第九四一話 「決闘」
「端的にいうとロリコンなんすよ。たぶん。
で、昔のママさんがドストライク。
そんなところの昔のサオリさんの面影があるであろう、サナが現れたものだから、俺は勇者だ凄いんだぜーとナンパを始めたところに、サオリさん登場。
昔の因縁話もぶり返して、ちょっと言いたくない台詞なんかも飛び出してママさん激昂、現在に至る。って感じッス。」
ミツキが言いたくないってくらいだから、相当、品が無いかモラルが無い台詞だったのだろう。
サオリさんと勇者との関係を知っている私には、こうして実物の勇者を見れば、何を言ったかなんとなく想像がついてしまう。
「サナにも種付けしてやろうか?」とか、「二人纏めて可愛がってやろうか?」とか、その手の類だろう。
サオリさんが激昂するのも無理はない。
無理はないが、流石に決闘は、まっとうに考えれば無理だ。
なにせ相手はネローネ帝国の最大戦力。
勝てる道理は基本的にはない。
「……パパ、意外と落ち着いてるッスね。」
「いや、落ち着いてはいないよ。これから決闘までにサオリさんに話さなきゃならないことは山ほどあるし、万が一のことも考えなきゃならないし。覚悟が決まってるだけかな?」
「覚悟?」
「もしも勇者が勝ったら、勇者と決闘する。
それが制度的に無理なら勇者を殺す。」
殺気が漏れてしまったのか、ヒッっと小さい悲鳴がミツキから上がった。
「ミツキ、俺はね、家族を護るために、なりゆきで勇者になっただけで、勇者になるために皆に出会った訳じゃないんだ。
俺から家族を奪うものを許すわけがないじゃないか。」
「あ、の、その、最悪、ネローネ帝国と戦争になったりするかもしんないッスよ?」
「仕方ないね。なるべく被害は少なくするよ。
……、いっても、実際には、そこまで大きな話しにはならないだろう。
どう考えても相手の勇者側に非が大きすぎるし、目撃者も多すぎる。
それに忘れているだろうけど、俺はアサーキ共和国のプラチナの探索者兼勇者で、興味はないが爵位も持っている。
その家族に一方的に手を出したんだ、そう簡単にもみ消させはしないし、サオリさんやサナの母や祖母にあたるサビラギ様は、ネローネ帝国の辺境伯の上、三国の勇者同盟の要だ。
サオリさんも身内だと名乗った以上、今は見ていた誰もがそれを知っている。
サナに手を出して、サオリさんが身元を明かし決闘を申し込んだ時点で、もう揉み消せない事実なんだよ。
勇者の性根も全てもな。
後はサオリさんが勝つか、俺が勇者を殺すか。
単純な話だろう?」
「えーと、すでに勇者は社会的に自爆してる。ということッスか?」
ネローネ帝国の偉い人が目撃者を全殺し、なんてアホなことを言い出さないことだけを祈るよ。
アサーキ共和国内でそれをやったら、それこそ戦争だ。
それにねミツキ、私は、サオリさんが負けるとはそもそも思っていないんだ。」
「え?」
「とりあえず、状況は分かった。まずはサオリさんのケアからだな。」
▽▽▽▽▽
「サオリさん!」
「レン君!……あの、わたし、またカッとなって、とんでもないことを……。」
意外と猪突猛進なんだよなサオリさん。
「いいじゃないですか、怒って当たり前です。チャラ男くらバーンとやっつけちゃいましょ!」
「……チャラ男?」
あ、チャラ男は通じなかったか。
「14年前のサビラギ様が出来たことが、今のサオリさんに出来ないはずがありません。
ぼっこぼこにしてやりましょう。」
「お母様に出来たこと……わたしに出来るでしょうか?」
「出来ます。私を信じて。
でも少しだけ作戦会議しましょうか。」
「はいっ!」
サオリです。
わたし、サナに手を出されて、カッっときてしまって、思わず……。
え?レン君?
次回、第九四二話 「決闘Ⅱ」
わたしに……できるかしら?……いえ、やってみせなきゃ!