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第九三四話 「赤大喇蛄装備」

 結論から言ってしまうと、赤の大喇蛄おおザリガニ装備に、同じく赤の大喇蛄の双剣は、最初に「ロットロット!」と叫んでいたパーティーが310金貨で競り落とした。


 300金貨で決まるかと思ったところに意地の10積みで競り落とした形だが、懐はそれほど大丈夫ではなかったらしく、途中、探索者ギルドからの融資を受けていたようだ。


 借金なのかタダ働きなのかまでは、聞こうとはしなかったが、手持ちの金額を集めてなお足りなく、それでもなお、手に入れたい遺品だったのだろう。


 メンバーの一人が着てみている赤大喇蛄装備を見て、涙を流して喜んでいた。

 雰囲気からすると、元着ていたメンバーの弟か関係者が着て見ているらしいな。


 あの頃のあいつにそっくりだ、などという声がひっそりと耳に入って来た。


 今回、私達が競りで手に入れたお金は、ざっくり1,100金貨。

 日本円にして、1億1千万円だ。


 何に使うんだこんな大金。


 ちなみにここから手数料が5%ほど取られるのだが、率で聞いていたから大したことないように感じていたものの、実際に550万取られますと、聞くとちょっと惜しいような気がしないでもない。


 まあ、競りも盛り上がったようだし、赤大喇蛄装備も収まるところに収まったようだし、で、結果良しとしよう。


 普段なら手数料10%取られるらしいしな。


 さて、懐が温かくなった者、涼しくなったもの、色々あれど、これで競りという一つの祭りが終わったことになる。


 が、この熱狂をそのまま解散させては、それこそ商売にならない。


 「この度は3つの宝箱を勇者殿に提供して貰ったが、明日宝箱を見つけるのは、お前かもしれない、それともお前か?


 なんにせよ、運よく見つかったこの3つの宝箱に乾杯をし、労い、また現れてくれるよう、祈らねばならない。」


 ギルドマスターが少し冷めかけた会場をそういってけしかける。



 「こまけぇことはいいんだよ、今日は飲むに決まってんだろ、で、ギルドマスター、何割引きだー!?」


 どっかでみた流れだな。


 「んんんんんんーーーーー、5割引きだ!!」


 「さすがマスター、太っ腹!」


 「ただし、飲み代だけだぞ!」


 ビャクの方のギルドマスターを思い出してしまうが、まぁ、こういう盛り上げとガス抜きは必要なものなんだろう。


 そういうことなら、今回も尻馬に乗らせて貰おう。


 「では、残り5割は、私のおごりということでどうでしょう!」


 ギルドマスターの声に負けないよう、大声でそう提案する。


 ぶっちゃけ、お前だけ儲けていいな的な視線がチクチクと痛いので、ちょっとでも緩和しておきたい。


 声をコントロールして【交渉】や【性技】にボーナスを得るスキル【嬌声】の乗ったその声は、今日は酒が半額で、もう半分は勇者が出す=ただ酒Day?という事実を探索者達の脳に沁み込ませた。


 「金袋のおそそわけ、と、いうことで、これは競りに参加していただいた感謝の気持ちと、これからもよろしくというご挨拶の気持ちです。


 是非、大いに飲み、騒いでください。」


 【嬌声】のせいか、音高らかに響いた私の声は、一拍の沈黙の後、


 「勇者レイン万歳!」

 「勇者一行万歳!」

 「サイコー!今日は飲ませてもらうぜー!」


 などなど、賞賛の声が上がる。

 なんかデジャブ。


 まぁ、多少現金なところはあるが、それはそれで構わない。

 この先、アサーキ共和国国内では、亜人族のための勇者、という立場を確立させていかなくてはならないのだからな。



▽▽▽▽▽



 とはいったものの、宴会に参加できるのはまだまだ後だ。


 実際には、遠くで賑やかな声を聴きながらも、ギルドマスター室で宝箱の中身の配分をしなければならない。


 赤大喇蛄装備も今は脱がれて元の宝箱(大)に収められている。


 さきほどのは試着を兼ねた換金部長の粋な計らいというやつだったらしい。


 回復薬系はゴールドらしき探索者達があっさりと所定の金貨を積み、「んじゃ、楽しませてもらうぜ、勇者様。」と軽口を叩きながらギルドマスター室を出て行った。


 魔剣のショートソードを競り落とした者とロングソードを競り落とした者は、今、アジトに金をとりにいっているそうで、遅れているようだ。


 賑やかなのは共同出資で大勝利を得たシルバーの探索者達だ。


 早く早く、とギルドマスターを急かしている。


 「とりあえず、丁度いい金額なので、その大金貨を全部ください。

 その代わり、残りに少し色をつけますよ。」


 と、申し出ると、是が非でもと食いついて来た。


 多少損はすることにはなるのだが、一口68,836円。

 つまり一口あたり68銀貨と83銅貨と60賤貨を人数分用意させるとなると、死ぬほど時間がかかりそうだからだ。


 それなら多少積んで切りの良い数字にした方が話も早い。


 と、いうわけで、17,209,040円相当の取り分に40,960円分相当を積んで、17,250,000円相当にして、1口あたり69銀貨相当にした。


 まぁ、もうちょっと積んで70銀貨相当にしても良かったのだが、プラス250銀貨は、おごり過ぎだと、怒られたので、ここまでだ。


 おかげで1人当たりの計算も儲けも早くなったので、ほくほく顔でシルバーの探索者達はギルドマスターの部屋を出て行った。


 20口20金貨出して勝負に出たシルバーの探索者なんて、一夜にして138万円相当の儲けだからなぁ。


 身を崩さないといいが。

 ミツキッス。


 ……11白金貨分の儲けってなんスか?!


 普段もアレッスけど、流石に桁が違いすぎてクラクラしてきたッス。


 次回、第九三六話 「ゴールドたち」


 これ、アタシ達が運搬者ポーターだってことにでもしとかなきゃ、身が危なくないッスか?


 いや、そうそう負けることはないとは思うッスけど。

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