第九三六話 「ゴールドたち」
「……あいつら遅いな。」
剣を競り落としたメンバーがギルドマスター室に戻ってこないので、話が進まないでいるのだが、それなりの時間が経っているので、ギルドのホールでは、酒と簡単なつまみモードから、本格的な料理が出始めているらしく、遠く離れた、このギルドマスター室にも、美味しそうな匂いがうっすらと香って来ているのがわかる。
キュゥ
この腹の虫はチャチャだな。
「ちーちゃん、お腹すいた?」
「うにゃぁ、匂いにお腹が返事したにゃぁ。」
「仕方ないっスよ、生殺し状態ッスからね。」
三人娘がそういいながら、チャチャのお腹をさすっている。
「後は、こっちでやっておくから、皆は先に行って、ご飯食べていていいよ。
まだしばらくかかりそうだし。
サオリさんも、付いて行ってやってください。」
サビラギ・サオトメの関係者だということは紹介されているので、まぁ、3人だけでも変な絡まれ方はしないとは思うが、サオリさんも一緒の方が安心だろう。
「ととさんは一緒に食べないのにゃ?」
「はは、たぶん食堂はごった返していて、もう皆で一緒に座るほど空いてないさ。
ととさんはいいから、隙間見つけて、先に食べておいで。」
「頼めば一席くらいつくってくれそうですけど、先にお腹に物を入れておいたほうがよさそうですね。
じゃ、みんな、先に行きましょう。」
私の言葉をサオリさんがサポートしてくれて、三人娘を連れギルドマスター室から出ていった。
それでもチャチャやサナは後ろ髪引かれているようだったが、「お仕事の邪魔しちゃ駄目ッスよー」とのミツキの後押しもあって、大人しくサオリさんに付いて行った。
「慕われてるんですな。」
「はは、ありがたいことです。」
換金部長の言葉がちょっとくすぐったい。
▽▽▽▽▽
それから20分ほどして、剣を競り落としたメンバーと赤大喇蛄装備を競り落としたメンバーの仲間達がギルドマスター室へと戻ってきた。
どうやらみんなゴールドの探索者らしく、簡単に紹介されたものの、特に絡むこともないだろうから、わりとうろ覚えだ。
一応、メニューのどっかには特徴と一緒にメモるくらいしておこう。
淫魔法【盗撮】と一緒に記録しておくほうが簡単か。
うち、ショートソードとロングソードを競り落とした二組は、所定の金額を払ってさっさと宴会の席へ意気揚々と向かっていった。
くそぅ、羨ましい。
残ったゴールドのパーティーはどうしても仲間の形見である赤大喇蛄装備を競り落としたかったらしく、内密にギルドマスターに借金をしていたようだ。
競りの符丁とは別の動きをしていることがあったので、それがギルドマスターとの交渉だったのだろう。
ゴールドとしての給料の前借りと、クエストのタダ働きを人数分、しかも、結構な量をもって、やっと手持ちと合わせ310金貨を用意できたようだ。
ギルドマスターからも、金額分、真面目に働くようにと、プラチナ装備に恥じない活躍をするようにと、激を飛ばされていた。
そういや、前に私達が着ている三頭大鮫革装備もプラチナ装備だとサビラギ様が言ってたっけ。
本来プラチナの探索者が着るような装備という意味の他に、値段も白金貨クラスという意味もありそうだな。
とりあえず、改めて赤大喇蛄装備を着直したゴールドの探索者と握手をして、落札を祝福しておいたのだが、感極まって泣いてしまって、ちょっと困った。
とはいえ、落札者は今晩の宴の肴でもあるのだから、もとの持ち主に恥じないようしっかりしろ、とギルドマスターに激を入れられ、涙を拭いて、両頬を自分の両手で叩き、気を取り直していた。
まぁ、いわれてみれば、最高額で最高装備を手に入れた貴方が今日の主役よね。
▽▽▽▽▽
皆に遅れること数十分。
やっとギルドの食堂に入ることができたので、とりあえず皆を探すと、
「お前、苦労したんだな。これ食え。
これも、これも。」
「辛かっただろうに、これも美味いぞ、こっちも食え。」
うーむ、予想に反して、そこにはミツキとチャチャが変な絡まれ方をしていた。
サオリです。
確かにこの香りの中、チャチャちゃんのお腹を空かせたままでいさせるのは、いささか酷な話ね。
とりあえず、少しでもいいから、なにかお腹に入れに行きましょう。
次回、第九三七話 「チャチャとミツキ」
その代わり、お酒はレン君が戻るまで我慢することにしようかな?




