第九三七話 「チャチャとミツキ」
「で、何があったんだ?」
「いやぁ、どこからはなせばいいもんだか、って感じッスね。」
ミツキの解説を掻い摘んで要約すると、勇者代行のサビラギ・サオトメ様の身内であるサオリさんやサナが新しい勇者のお目付け役や従者につくのは分かるのだが、チャチャのような子どもがなぜ一緒なんだ?と、いう、まぁ、そりゃぁそうだよね、という疑問がある探索者から出たのだそうだ。
ところがそう聞かれても本人のチャチャはハテナ状態で、「チャチャは、ととさんちの子になったから、ずっと一緒にゃんだよ?」と、答えた当たりでミツキが通りかかり、今までの経緯を話したのだそうだ。
ところがところが、それを受けて、チャチャも今まであったことを話せば良いと思ったのか、うちの子になる前、いや、誘拐される前までのことも話始めたところから、旗色が変わってきたそうだ。
私達が察していた以上に、酷いネグレクトや虐待を受けていたようで、それを当たり前のように笑顔で話すチャチャに対して、いや、話の中のチャチャの両親に対して、怒るもの、人はそこまで酷いことができるのか泣く者などが続出した上、今度は矛先がミツキに向かい、お前もそうなのか?と振られたところ、アタシはそこまでじゃないッスけども……と、探索者の両親を亡くして孤児院に引き取られたこと、孤児院での生活はあまり良いものではなかったこと、そして攫われ奴隷になったところを私に助けられたことなどを話したところ、やっぱり哀れに思われたらしく、結局、
「お前、苦労したんだな。これ食え。
これも、これも。」
「辛かっただろうに、これも美味いぞ、こっちも食え。」
という絡まれ方を二人はされているらしい。
まあ、善意での話であるし、チャチャなんかは喜んでごちそうになっているので、問題はなさそうだ。
ミツキも一緒で、言葉足らずなところは補填してくれているようだしな。
「ミツキも大変だな。」
「いや、ちっともッスよ?今は幸せッス。」
「いや、そうじゃなくて……。
そういえば、他の二人は?」
「ママさんは、あっちのセレブっぽい集まりで談笑してるッスね。
それなりに年齢のいったゴールドの探索者の人たちっぽいッス。
さっきまではサビラギ様の話や、ここの迷宮の話なんかをしてたッスよ。」
そういわれてミツキの指差す方をみると、ゴールドの探索者でも特に女性探索者が集まっているらしく、華やかな様子で笑いながら話をしているようだ。
あまり邪魔しないほうがよさそうかな?
「なるほど。じゃ、サナは?」
「これ作ってるッス。」
そういってミツキが掲げたのは氷製のジョッキだった。
持ち手も付いてなかなか立派なものだ。
もう【魔力操作】も自由自在だな。
でも、
「なんでまた、そんなものを……」
「最近、アタシ達、冷たい物飲むのに慣れちゃってるじゃないッスか。」
「あー、言われてみればそうだな。」
「で、そこに、ぬるい飲み物が出てきたので、軽い気持ちでスッと作って、そっちに移し替えたんスよ。
ところがそれが周りの目に止まって、なんだそれは、珍しい!という話になって、
「ああして、ジョッキ職人になっちゃってるわけか。」
「あれでも弟子のコップ職人が増えたので、落ち着いた方なんスよ?
最初なんて汗かきながら作ってたッス。」
「なんで、そこまで……」
「本人曰く、1個1銀貨で売れるから、ご飯のおかずが増やせるかなーって。だそうッス。」
さっき1億1千万円稼いだがばっかりだってば。
なんというか、あいかわらず庶民的というか、あれで白鬼族、族長継承権第2位なんだよな。
真面目というか、労働は尊いというタイプなんだろう。
さてその他にも場は、もうすでに十分に温まっている。
なんといっても主役は赤大喇蛄装備を落札して纏ったパーティーたちだ。
思い出話に花が咲いているのか、色々な人から声をかけられており、中には泣き出しているものなんかもいる。
意外と泣き上戸多いなこの会場。
それはさておき、求める者に渡ったという意味では競りに出して良かったな。
第九三七話 「チャチャとミツキ」
チャチャにゃ!
にゃんかよくわからないけど、いっぱいごちそう貰ったにゃ!
ねぇねも、いっぱい貰ってたので、今日はきっと良い日なのにゃ!
次回、第九三八話 「宴会を終えて」
うにゃ?これもくれるのにゃ?
ありがとうにゃ!
でも、これ、どうやって食べるのにゃ?




