリです。
レインさんも長老会に振り回されて大変ですね。
呼び方は早く定着すると良いのでしょうけど、わたし以外は咄嗟に出てしまいそうな気もします。
次回、第九六一話 「レインの価値」
さて、お母様は今頃、どんな無理難題を押し付けられているのでしょう?




