第九三二話 「宝箱(中)」
「さて、来場の皆さんは、宝箱をを開けたこともある方もそれなりにいるとは思いますが、意外と、『少なっ!』っと思ったことはありませんか?
多少の貨幣と1~2個のなにかのアイテム。
大体そんなもんでしょう。」
換金部長のそんな声に、うなずいている探索者もちらほらいる。
逆に言うと、それだけ宝箱を見つけ、開けられるのはレアだということだろう。
「皆さんに良いお知らせがあります。」
続く換金部長の声に探索者たちが息を呑む。
「さすが深層の宝箱。この宝箱は『当たり』です。」
うぉぉぉぉぉぉっと、歓声のあがる探索者ギルドのホール。
会場のボルテージは最高潮だ。
「まずは、簡単なものから。
金袋。
重さとバランス、そして感触からして、賤貨から大貨まで混じってますね。
大貨は金貨の可能性もあるでしょう。
いくつかの宝石が混じっている可能性があります。
開けてしまうと競りになりませんから、カンと経験からいいますと、300枚は入っているかと。
まずはこれが一つ。」
探索者たちに見えるように、その貨幣類が入った革袋を宝箱の前に並べ、次の物品を取り出す換金部長。
「上級体力回復薬が2本、そして、上級魔法回復薬が2本。」
おー、と探索者から小さな歓声が上がる。
さすがに回復薬系は持っていると持ってないないとでは、命を分けることになるからな。
歓声が小さいのは薬の効果が大きすぎてゴールド以上の探索者じゃないと、市価ではコストパフォーマンスが悪いからだ。
逆に言うと競りで少しでも安く買えればラッキーな商品だろう。
「最後になりますが、次が凄い。ショートソードが1本、とロングソードが1本。」
おおっと探索者たちから歓声が上がる。
「長く迷宮に眠っていたせいか水属性の魔剣になっています。
ショートソードの方は魔力を込めると、小さな水の斬撃を飛ばすことができ、魔力がある限り連射も可能なようです。
ロングソードのほうも同様ですが、連射が出来ないかわりに大きな水の斬撃を飛ばすことが出来るようです。」
換金部長の鑑定結果に歓声が上がる。
そんな強い武器であれば、探索者からすれば、喉から手が出るほど欲しいところだろう。
「以上で、宝箱の中身は出揃ったが、なかなかの中身の充実ぶり。
しかし、これは『部分競り』
勇者殿は、この中から1つか2つ、中身を選び、自分のものにすることができる。
さて、勇者殿が選ぶのはいかに?」
ポージングをかえたギルドマスターと探索者たちの視線が刺さるが、最初から選ぶのは決めてある。
「それでは、金袋を一つ。
後は皆さんで自由に競ってください。」
なんだって!!っという、言葉がギルドマスターや換金部長、探索者達からも上がる。
まぁ、どう考えてもここは、ショートソードとロングソードの2つを選ぶのが当たり前だしな。
「な、なんと、まさかの金袋です。
と、と、いうことは?
魔剣の競りだーーーーーーーーーーーっ!」
めったに出ない品なのだろう、換金部長のテンションが高い。
「パパ、魔剣を選ばなくても良かったんスか?
どう考えても一番のお値打ち品ッスよ?」
気前が良すぎると感じたのか、ミツキがそんなふうに耳打ちしてきた。
『いいんだよ、今の私の格好だと、ちょっと変わった魔法が使えるからね。』
念話でそう返すと、納得行ったのか、ミツキは下がっていった。
なんだいつものインチキ魔法か、とか思われていないだろうか?
いや、実際インチキはしていないわけではないのだが。
ミツキッス。
まぁ、魔剣を選んだとしても、使う人いないッスからね。
アタシが使っても良いッスけど、だいぶ戦闘スタイル変えなきゃいけないッスし……。
え?なんスか?ママさん。
次回、第九三三話 「競りとインチキ」
え?そんな魔法が?なんてインチキ?!




